第58話尋の重大発表癖
リビングに通されると、ソファに腰掛けてバラエティ番組をゲラゲラ笑いながら見ている母さんがいた。
ちょうど晩御飯を食べ終えてくつろいでいたようで、ソファの前のテーブルにはコーヒーとクッキーでティータイムをしていた。
親父はのそのそとテレビを見ている母さんの肩を叩くと、母さんは俺の姿に気付いて手をあげた。
「よっ。お帰り」
なかなかに若々しく淡々としたお出迎え。もうちょっと、久しぶりに息子が帰ってきたのにさあと思ってしまうが、これが我が実家の平常運転。
「本当に久しぶりだね。嬉しいよ。コーヒーでいいかな?」
「あ、すまない。ありがとう」
うんうん、親父の出迎え方こそ親の出迎え方じゃないのかな。ドラマで見た事あるような感じのやつ。
親父はニコニコとしながら、俺のコーヒーをバリスタというコーヒーマシンで入れ始めた。
……バリスタ買ったんだ。還暦を迎えた親父と五十代の母親の二人暮らしだがなんともまあ若々しい買い物だ。
「ふふふ、最近はコーヒーがこんなに簡単に飲めちゃうからね。家でカプチーノが飲めちゃうんだよ。びっくりだよね」
親父はバリスタを指差して、和やかに微笑んだ。相当なお気に入りなんだろう、顔が柔らかだ。
「俺は家にバリスタがある事がびっくりだよ」
「私はあんたが帰ってきた事にびっくりだけどね。どうしたのさ、急に」
親父にツッコミをいれて和やかな会話を展開する中に、母さんが割って入る。
聞いてきた後に、コーヒーを啜り俺をジロリと見た。
「いや、ちょっと懐かしい夢を見てさ。その時に思い出した事で聞きたい事も出てきて」
「そうなの? あんたの事だから結婚するとか言い出すのかと思ったよ」
恐るべきは母親の第六感か。
本来の目的は夢で見た事を聞く事だが、ついでにいなりの事を言っておくべきとも思っていた。
まさか、予想されてしまうとは。
「そ、そんな突然の重大発表あると思う?」
「あると思うね。思い出してみな。就職したら家を出るとは言わずに一人暮らしの三日前で報告したじゃないか」
「あ、そんな事もあったなあ。あははは……」
母さんが白い目で俺をジロリと見て、俺は乾いた笑いで誤魔化した。
ああ、確かにそう思われても仕方ないよな。
むしろ、思われてるなら発表してもいいかもしれない。でも、その前にだ。
「ま、まあ、それよりも聞きたい事があってな。コロを飼った時ってなにかあったっけ?」
これこそが本題。母さんの白い目からとりあえず逃げるべく話題を元の道に戻した。
母さんはキョトンとした顔をしてすぐに呆れた顔に切り変わった。
「ああ、あったよ。コロを飼った時もあんたからの重大発表があったからね」
母さんは再度俺を白い目で見つめたが、覚えてない俺は笑って誤魔化す事も出来ずに気まずい沈黙が流れた。
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