第16話第一次おむね大戦争
「そういえばさ、なにしにここに来たんだ? 私が言うのもなんだけどこんな怪しい店来る人はそういないぞ」
ふと思い出したようにたまちゃんが疑問を口にする。
そういえば目的があったんだ。キャラが濃すぎて脱線してたけど、重大な目的が。
「ああ、そうそう。いなりの服を買いたいんだ」
「そうなのじゃー! 可愛い服と、下着が欲しいのじゃー! さらしじゃちときついからのう」
いなりを指差して服を買いたい旨を伝えると、いなりがピンと手を挙げて同意する。
うん、うちの妻は花丸元気。
ただ、下着が欲しいってのはちょっとボリューム落とそうね。
「……本気で言ってるのか? 服はまあいいとして、さらし? 女子力なさすぎるだろう。私でもブラとショーツは良いもの選んでるぞ?」
「だ、だって、妾のサイズだと可愛いのがなくて……」
「……ぺっ。やる気なくなった」
女子力がないと口撃するたまちゃんに、いなりはしゅんとして自身の人差し指を突き合わせる。
隠してなければ尻尾も耳も垂れ下がってるのだろう。
だが、なぜかたまちゃんの態度が急に悪くなり、おおよそアパレル店員とは思えない表情でいなりを睨んだ。
「ちなみにサイズは?」
「Fなのじゃ」
「……チッ。もげろ」
一応は店員。客の要望に応えるべく、たまちゃんはいなりのサイズを聞く。
そして、いなりのお胸がすこぶる大きめである事実が発覚。
ニヤニヤ笑顔になる俺と般若の形相になり舌打ちまで飛び出すたまちゃんという両極端の二人がいなりを見つめていた。
「あー、同じエってつくのにAとFってなんでこうも違うんだろうな。なんでだろーなー!」
「ふあ!? え、た、たまちゃん!? や、やめるのじゃー!」
怒りが爆発したのかたまちゃんはいなりの胸を思い切り掴み、揉みしだく。
いなりは嬌声をあげ、赤面しながら抗議するものの一向にたまちゃんはやめる気配を見せない。
けしからん!(建前)
もっとやれ!(本音)
心の中で俺はスタンディングオベーション。
たまちゃんの行動は一人の童貞の心を踊らせたと大絶賛するものの、一応紳士的にそっと諌める。
「たまちゃん、ちょっとだけ落ち着こう」
ちょっとに目一杯の祈りを込める。落ち着くのはちょっとでいいんだ。やめることはないんだぞ。
「そ、そうだな。熱くなりすぎた」
だが、俺の祈りは虚しくもたまちゃんを落ち着かせら事に成功してしまう。
言いくるめはファンブルして欲しかった……。
たまちゃんがいなりの胸からそっと手を離したを見つめ後悔に苛まれる。
おいおい神様! あんまりじゃないか! と祈りが届かなかった怒りを神様にぶつけるが、神様ここにいた。
「も、もう……。たまちゃん、なにをするのじゃ!」
「無い者の怒りだ。ほんとはもぎ取るつもりだった」
「ぶっ、物騒なのじや……」
いなりはたまちゃんに猛抗議するものの、たまちゃんは抑揚のない声で淡々と告げる。
いなりは怯え自身の胸を庇うように両手で抑えていた。
「まあ、流石にやり過ぎた。反省も後悔もしてないが、まあ悪い事をしたと口だけは謝る」
「さ、最低なのじゃ!」
「うるさい、私の私怨だ。口だけの謝罪でもありごたいと思え」
「り、理不尽じゃー!」
悪びれもせずに口だけの謝罪をするたまちゃんに怒り心頭のいなり。
だが、たまちゃんは反省の色を全く見せず、いなりはぎゃーぎゃー喚く。
そんな神様対仙人のやり取りを俺はただただ微笑ましく眺めていた。
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