第035話 遭遇
『危険は常にすぐ側に寄り添っている』
御者をしていたティスタは器用に2頭の馬を操り、馬車を次第に減速させてロッジの前で静かに停車させた。それから他の4人が速やかに荷台から降りて、カルドとエドワードは厩舎で寝藁を準備してから馬を休ませ、レヴィスターとクウィムは全員の荷物をロッジ内に移した。
「レヴィスターはエドワード様を王族扱いせずに失礼な奴だ!」
と言って薪割りに怒りをぶつけたりしていたので、その隣にいたティスタがたしなめた事もあった。それでも
この日の夕食の調理担当はカルドとティスタだった。2人は手分けして準備を進めていた。ティスタは調理の下準備で食材の切り分けをして、カルドは水を確保する為に少し離れた小川へ向かった。小川は緩やかな坂を下った先にある緩やかな流れの沢になっていて、人の足で5〜6歩程の幅でスネ位の深さだった。水辺はほぼ平地と言う程度に傾斜がなく、非常に採水しやすい環境だった。カルドは採水用の大きめの甕を両手に掴んで小川の中央部に降り、1つ目の甕の口を川上側に向けて水中に静かに沈めた。水が甕の半分程に入り込んだ事を確認したカルドは、その甕を水中に立てた。そして甕を満杯にする為に、首に下げてきたヒシャクで川水をすくい上げて、水を追加していった。この沢は水飲み場として作り上げられたかのような場所で、カルドの採水はとても順調に進んでいた。
人間が採水しやすい絶好の場所であるという事は、他の種族にとっても飲水しやすい場所である事と同義だった。1つ目の甕に最後のヒシャク1杯分の水を注ごうとしていた時、獣の唸るような声が小さく水辺に響いた。カルドはその声が発生した方向に身体を向けて、最警戒の意識で低い体勢で身構えた。
その視線の先には大きな虎型の獣がいた。それは
カルドはこの凶悪な獣を知識として知っていて、尻尾の炎が松明程の大きさとなっている状態は攻撃態勢である事を示していた。それから今の距離感では獣の射程距離に巻き込まれていると感じていた。小川の中央部にいるカルドは
カルドはその動きを見て自分の位置を甕の横から後ろへと移動し、
「全能なる白き神よ。従順な下僕なる我にご加護を」
獣が発した大きな咆哮に対して覚悟を決めていたカルドは全く動じなかった。それどころか反応を見ている
「崇高なる全知全能の神に謹んで申し上げる。迷える貴信徒をお導き頂く為に、御身の絶大なる御力を持って、この身をお守り給え。
呪文を唱え終えると同時にカルドの身体は白色で淡い輝きの光に包まれ、遠目には水蒸気をまとっているように見えた。小川の中央で膝を曲げて腰を落とし、左手を胸前に突き出し、右手を右脇に付けて、攻撃体制を取る獣に正対した。
それを見た
カルドは頭から全身がずぶ濡れになったが、
再びカルドと
カルドは睨み合いながら対岸へ移動する方法を考えていた。現状では仲間達がいる場所と反対側の岸にいて、理想的だと考える「徐々に仲間達の元へ退却する」事が出来なかった。仮に仲間が異変に気付いて駆けつけたとして、対岸にいる事で形勢が良くなる可能性は低いと思われた。
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