第036話 背後
『圧倒的な暴力の前に抗う方法はない』
巨大な絶壁の麓付近には幾多の小川が流れ、それが次第に統合されて数本の川となり、半島の樹海を全体的に常に潤し、膨大な生命を根幹から支えていた。大陸と断崖で隔絶されたこの半島は水分を多く含んだ湿った気候で、植物が所狭しと生い茂り、多種多様で豊富な生態系を作り出していた。
ある小川の片側の岸には2階建ての家屋ほどの崖が続いていて川岸が狭く、崖の上から小川を見下ろせるようになっていた。対岸はなだらかな坂になっていて、両岸の傾斜は非常に対照的だった。
太陽が少し傾き出してはいたが、明るさはまだあり、ほとんどの生命が活動するのには十分な環境だった。
靄のような白い光をまとった人間の後姿を崖下に見ていた。人間は前方に全神経を集中しているようで、こちらに気付く気配はなかった。慎重を期して音を立てないように静かに、だが着実に人間に近づいた。人間は崖を背にする事で前方だけに集中できる環境にいると思い込んでいるようで、背後から見るととても無防備な状態で背中を晒していた。
あと1完歩で飛びかかれる間合いに入れるという場所で、人間の前方から人間を目掛けて
先日の
このチャンスを逃さないように攻撃の体勢を整え、獣に向かって利き足の右足で大地を強く踏み切った時、突然カルドの右側から
カルドが
「これは死ぬかもな…」とカルドは自分の置かれた状況を冷静に分析し、可能性の高そうな結末を導き出していた。子供の
2頭の獣もカルドの持つ雰囲気を感じ取ってなのか、距離を微妙に詰める程度でほとんど動かなかった。
飛び散った砂で獣が見にくくなる中でカルドは背後の殺気を感じ取っていた。
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