第40話いじられないと違和感感じるんですけど
定時のチャイムが鳴り響き、作業場全体に業務終了が告げられる。
途端にざわつく作業場。みんな各々片付け始めていく。
そんな中、俺はというと恥ずか死しかけていた。
今日はなにやら阿佐がやたらと俺を褒めてきたせいだ。
いつも俺を馬鹿にしていたような奴なだけにすごく以外で、そのせいかすごく恥ずかしかった。
「終わった。ほら、早く片付けるぞ。今日は帰ろう」
俺は使用していた道具類をしまいながら、阿佐に早く帰れるよう促す。
これ以上恥ずかしくなる前に一旦帰ろうという魂胆だ。
「そうっすね。……巣山さん、今日ってこの後用事とかあるっすか?」
「ん? ああ。ちょっと行きたいとこあるかな。なんで?」
「いや、ちょっとどっか遊びに行きましょうと思ったんすけど、大丈夫っす!」
珍しいこともあるもんだ。仕事終わりに誘われるなんてな。
いなりがいなけりゃ喜んで行ってたかもしれないがな。
それに、阿佐も別に大丈夫って言ってるし大丈夫だろう。
「そうか。なら、さっさと片付けて帰ろうぜ。昨日も今日も阿佐は大変な仕事してるし疲れてるだろう」
片付けする手が少しぎこちなくなってる阿佐を気遣いつつ、本日の作業記録をまとめにかかる。
昨日は定時ギリギリの作業だし、今日は俺がちょっと抜けてたから阿佐も大変だっただろうしな。
「はいっす」
阿佐は道具類をケースにしまい、使用したものが一点一点問題なくある事を確認しながら頷く。
最後は俺が使ってるペンで使用道具の確認も終わるだろう。
俺は作業記録を書き上げて、不備のないチェックをし、ペンを阿佐に手渡した。
「じゃあ、頼むよ」
「オッケーっす! じゃあ、片付けてくるっす!」
阿佐は道具の入ったケースを持って、管理室の棚へとしまいにいく。
今日の阿佐は変だったなあ。
俺は阿佐の背中を眺めながら、ぼんやりと阿佐の様子のおかしさに思案する。
なんというか褒められ慣れてないからだろうけど、阿佐っぽくない。
なんか悩んでるのか、何気ない会話をきっかけに思った事を言ったのか。
まあ、変に掘り下げる事はしないが、悩みを聞いて欲しいというSOSなら聞けるようにしてやろう。
若干の先輩風を吹かせながら、小さな決意を胸に秘めた。
「片付け終わったっすよー! 早く帰るっす! トロい事したらダメっすよー!」
俺の決意を知らぬ阿佐は、俺に向かって手をブンブンと振って、終わった事を知らせてきた。
その姿はいつもの阿佐で、いつも通りちょっと俺を小馬鹿にするような一文を添えていた。
うん、なんかしっくりくる。
いじられるとしっくりきて、いじられないとむず痒い。
セルフエスエムとか、いなりと出会った時に口走ったけど、まさか本当にマゾ?
自分の本当の性癖を知りそうになる前に小さく首をふり、そんな事ないとちょっぴり否定しておいた。
そんな事ない……よな?
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