第9話:ラボラトリーで朝食を②

 本日は週末にて、授業はすべてお休みだ。校舎は寄宿舎と教員棟、あと各々が課外活動で使うところ以外を施錠してあり、敷地内を歩くと普段よりも静かに感じられる。

 そんな中、猛スピードで身支度を整えた美羽は、再び外国語教諭の研究室へと向かって階段を上っていた。ただ昨日と違い、となりにはこれまたしっかり準備を整えた杏珠が付き添っていたりする。

 「……わざわざついてこなくてよかったのに」

 「たわけ。昨日倒れたばかりの友人をほっぽってのほほんと過ごすような人間に見えるか、わらわが」

 「いや、見えないけど」

 「だったら黙って付き合わせい。大体年頃の乙女が、いくら教師とはいえ男子のところに一人で行くものではないぞ」

 「……はあい。肝に銘じます」

 普段は常識をブーツでぺったんこにすような破天荒ばかりしている杏珠に、エチケットについて諭されるというのもなかなかないパターンだ。それだけ心配をかけたということなのだろうし、こういうときは大人しく厚意を受け取っておくのが友達甲斐というものだろう。うん。

 そんなやり取りをする間に、目的の部屋の前へとやって来た。ただ単に事実確認と、いくつか聞きたいことがあるだけなのに妙に緊張してしまう。何度か深呼吸を繰り返してよし! と意を決し、いざノックしようとしたところで、


 がちゃ。


 「わあ!」

 突如、内側からドアが開いたせいで空振りに終わった。あわてて体勢を立て直していると、頭上からよく聞き知った声が降って来る。

 「――おお、立花たちばな紅小路べにこうじか。休みなのに早いなぁお前たち」

 「鴻田こうだ先生!」

 「いや待て、何ゆえこんなとこに先生がおるのじゃ」

 「なにゆえ、って、同僚のとこに顔出しちゃまずいってのか」

 「そこまでは言わんが、立ち位置というかきゃらくたーというか、とにかく方向性が真逆じゃろ? ふたり一緒におるとみょーな化学変化が起こりそうじゃ」

 「起こらん起こらん」

 ずけずけと思ったことを口にする杏珠に怒るそぶりもなく、冷静にツッコミを入れているのは担任教師の鴻田だ。今日は生徒同様に非番である相手は、美羽に目をやってほっとした様子で続ける。

 「昨日は大変だったと聞いたが、だいぶ元気になったらしいな。安心した」

 「あ、はい。ご心配をおかけしました」

 「好きでやってることだから気にするな。さて、二人の用事はあいつの方だな?

 おーい、お前にご面会だぞ。部屋に入れるが構わんかー」

 「――はーい。どうぞお通ししてください!」

 奥から飛んできた朗らかな返事に、鴻田が扉を大きく開けてくれた。そのとたん、ふわっと甘い香りが女子二人のところへ漂ってくる。顔を見合わせつつ中に入ってみると――

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