第15話人外ネットワーク拡大中

「すみませんでした、反省します。もういなりをからかいません」


 たまちゃんは、めちゃくちゃ嫌そうに憮然とした顔をして心無い謝罪を口にする。


「カチカチ」


「や、やめろ! 悪かったって!」


 反省してないたまちゃんに弱点を言うと即効で素直に謝る。


 最初から素直に謝ればいいんだ。


「はあ、全く。いなり、お前のコレはサディストすぎるぞ。夜が大変なんじゃないのか?」


「それが尋は全く妾に手をつけないんじゃ。童貞じゃよ」


「え? ……ふーん」


 たまちゃん、やめてくれ。股間を凝視して半笑いするんじゃない。


 あと、いなりもそんなトップシークレットを言うんじゃない。


 攻めたことのない兵士だと言ってくれ。あれ? 目から水が。


「そ、そういえばたまちゃんは仙人なんだよな?」


 童貞トークで盛り上がる前に話をすり替えるパワープレイ。


 それに単純に気になるし。


「ああ、げんこつ山出身のな。悠久の時を経て仙人となったたぬきだよ」


「え、たぬきなの? あと、何歳なの?」


 パワープレイで話題を変えただけで気になる事をポンポンと詰め込むたまちゃん。


 今の二言の濃度といったら、原液のカルピス並みの濃度だ。


「何歳だったかな、千から先は数えてない」


「え? たまちゃん妾と同じで二十五歳じゃろ?」


 どや顔で、数えてない。と言った直後にいなりに暴露されてしまう悲しき仙人。


 そして、いなりの年齢も発覚。


 なんだよ、仙人も神様も俺と同い年かよ。


 たまちゃんはカチカチと言われた時よりも震え出している。羞恥心がそうさせてるのだろう。


「調子狂うな。人間を化かし、からかうのがたぬきの性なのに」


「ハハッ、たまちゃんは昔から変わらんのう。悪戯好きなのは相変わらずじゃ」


「はあ。それを言うならいなりも昔から馬鹿正直というか。……まあ、馬鹿正直だからこそ今があるんだろうが」


 いなりをじとーと見つめ、不満を漏らすたまちゃんに、いなりはケラケラ笑って返す。


 たまちゃんは呆れたようにため息を漏らして肩をすくめると、呆れた表情のまま俺を見た。


「えーと、いなりが尋って呼んでるから私も尋と呼ばせてもらっていいかな?」


「え? ああ。大丈夫」


「いなりは馬鹿正直で超が付くほど真っ直ぐだ。それ故に困る事もあるかもしれない。その時は私のとこにおいで。最初はいじってやろうと思ってたが、いなりが変わってない事から察するに天然攻撃で苦労してそうだから」


 たまちゃんは可哀想なものを見る目で俺を見ながら同情的な言葉を口にする。


 どうやら仙人様に心配される程、うちの妻である神様は真っ直ぐで天然らしい。


 真っ直ぐで天然かー。思い当たる節がな……。





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






「あ、や、やっと出た! 出るのが遅いのじゃ! 妻が来たのじゃからさっさと出るのじゃ!」


「ダメじゃ! 旦那様は妻を幸せにしないと! 呼び捨てで呼んでくれないと妾不幸じゃなあ」


「ふっふーん。夫婦の仲良しの秘訣は一緒に風呂に入ることと昔拾った書物に書いておったからのう」





 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 あったわ。思い当たる節が。


 むしろ思い当たる節しかない。


「……ありがとう、ほんと助かる」


「うん。まあ、頑張りたまえ」


 感謝を述べてたまちゃんに頭を下げ、たまちゃんはぽんと俺の肩を叩く。


 俺は神様を妻にして、なおかつ仙人という強力な協力者を得られた。


 ……ひょっとしたら俺は人間をやめ始めてるかもしれない。


 急に出来た人外ネットワークに、俺はふとそんな事を考え始めた。

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