第055話 青光
『可能性の低さにやはり躊躇してしまう』
覚悟を固めたとはいえ、
それを感じ取った
「やめておくか?」
「死ぬ可能性が高い
「いえ。私は行きます。今は亡国の危機です。守りはエディにお願いしましたが、それは私達が援軍を連れて来る事を前提にしています。多くの市民を守るために逃げるわけにはいきません」
震えは止まり、彼女らしい凛とした表情に固い決意が上乗せされていた。
「それにレヴィスター様は私の
会話にヴェスが立ち入ってきた。
「
視線だけをヴェスに向けた
「たぶん世界でも指折りのヤツだ。ヴェスじゃないと無理だろう」
魔王(レヴィスター》が続けた。
「俺はお前以上に能力のある
「ニヤつくなって。ドワーフの緻密さなら充分に知ってるよ。さらにバグディが噛んでるならかなりのレベルなのは想像つくよ」
ヴェスはやる気に満ちているように見えた。克服する課題が難しいほど燃えるタイプであるからかもしれなかった。
「私はどんな役割を果たせば良いのですか?」
「ヴィッキーにはヴェスが扉を開けた後に
「えっ⁉︎ゴーレムを抑える?私が?」
先程までゴーレムの強さを伝えていた
「さすがにそれは無理ではないですか⁉︎」
思わずティスタが話に噛んできた。
「抑えるのであって、倒す訳じゃない。ドワーフ達もお前達と同じ
「私が教会に従事している事がどのように役立つのですか?」
「これはバグディから聞いた話だが、ドワーフ達は異教徒からの侵略を阻止するために
「はぁ、そんなものでしょうか?」
「ああ、間違いない。本人から聞いた話だからな」
「それでどのようにすれば
「すまんが、その方法までは分からない」
「そうですか。では、行ってみて考えるしかないということですね」
そう言って微笑んだ。
「我が主よ。敬虔な信者の為に我が願いを受け入れ、不動なる物を動かして給え」
祈りの言葉に石造りの祭壇が反応した。引きずりながら床を擦る音を立てて、祭壇は少しずつ横に滑りながら動いた。そして動きが止まると下り階段が現れた。その先は暗くてよく見えなかった。
「こんな仕掛けが…」
ティスタは絶句した。ヴェスは動揺した様子はなく、うっすらと笑っていた。
「へぇ、世の中にはこんな仕掛けがあるんだな」
どうやら初めて眼にする仕掛けのようだった。彼女程の
「すご〜い。石が動いたね〜」
「へぇ、ヴィッキーもこれが許されるレベルになったんだな」
「以前に使われた時はお父様とエリス様とご一緒でしたか?」
「ああ、あの時はエリスが祈りを捧げてくれたよ。その時はとても驚いた。流石に祭壇が動くなんて考えた事がなかったからな」
「これは教会内で許された者にのみ伝わる秘術の1つです。決められた通りに祈りを捧げなければ開きませんし、術者の修練も必要です」
「確かエリスもそんな事を言っていたな。そして、この事は他言無用だと念を押されたよ」
ヴェスは知らない話だった。
「それは私がお前と出会う前の話だな。こんな裏道があるなら教えてくれりゃ、冒険は楽だったのになぁ」
「エリスに怒られるのが怖いからな」
ヴェスはおどけて続けた。
「ああ、そりゃ怖いな」
2人は互いの顔を見て呑気に笑った。
「では、階段を降りましょう。祭壇は一定の時間で閉じてしまいます」
5人は広い空間に合わせて、横に広がった。壁にはうっすらと青く光る扉があった。
「ただ光っているだけだ」
「この光に危険な事はないよ。ちょっと前に体験したんだ。光は癒しに感じるくらいに優しかったから」
「問題は全員が移動するまでにどれだけの時間がかかるかだな」
「光に包まれた後に次第に移動が始まる。誰がいつ移動になるかは分からない。昔に4人で通った時は丸3日かかった」
「えっ、4人で3日⁉︎じゃあ、今回はもっとかかるって事?」
「俺の想定ではそうなるな」
「今は一刻を争う状況なのに移動だけでそんなにかかってしまうの?そこから先も難関が待ち受けているのに…」
ティスタが申し出た。
「では、私がここに残ります。少しでも人数を減らせばその分早くなるのでは⁉︎」
「それは無理です。祭壇を1度動かすと10日は動かせません。
「…。そうですか…」
ティスタが申し訳なさそうな顔をしていたが、そこに
「俺の話は昔話だ。今回がどうなるかは分からない。ここで話しても進まないんだから、進むしかないだろう」
「そうだな」
ヴェスが頷いた。
「それにティスタにも役割がある。お前もいてもらわないと困るんだ」
「私に役割が…⁉︎」
驚いたままのティスタに被せるように
「まずはクウィムが懐いているので気にかけてくれるとありがたい。それから
「そういうことでよろしくね〜!」
大きな声で
「こちらこそ、宜しくねっ!」
全員の気持ちがしっかりと固まったところで青く光る扉に向き合った。
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