第14話いじりつついじられつつ

「しかしなんでたまちゃんがここにおるんじゃ? 確かたまちゃんはげんこつ山の仙人じゃったような」


 いなりが言うにはこのたまちゃんはげんこつ山に住んでいた仙人らしい。


 げんこつ山といえば俺が小学生の時に遠足で行った事がある。


 山の頂上に仙人様のこぶしをかたどったと言われる岩があるからげんこつ山っていうんだよな。


「ああ、暇だから降りた。ここは遊ぶ金欲しさに働いてる」


 げんこつ山の仙人様は適当なようだ。


 たまちゃんはあっけらかんにそういうと自身の親指と人差し指でお金を表しにやりと笑った。


 ぶっちゃけすぎだろう仙人様。あなたの手をかたどった岩が泣いてるぜ。


 というかほんとにこの人手をかたどったのか? 華奢すぎて岩どころかタンポポの綿毛くらい柔らかそうだが。


「む、なんだ私の手をジロジロと見て。視姦か?」


「あんた何言ってんだ!」


 確かにジロジロと見てしまったが、視姦と言われるとは。


 ジロリと睨むたまちゃんに呆れたツッコミをいれる。


「全く。ジッと見られたら照れるだろう。妊娠したらどうする? 孕ませようという魂胆か?」


「な! ひ、尋? まさかたまちゃんを妊娠させようとしておるのか? 結婚二日目にして浮気なのか?」


 たまちゃんの妄言にいなりが反応を示すという俺にとって好ましくない化学反応が発生する。


 メーデーメーデー! 非常事態だ、深刻なツッコミ不足である。


 多分たまちゃんはわざと言ってるんだろうけどいなりの声音はおそらく本気で慌ててる。


 俺が好きなのはいなりだけだと言ってもいじられそうだし、話を流したりすればいなりがもっと慌ててしまうかもしれない。


 どうあがいてもちょっと面倒だな。だが、いなりが可哀想だし誤解は解いておく。


「いや、浮気なんてあり得ないよ」


「ほ、ほんとかのう?」


「ああ、いなりがいたらいいよ」


「……良かったのじゃ」


 とりあえず浮気を否定し、いなりはホッとした表情で胸を撫で下ろしていた。


 良かったという安心感とともに、こんな馬鹿正直にたまちゃんの嘘を信じそうになるいなりの正直さを心配になる。


「ああ、暑い。空調壊れてるんじゃないかな、この店」


 俺といなりを横目で見ながら服をパタパタ、手で顔を仰いでアピールするたまちゃん。


 その平坦な胸が見えそうで目のやり場に困るからちょっとパタパタはやめようか。


 こう、いなりといいたまちゃんといい無防備なのは目のやり場に困る。嬉しいけども!


 ただ、たまちゃんの場合はわざとの無防備な可能性があるんだよなあ。


 せめて、一矢報いてやりたいところだ。


 やられっぱなしでは悔しいので、俺はいなりにこっそり耳打ちする。


「なあ、いなり? たまちゃんってなにか弱点とかある?」


「たまちゃんの弱点? そうじゃなあ、昔カチカチと言ったら怖がってた記憶があるのう」


「カチカチ?」


 いなりのいうたまちゃんの弱点はあまり良くはわからないが、言うだけで怖がるならちょっとやってみるか。


 ちょっぴりの復讐心を胸に宿し、たまちゃんに声をかける。


「たまちゃん? カチカチって言われるのが苦手なの?」


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 え?


 たまちゃんの表情がいきなり青ざめ声にならない悲鳴とともに、ポンっと茶色の丸みのある耳と尻尾が現れた。


 その姿はまるで、たぬき?


「に、二度と言うな! 私はその言葉が苦手なんだ! 小さい時にライターで遊んでた時に誤って火傷してしまってな。未だにカチカチという音が頭に残ってて思い出しただけでも……! だからやめるんだ!」


「へえ、それはいい事を聞いた」


「し、しまった!」


 ここまでの効果は期待してなかったが、一矢どころか二矢も三矢も報いた。


 本人のお墨付きを頂いた弱点を知った俺はニヤリと笑い、先程まで俺をいじり倒してた仙人にマウントを取った。

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