第037話 助勢
『圧倒的な暴力の差は埋める事は出来ない』
傾き出した太陽は時を追うごとに地平線へ降りていく速度を増しているように見うけられ、昼行性の生物は活動の時間を終える前に寝床へ戻るなどの準備に忙しい時間帯に突入していた。毎日繰り返される日常はそれぞれの生物に本能に近い時間感覚として染み込んでいて、一日を無事に終えて生命を繋ぐ事ができる安堵を感じる時間帯でもあった。太陽の光が黄からオレンジへ変わり出し、風景を昼とは違う色に変えようとしていた。
反射的に自分の左側をガードしたカルドに対して飛び上がった獣の凶暴な右前脚2本が叩きつけられたと思った瞬間に、不意に獣の背後から矢のような光が獣の身体を貫いた。その影響で勢いが余って、獣の身体は崖に打ち付けられてから、跳ねるように崖上に打ち上げられたようになった。苦しい悲鳴を上げた獣は右肩あたりを撃ち抜かれて、右前脚2本は動かせそうになかった。カルドは眼前で起こった事をうまく解釈できず、親の獣が崖上に飛ばされた理由が分かっていなかった。「まだ生きてる…」理解不能な現実に目を見開いて驚いて、助かった幸運に感謝した。「白き神々よ。心から感謝します」
少し涙ぐみながら神への感謝を口にした。
獣が打ち上げられた真下にいた彼には獣の衝突で発生した土煙が降り掛かり出し、視界が悪くなりそうだった。そこで子の獣と真反対となる右前方の小川に向かって急いで移動した。小川を渡ったところで振り返ると
「カルドーッ!大丈夫かー?」
辺りによく通るエドワードの声だった。カルドに振り返る余裕はなかったが、複数の気配があったので仲間が助けに来てくれたのが分かった。次第に後方の気配が足音としてはっきりと聞こえるようになり、2人分のそれだと分かった。エドワードがカルドの右真横まで近付いて、カルドの顔を見ながら、
「無事で良かった」
と言った。王子の助勢に心からほっとしたカルドは
「エドワード様、かたじけない」
と返した。エドワードは勢い良く坂を下って来たので息が荒かったが、すぐに左腰に下げていた鞘から装飾を施されたバスタードソードを抜いて、獣の親子の方向に向かった構えた。
それからほどなくしてもう1人がカルドの左真横に到着した。全力で坂を駆け下りた王子と比較すると速度は遅く、小走り程度で坂を下りてきたようだった。現れたのは
「ここで死んでは無念だろう」
抑揚のない口調で
「王子。前衛を務めよ」
魔王は呪文の詠唱に入るためにエドワードに詠唱の時間を稼ぐための前衛を命じた。それを聞いてエドワードは2歩ほど前に出て剣を中段に構え、魔王と獣の親子との直線上を邪魔しない位置で対峙した。カルドはそれを見て魔王と獣達との直線上に対してエドワードと
「見えずとも存在する有益な大気よ、我が指示に従いその強大な力を駆使し、我が敵を押し潰せ。
呪文の詠唱が終わると
崖も含めて押し潰された為に大量の土煙がモクモクと立ち上って、エドワード達の10倍近い高さの土色の壁が迫ってきたが、エドワードもカルドも眼の前で引き起こされた信じ難い破壊の光景に動く事が出来ず、壁のような土煙に巻き込まれた。エドワードは自分の手足もよく見えないくらいの濃い土煙に巻き込まれて、うずくまるようにして身を守るのがやっとだった。ほとんど視界はなくなり、隣にいるはずのカルドの姿が見えないほどだった。眼をやられないように必死に顔を覆いながら吹き付ける土煙が次第に弱くなるのを感じで、段々と眼を開ける幅を広げると、空気中の土色が少しずつ薄くなってのが分かった。
その時横からの突風が吹いて土煙が風上へ運ばれた後に現れた景色にエドワードとカルドは思わず大きく口を開けて驚いた。クレーター内に押し潰されて地面に張り付くように寝そべっている獣の親子が倒されていた。2人の位置からは絶命しているのかもしくは気絶しているのかは分からなかったが、人間の手に負えない凶暴な
カルドは絶体絶命の危機から救い出された事に安心して、その場で膝から崩れ落ちた。
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