第39話憧れの先輩っす
昼休みにいなり分をチャージした俺は、作業場へと舞い戻り、午前中の遅れを取り戻すべく張り切る。
発奮した俺を止めれるものは定時のチャイムだけだ。
「あ、巣山さん。そこもう終わってるっす」
「……あ、はい」
俺を止めるのは定時のチャイムだけではなかった。
阿佐が後ろから、今俺が見てる製品は検品が完了していると告げ俺の手がピタリと止まる。
「ちなみに見て欲しいのはこっちっす。残りはこんだけなので」
「え、これだけ?」
「はいっす」
阿佐が指差す先には、おおよそ定時で検品完了するだけの量の製品だった。
阿佐はしれっと言ってのけたが、俺が抜けた分大変だったはずなのに。
俺は頑張った阿佐を褒めるべく、阿佐に向かってサムズアップした。
「阿佐、やるなあ。さすが俺の直属の弟子だ」
「まあ、私は天才っすから」
「調子に乗るな」
「あいた! うう、巣山さんの真似しただけなのに」
褒めた瞬間調子付いた阿佐の頭頂部にチョップを振り下ろす。
阿佐は、頭頂部をさすりながら俺の真似をしただけと抗議してきた。
……確かにしてたが、そんな事まで真似するんじゃない。
阿佐が俺の真似をしてるからか、仕事に関しての不満は割とないんだが、なんだか心配になるレベルだ。
今日の仕事のスピードも、多分俺がたまに昼休み削って遅れを取り戻してたの知ってるから同じ事をしたのだろう。
「でもまあ、そんな頑張る事ないんだぞ。後輩は先輩に甘えたらいいんだ」
「巣山さん、私は巣山さんに甘えて、後ろを付いて行きたいんじゃないっす。巣山さんの右腕でありたいっす」
「ははっ、俺の右腕か。最強の右腕だな」
「ほんとっすよ? 知らないでしょうけど、私、巣山さんに憧れてるっす」
阿佐の奴、頭でもうったのだろうか。
真剣な眼差しで俺に憧れてるなんて言うもんだから、思わず頭が心配になる。
俺は普通に仕事して、普通に教えてるだけなんだが。
「憧れるとこなんてあったか?」
「めっちゃくちゃあるっすよ? 例えば昨日の仕事にしてもそうっす。他の人が帰る中、巣山さんも帰れるのに私を手伝ってくれたじゃないっすか。そういう積み重ねっす。私が困った時助けてくれたり、他の人が嫌がる残業を率先してやったり、それから……」
「ストップストップ。それ以上は俺が恥ずかしい」
急に俺を褒める要素を挙げだす阿佐に、俺は恥ずかしくなって諌める。
褒められ慣れてないからすごく恥ずかしい。
それに、挙げられた事も実際やった事だから否定するのもおかしな話だし、ならばと強引に話を切った。
「巣山さん、なんで遮るんすか。まだ、序章もいいとこっすよ」
「恥ずかしくて手が止まるっての。全く。憧れてくれるのはありがたいけど、心に秘めててくれ」
「嫌っす。私は目指せ第二の巣山っす」
阿佐との何気ない会話から、カミングアウトされた俺への憧れ。
今まで聞いた事もなかっただけにむず痒い。
そして、本日の作業は阿佐とペアで定時までだ。
その後、カミングアウトをキッカケに定時までの間延々と俺が阿佐にした話をずっと語られるのであった。
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