第16話:断章 独白①
――誰かが、私たちを探している。それに気づいたのは、ほんの数日前のことだった。
流れてくる黒い煙のせいで雨が汚れて、それに触れた大地も汚れて。そのせいで人の心も荒れてきて、今までのように暮らすことが難しくなった。困っていた時に運よく助けを得て、住み慣れた土地を離れて海を越え、長い旅を経て違う国へやって来た。
たどり着いた東の島国は、生まれ故郷とは全然違っていた。冬でもどことなく風が温かいし、空も明るい。春になれば、見たこともない美しい花が木の枝いっぱいに咲き乱れる。少しずつ近代化というものが進んでいるようだが、まだまだ昔ながらののんびりした暮らし方が多く残っていて、とても落ち着く。
こちらは住まわせてもらっている身、元々こちらにいるひとたちを脅かすつもりは全くない。ときどき、出合い頭にうっかり『視て』しまう若い子がいるけれど、事故のようなもので悪意はないのだ。
……けれど、そう言って聞いてもらえるかどうか。ここまで追い出されたら、本当に行くところがなくなってしまう。
願わくばどうか、ほんの少しでいいから、平和な時が長く続きますように。陰の中でひっそりと、あてのない祈りを捧げた。
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