第18話天然と天然のイチャイチャ
「うう……。もうお嫁に行けない……」
「もう、来てるじゃん」
「気分の問題じゃ……」
未だ勝負下着事件から復活しないいなりは、何分かに一回、思い出したかのように顔を赤くしながらぶつぶつと呟く。
今も晩御飯のチキンソテーを作りながら、トングを置いて頭を抱えていた。
俺は味噌汁の味噌を隣でときながらツッコミをいれるが、いなりはまだ恥ずかしそうにうめく。
しっかり尾を引いてるようだ。可哀想に。
「まあ、そうやって恥ずかしいのかもしれないけどさ、俺の事を考えて選んでくれた事が嬉しかったな。いじらしく思えた。いじらしくって愛おしいな」
俺は味噌汁の火を止めて、豆腐を賽の目に切りながらニコニコ笑って言った。
嘘ではない。
下心もあるが、単純に俺の事を考えて可愛く見られたいから買ってくれるというその行為がとてつもなくいじらしくて可愛いと思える。
そんな背景があるから、めっちゃくちゃ高かった下着セットもむしろ安く感じた。
「い、愛おしい!?」
いなりは目を見張って俺を見て叫ぶ。
耳はピンと張り、頬は赤くなるのがデフォルト化している。もはや天然チークだな。
「ああ、俺は愛おしいって思った。だって俺の為にそこまで恥ずかしくなるのに選んでくれて、嬉しくないわけないよ。ま、まあ経験値はゼロだし一般的意見じゃないかもしれないけどさ、いなりの旦那としてはすごく嬉しいよ」
あれ? これ言いながらすごく恥ずかしいぞ?
顔が熱くなっていく感覚を感じ取り、誤魔化すように水を流して手を洗う。
水流の音と冷たい温度が少し照れた脳を冷静にしてくれたような気がした。
「う、うう……。ずるいのじゃ……。そんな事言われたら妾、幸せすぎて死んじゃう……」
涙目になりながら口角をぐっとあげてにやにやして呻き声を上げるいなり。
恥ずかしいのに嬉しい気持ちが抑えられなくなったのか、ニヤニヤが止まらないご様子。
喜んでもらえてよかった。
……なんか焦げ臭いな。あれ?
「い、いなり! お、お肉ひっくり返さないと!」
「え? あ! し、しまったのじゃ! 忘れておった!」
焦げた香りで我にかえり、いなりは鶏肉をひっくり返す。
セーフ、若干焦げ目はあるものの焦げ付いてはいない。
「あ、危なかったのじゃ……。お肉は妾と一緒じゃな、火をかけられるとすぐに燃えてしまうのじゃ。妾も尋のせいで心が熱くなってしもうた」
……おいおい、いなりさんよ。動揺して変な事を口走ってるぞ。
ぽつりと呟いたようだがこの距離は流石に聞こえた。
天然で返され今度は俺が口角を上げてニヤニヤとする。
可愛いな、うちの妻は。そんな事を考えながら俺は味噌汁をお椀によそった。
それからのいなりは思い出して呻き声をあげる事なく料理を作り上げた。
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