第24話:春の夜の悪夢⑤

 「そんな薄着でうろつくんじゃない。いくら春だからって夜中は冷え込むぞ」

 「むー、ちゃんと上着を着ておるだろうに」

 「それでもです、女性は冷えやすいですから。お茶会が風邪で延期になったら嫌でしょう?」

 「それは確かに……ってそうだ、さっき変な悲鳴が聞こえたんです! ほーっていう」

 「ああ、それはあれだな」

 「へ? ――うわあっ、木霊さん!?」

 『もふ~~』

 鴻田がこともなげに指さした先に、何やらぽこんと盛り上がった物体があった。よくよく見れば、今朝がた外へリリースしてやったのとほぼ同じ木霊が山と積みあがり、その底辺では圧し掛かられて身動きできなくなった小人さんが目を回している。西洋提灯を近づけて確認したアルベルトがふむ、とひとつうなずいて続けた。

 「どうやらレプリカーンのようですね。人家に棲みつく屋敷妖精の一種です」

 「おお、あれか! イングローズの童話に出てくる、働き者の小人のことじゃろう? 靴を磨いたり修繕したりしてくれるという」

 「ご名答です。彼らは集団で暮らす性質があるので、いるのはこの子だけではないでしょうけど」

 「いっぱいいるんだ、この子たち……」

 「ついでに木霊が集団で降って来てるのは、今朝がた立花に助けられた恩返しだろうな。無害な代わりに自分からは関わってこないが、良くしてもらったことはしっかり覚えてるんだ」

 『もふふ~~』

 「あ、ありがとう」

 鴻田の解説にこたえてか、てっぺんにいたふわふわがぽーんと美羽の手元まで飛んできた。みんなよく似ていてわかりにくいが、たぶん助けた子、なのだろう。軽くなでてやると、嬉しそうに『もふっ♪』と鳴き返してくれた。やっぱり可愛い。

 「そういえば、さっきレプリカーンとは違う影を見たぞ。タマコが寝起きに目撃して大騒ぎしておったようじゃ」

 「ああ、さっきの悲鳴は霧生院さんでしたか。気の毒に、今日はよくよくツキがない日なんですね」

 「……お前が言うか、それを」

 そんなやり取りを聞きながら、木霊を放してやった美羽はヨサク、もといレプリカーンに近づいた。よいしょ、と引っ張ってやると、思ったよりも簡単に脱出させることが出来た。そっと地面に降ろしてやると、不思議そうにこっちを見上げてくる。

 『……ほ?』

 「ごめんね。いきなり掴んだから怖かったでしょ? ブーツをきれいにしてくれて、ありがとうね」

 『ほ~♪』

 優しく頭をなでると、レプリカーンは気持ちよさそうに目を細めた。しばらくそうやって撫でられてから、おもむろにぴょんと立ち上がって走り出す。寮に向かってとことこ行きかけ、振り返ってちょいちょいと手招きをしてきた。後ろからアルベルトが楽しげに言い添えてくる。

 「どうやら、もうお一方のところまで案内してくれるようですね」

 「えっ、本当!? いいの?」

 『ほ~~♪』

 ご機嫌でうなずく小人さんを追いかけて、一同は再び寄宿舎へと向かった。


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