第030話 出発
『大きくなる不安を胸に秘め決意を固める』
食堂の長方形の
全員が席に付いてエドワードがおもむろに立ち上がって御礼を言った。
「レヴィスターとクウィム。我々に風呂と食事を与えてくれてありがとう。樹海を彷徨っていた頃を考えると夢のようだ」
エドワードは眼の前の小皿に顔が付きそうになる位に深々と頭を下げた。
「客人として出迎えているのだから当然のもてなしだ。何も気にする事はない。それにお前達も調理や配膳を手伝っているのだから、一方的に恩義を感じるものではない」
「せっかくの食事が不味くなる。堅苦しい挨拶は抜きだ」
そう言って全員に対して料理に手を付けるように促した。
料理はとても豪華なもので、エドワードが治めていた
「レヴィスター、とても美味しいよ。本当にありがとう。この料理はあなたとクウィムが作ったのだろう?」
「ああ、そうだ」
「いつも料理をしているのか?」
「ああ、そうだ」
「味も最高だが、この量は凄いな」
エドワードの言葉に
「明日にはここを出て、貴国に向かう。食料を腐らせるのは勿体ないから、全て料理して出しただけだ。おかげでパーティーのようになってしまったがな…」
エドワードは「それでこんなに多いのか」と呟いた。
「これからこんな食事は出来ないかもしれない。せっかくだからじゅうぶん味わって食べておく事だな」
「確かに、そうかもしれないな。せっかくだから味わって頂くよ。明日ここを出発出来るのはとてもありがたい」
真剣な表情で答えたエドワードに対して
「貴国で状況が落ち着いたら贅沢な料理をたらふく食べさせてもらうからな。この料理の貸しは10倍にして返せ」
翌朝はまだ夜が明けきらないうちから
応接室の扉を開けるとクウィムが1人で自身の荷物をバックパックに詰め込もうとしているところだった。何故この状況になったかは良く分からなかったが、どうやら彼女は自分の部屋ではなくここで荷造りをしているようだった。ざっと見てその荷物の量が多すぎるようで、彼女のバックパックには到底収まりそうもなかった。それは彼女も分かっているようで困り果てた表情をしていて、それを見かねたティスタが優しく声を掛けた。
「クウィム、ちょっと荷物が多いようだね。私で良ければ手伝おうか?」
ティスタの助け船にクウィムはときめいた様な表情で答えた。
「本当っ!?それってとても助かる!ありがとう!!」
嬉しさを爆発させるようにして少し飛び上がって見せた。3人は彼女の反応に思わず微笑んだ。
ティスタの手伝いもあって荷物の詰め込みは順調に進んだ。
「クウィムは旅に出た事はあるの?」
荷物の準備の仕方からおそらく旅をした事はないように思われた。
「行った事ないよ。今回初めてなんだ。だから何を詰めたらいいか良く分かんなくて、色々と部屋から持って来過ぎちゃったのかも」
ちょっとだけ困ったような顔をして、チラッと舌を出してから
「大陸に行くって聞いてて、
と言って爽やかな笑顔を作ってから、長い髪を束ねてうなじの付近でひとまとめにして紐で結んだ。額から汗が滲み出ていたので暑かったのだろう。
ティスタはクウィムの笑顔に朗らかな気持ちにさせられた。クウィムの周囲を明るく和らげる独特の雰囲気はティスタを完全に魅了していたが、ティスタは髪をひとまとめにした彼女の風景に何か引っかかるものを感じていた。ただそれが何かは分からなかった。
ティスタの補助を受けながらクウィムが荷物をバックパックに詰め終わった頃に
「遅れてすまなかった。馬車の用意に少し手間取った」
と言って集合順が最後になった事を詫びた。
「えっ、馬車があるのか?」
すぐに反応したカルドの声に
「絶壁まではそれで行く。そこからは命懸けの
カルドが呆れたような声を出した。
「馬車が通れる道が樹海にあるのか?」
「勿論だ。お前達はそれを知らずに獣道を来たのかもしれないが…だが、貴国の街道のように整備されてはいないぞ」
「今日はその道にある中継地点まで進む。時間的にそれ以上進むのは危険が大きいからな」
そう付け加えた
「歩程は状況によって変化するとは思うが、目安として我が国の領内にどの位で入れるのか教えてくれないか?」
「絶壁までに2日だが、そこから先は
完全に夜が明けた頃、魔王の館の城壁の門が重たい音を立てて閉まった。門の先には2頭引きの大きな荷馬車があり、幌付きの荷車は5人が乗るにはじゅうぶんな広さがあった。全員が大きな荷物を荷台に乗せてから、カルドが御者席に座って、エドワード・ティスタ・クウィムが荷台に乗り込んだ。
「太古の叡智に基づき我と共にある尊き大地の精霊達に命ず。我と新たなる契約を結び、我が住まいをとこしえに守護せよ。
「さあ、出発だ」
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