第032話 崩落
『絶望的な攻防に希望を求めて抗う者達』
銀色の柱のような強い光の束は1本の糸のように王城の1か所から空に向かって直線的に立ち上り、天と地上が一瞬だけ光の線でつながった。この銀光柱は音もなく一瞬だけとても細く光った為に周囲の人々に気付かれる事はなかった。
廊下に響き渡った金属音は周辺で反響して1階の廊下を彷徨った後、崩壊した王城中央部の方へ抜けていった。鈍い金属音は反響する間にその濁りが消えて澄んだ音になっていた。もしも平和な状況で聞いたのなら優雅な気持ちにさせてもらえたかもしれない。
その者は呪文を唱えているような姿勢を崩す事なく続けていて、銀色の発光はずっと変わらずに輝き続けていた。呪文を唱える音は聞こえず、手をかざしているだけだったが、しばらくしてかざした手を下ろすと発光も止まった。
その者と2人の距離は次第に遠ざかり、すぐに攻撃できる間合いではなくなっていた。その者は光っていた石床を見つめたまま動かず、
もう少し距離を取れたら逃走体勢に入れる距離まで来た所で、
「きゃあっ!」
エリスは珍しく悲鳴を上げた。壁まで吹き飛ばされた衝撃で全身を強く打ち、背中の辺りに激痛が走った。骨が折れた気がしていて、衝撃と激痛で身体が思うように動かせなかった。
2人とも壁に打ち付けられた体勢から動けず、戦闘できる状態ではなかった。その者は2人が元々立っていた場所に入れ替わるように立ち、壁に縫い付けられたように動けない2人を見下ろしているようだった。先程の攻撃能力を考えると動けない2人を追撃で仕留めることはとても簡単に思われたが、その者は2人に興味を示していなかった。そしてまた聞いた事のない言語らしき音をブツブツと発してから、感情を読み取る事ができない顔を天井に向けた。
するとゴゴゴォと言う大きな風音が屋外から響き、窓や壁が大きく振動した後、膨らんだ廊下の天井が突如として崩れ落ちた。石造の壁や天井、鉄枠の窓が一瞬にして瓦礫となって降り注いだ。
壁に張り付いていた2人は若干の距離があったので難を逃れたが、その者は建物の崩壊を直撃で受けた。その惨劇はとても生命が生存できる状況ではなかった。
至る所でガラガラと壁や天井が崩れた音がして、舞い上がった非常に大量の粉塵は視界を全て灰色にして、自分の腕さえ見えない程に視野を覆い尽くした。かなりの時間が経過して次第に粉塵が風に運ばれて屋外へ排出され、少しずつ視界が回復してきた。
それは
「大丈夫?」
とエリスは声をかけた。どう見てもエリス本人が大丈夫ではなさそうだったが、彼女の性格では他人が優先であり、目の前にいる戦友が最優先だった。
「ああ、何とかな…」
と返事をした
「エリスは大丈夫か?」
お互いに無事ではないことは明白だったが、それでも
「私も何とかね…」
エリスは痛む背中を庇いながら猫背で答えた。
「右腕が動かないのね」
「絶対帰依を誓いし御身の御子たる敬虔な信者の為、偉大なる御力の一部を今ここに顕現せよ、
エリスの右手から白い光が火種程の小さな規模で発光してからその光は次第に大きくなり、手のひらを収まりきれなくなった頃に
それとほぼ同時にエリスはガクッと崩れ落ちて、右膝と右手を石床に付いてしゃがみ込んだ。精神の過度な集中を必要とする呪文を負傷した状態で詠唱した反動だった。
「貴方は今逃げる事を考えて!その為に剣をすぐに拾って!」
声は小声だったが、その迫力は鬼気迫るものがあった。まだ
その時になってようやく粉塵が塞いでいた視界が明瞭となったが、それは絶望の光景だった。
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