第042話 深夜
『生命は常に決断を迫られる』
太陽が隠れて夜が来た。暗闇で人類はほとんど活動できない種族であり、安全を確保できる建物などに引きこもり、夜が明けるのを待つしかない。暗視能力を持つ種族も多くいて、夜行性の
急いで食事と片付けを済ませた頃には完全に夜になっていた。負傷したカルドと体力の消耗が激しかった
ロッジには大きめの部屋が1室だけで、ベッドなどの設備はなく、簡素な作りとなっていた。ガラスと金属で形作られたランタンが天井から吊るされていた。炎が灯っていたが、薄暗い程度の明るさしかなかった。あまり明るいと光が漏れて夜行性の
1室しかないので性別や身分で部屋を分ける訳にもいかず、部屋の扉から遠い角が女性のエリアとなり、扉に近い位置が男性のエリアとなった。
「壁(大陸と半島を隔離する分断の絶壁)はもう目の前だから、もうすぐ
「怪我人の回復次第だな。クウィムは明日までに回復すると思うが、もう1人はどうかな?」
「まぁ、クウィムに回復させて貰ったのだから、明日の朝には全快している筈だ」
『明日の朝には全快』
カルドは傷口こそ塞がっていたが、歩行に苦労する程に負傷していて、ほぼ全身にダメージを受けていた。
「レヴィスター様。お言葉ですが、それは難しいのでは⁉︎」
ティスタが口を開いて
「クウィムの魔法は特別だ。お前達の
「国へ戻って戦況を立て直したいのなら、少しでも早く戻る方法を考えるべきだ。例えその為に誰か犠牲になろうともな」
「彼はここまでの旅で共に何度も死線を超えてきたかけがえのない仲間です。犠牲にして先に進むなんてできないっ!」
強い口調でそう言い放ちながら
「1人を心配して帰還が遅れる事で戦況が手遅れになるかもしれない。お前の個人的な感情や仲間意識は関係ない。多くの民の命と1人の仲間とどちらを取るかだな」
レヴィスターが放ったこの台詞は彼が氷の魔王と称される所以の1つであるように思われた。冷静な判断からすれば彼の主張は正しく、戦況的に厳しい状況にある母国にいち早く帰国して敵勢力を押し戻す必要があった。しかしその為に共に戦って生き延びてきた仲間を見捨てる事を簡単に判断する事は心情的にとても難しかった。
「その判断は明日の朝の2人の回復状況を確認してからにしてほしい」
この件に関してこれ以上の問答は無用だった。
「あなたはあの時なぜ
「まずは明日の行動の判断は朝の状況を確認してからでいい」
と少しだけ時を戻しておいて、
「助けが必要がないからだ」
という素っ気ないものだった。その返答にティスタが思わず呟いた。
「助けが必要ないってどういうこと?」
ティスタは小声で呟いたが、その台詞は
「お前達も見ていた通り、クウィムに助けは必要なかっただろう⁉」
確かに結果的には
「クウィムは全ての常識の外にいる」
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