第031話 好機
『この機を逃す事はできない』
これまで見た事のない異様な容姿だった。黒光りするこの世のものとは思えない膜のような材質に全身を覆われていて、それが布なのか皮膚なのか判別がつかなかった。月光を細かく反射しているように見え、全身が鱗に覆われているようにも見えた。身長は
その者は
2人とも眼の前の存在に恐怖しか感じなかった。未知との遭遇に思考が停止しかけていた。世界を冒険して多くの事象を見聞きしてきたこの2人がこんな状態に陥るのは非常に珍しく、ほとんどありえない事だった。全身が小刻みに震え、悪寒が止まらず、冷や汗が全身からびっしりと出ていた。無意識のうちに口を開いてしまい、呼吸はとても荒くなり、ほぼ肩で息をしている状態だった。まるで一般市民が突然戦闘に巻き込まれてしまい、対処方法が分からずに固まっている姿に良く似ていた。
動けずにいる2人を尻目にその者がゆっくりと近づいて来た。何故か足音はしなかった。そして、数歩近付いた所で立ち止まった。先程まで逆光で見えにくかったその者の姿が見えた。やはり全身が黒光りする膜のようなものに覆われていて、それは皮膚のように見えた。頭に髪の毛はあるようだったが、それも膜のような皮膚に包まれていたので、髪型や髪色ははっきりとしなかった。顔立ちは人間よりもエルフに近かったが、黒光りする皮膚の為に人類とは違う種族のようだった。眼球全体が赤黒く光っていて、視線がどこを向いているか判別するのは不可能だった。鼻や口は人類とさほど変わらなかったが、膜のような皮膚の影響で穴が開いていないようにも見えた。身長は非常に高く、細身で、筋肉質だった。上半身は男性のように胸板が厚く、下半身は女性のように細くて長かった。比率は上半身が3に対して下半身が7位で、これも人類と違っている点だった。腕は人類と比較するとだいぶ長く、掌が膝のあたりまで伸びていた。衣服や鎧の類は身に着けておらず、靴などの履物も履いていなかった。
その者が右手を銀色に光っていた石床に向けて少しだけ上げた。
【ここに脚が…】
その声は突然に
「聞こえたか…?」
「ええ、聞こえたわ」
「しかし、どこから?」
「恐らくは眼の前の…」
エリスはそこまで言ってからそれ以上を言う事を躊躇した。眼の前で右手を動かした未知の存在を口にしてはいけない気がしたからだった。エリスは唾を飲み込んでから
「いっ、一体…、脚って何の事かしら?」
「さあ…、何の事だかさっぱり…」
「たぶんあれの事を言っているんだろう」
エリスは
「そうね。それ以外に考えられない。だとしたら、絶対に好意的な相手じゃないわね」
その時その者が何かを口にし出した。それは2人にとって音としてしか認識出来なかったが、
その者が呪文らしき喋りを止めるとまた石の床が銀色に光り出した。
更に眼が慣れた
「
王城の廊下の膨らんだ部分に金属独特のキーンという音が響き渡った。
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