第15話:妖精について私が知ってる二、三の事柄③
「――おーい、そろそろ授業の用意しろ」
そんなにぎやかな教室に、すっかり耳になじんだ呼びかけが響いた。その場の一同がばっと振り返ると、今まさに入ってきたところの鴻田の姿が。
「元気なのは結構だが、もうすぐ予鈴鳴るぞ。一限目は家政室まで移動だから、霧生院は廊下に並ばせて連れて行ってくれ。
あ、紅小路と立花はちょっと待っててくれるか。伝達がある」
「「はーい」」
「う、……わ、わかりましたっ」
さすがに担任の前で続きをやる勇気はなかったようだ。一回ぎろっ、とキツい一瞥をくれてから離れていく委員長にこっそり息をつきつつ、美羽は杏珠をひじでつついた。
「もう、あんなに言っちゃ可哀想だよ。名前が古風すぎて嫌だって気にしてるんだから」
「ふん、嫌なら最初から噛みつかねばよい。自分の都合ばかり押し付けおって、ムシが良すぎるとは思わんのかの」
「はいはい、ケンカはほどほどにしとけよ。……でだ、立花。なんか連れてないか?」
「あ、はい。この子が」
『もふー』
慌てて広げた手のなかで、さっき捕まえたフワフワは元気にしているようだった。なるほど、これを聞くために残したのか。
「おおっ、可愛いのう! よーしよし」
『もふっ♪』
「霧生院さんの頭に乗っていて、びっくりしました。この子もイングローズの妖精さんでしょうか」
「いや、こいつは桜華に元からいたやつだな。
「って、山で叫ぶと返ってくるアレか?」
「一般的にはそっちが有名だが、元々は単に木の精霊って意味だ。ここらへんは桜の古木が多いから、こいつらも棲みやすいらしい。窓から放してやれば戻れるだろ」
「はい。行くよー、せーのっ」
『もふ~~~~』
高い高いをして遊んでやっていた杏珠から木霊を受け取り、窓から放ってやる。するとちょうど吹いてきた風に乗って軽やかに舞い上がり、そのまま中庭の桜まで飛んでいった。いつの間にか枝に並んでいた仲間たちとポンポン跳び跳ねているのが見える。再会を喜んでいるようだ、よかったよかった。
「さて、じゃあ遅れないように移動しろよ。あーそれと」
「はい?」
「今日の二限目があいつの授業始めになる。慣れないとこもあるだろうが、よろしく頼むぞ」
「おうとも、任しておけ! なっ美羽」
「あ、は、はい……」
そういえば今日なんだった。一体どんな授業になるのやら。
なにやら朝っぱらから疲労を感じて、美羽はこっそりとため息をついた。
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