第26話:灰かぶり/Cinderella②

 すっかり感極まってもらい泣きしそうな生徒の懇願に、アルベルトは青い目をしばし瞬かせて――ふいににこっと笑うと、美羽たちの頭を優しく撫でてきた。

 「……へ?」

 「勿論ですとも。困っている良い子を助けるのは、魔法使いの十八番おはこです」

 ぱちん、と指をならして羽根ペンを呼び出すと、その場にすぐさま魔方陣が展開する。怯えて後ずさる妖精たちに、安心させるように微笑みかけて、

 「どうぞご安心を。淑女方に誓って、危害は加えません。

 そうだなあ、総丈そうたけは動きにくいかな。お若い方のようだし、軽やかな感じで……ああ、ちょっとすみません。目と髪の色を見せていただけますか?」

 『……?』

 「はい、どうも。大丈夫です、きっと素敵なドレスになりますよ――」

 語りかけながら綴った文字がブラウニーの足元で輪を作り、ぱあっと眩しく輝いた。一瞬の後、

 「よし。上手くいったみたいですね」

 「うわあ……!」

 『ほーっ!』

 妖精はすっかり様変わりしていた。地味な茶色のワンピースは、鮮やかな水色のくるぶしたけドレスに。かぶっていたシーツはどこかに吹き飛んで、下から現れたのは燃えるような紅い髪と碧玉の瞳だ。ドレスと同じ色のリボンで飾った髪は、きれいな編み込みにされて結い上げられていた。

 見ていた方も驚いたが、この変貌ぶりには本人が一番びっくりしたようだ。しきりに頬をぺたぺた触って、足元で喜ぶ小人さんを見て、最後にアルベルトに視線を向ける。それを受けて、

 「貴女達に服をプレゼントすると、家を出ていかなくてはいけないんですよね。なので、元々着ていたものを変化させてみました。

 これで好きなところに、好きなだけいられますよ」

 「よく似合っておるぞ。皆に見えんのがもったいないのう!」

 「よかったね! とってもきれいだよ、……えっと、何て呼ぼう」

 『……マナ。マナっていいます。ありがとう、お嬢様マイレディ

 「ううん、こっちこそ!」

 『ほ~っ♪』

 膝を折って丁寧に一礼したマナに、女子二人が飛び付いた。それに目を丸くして、すぐに泣きそうな顔で笑う。同じく跳ねて抱きついた小人さんとともに、しばらくの間楽しそうに笑いあっていた。

 「おい、いいのか。属性も変えちまってるが」

 「確かにもうブラウニーではないですね。さしずめ絹乙女シルキーといったところか。

 ええ、元々悪意ある存在ではないので、目の届く範囲で過ごしてくれれば大丈夫です。属性変更についても、行動が悪い方に行かなければ各人の裁量ということで」

 「……わりとゆるいな、魔術師協会」

 「ある程度遊びがないと、問い合わせで本部がパンクしますからね。……それにしても」

 そこでいったん言葉を切り、アルベルトは目の前で喜びあう一同を眺めやった。青く澄んだ瞳が、なんとも言えず優しく和んでいる。

 「良い子たちですねえ。本当に」

 「おう。お前もな」

 おぼろに霞む春の月が、笑いあう一同を優しく照らしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る