第023話 覚悟
『最悪の状況を打破するために必要なものがある』
東西の門は各城門と真っ直ぐに繋ぐ大通りが綺麗に整備されていて、王城から東西の方向はよく見通せた。
深夜にも関わらず異常に明るい東方面の状況に都市の幹部である四卿が狼狽する中で、
「市民の避難を最優先にしましょう。その為には軍を始めとして為政者や教会関係者は身を挺して市民を守る覚悟が必要です。例えそれが天災と変わらない脅威であったとしても、最善を尽くして対抗するしかありません。教会は
王都の教会を代表する者として毅然とした表情と態度でその覚悟を口にして、盟友である
「
と言った。その発言に四卿は驚きを隠せなかった。国王であるジョージもその発言に目を見開いたほどだった。
「教会長の覚悟は十分に分かったが、
軍事卿と近衛卿は「ははっ!」と返事をしてすぐに現場へ向かう姿勢になったが、国王は2人の幹部を呼び止めて何かを耳打ちした。それを聞いてから2人は従者達を連れて現場へ急行した。
内務卿と外務卿は市民の避難方法について国王と速やかに打ち合わせて、この2人も従者達を連れて急いで王前を去った。
四卿が各々の従者達を連れてバルコニーから場内を経由して戦闘や市民の避難させる《現場》へ向かった為、バルコニーには国王のジョージと
「何としても市民が避難する時間を稼がねばならん。
エリスはジョージの後方からほぼ真横まで進み出た。彼女も同じ様に東を見つめたまま言葉を返した。
「
「確かにその通りだな」と言って少しの間だけ視線を落としてから、もう一度燃え盛る東方面を見やった。その横顔には悲壮な覚悟が見て取れた。
「よしっ、久々に一緒に
「それで、どうやって戦おうか?」
エリスは昔の感覚に戻った話し方になっていた。彼女も
「
そう言いながらバルコニーから場内へと歩き出した。さらにエリスと従者が続いて行き、エリスは少し早足で進んでからジョージと並んで歩いた。
「剣士に空を飛ぶ
ジョージは頷いて
「確かにそうだなぁ…剣士としては悲しいけどやっぱり魔法の力に頼るしかないなぁ。俺らはその為に時間を稼ぐしかないな」
エリスは一瞬だけ笑顔になって力が抜けた。魔法を使う者達に対して昔からよく使っていたフレーズを会話に挟んできたので、思わず笑ってしまったのだった。そしてその時間稼ぎの役割をしっかりと果たしながらも失敗したことはなかったのだった。この絶望的な今の状況でも同じ感覚で必ず成功すると考えているのが良く分かった。
「でも最悪の事態を想定する必要はあるな」
そう言うとエリスの後に続いて歩く従者の1人を見て、
「ヴェス、悪いがお願いをしていいか?」
と話しかけた。
エリスは従者を装わせてエリザベスを連れて来ていた。それは彼女の密偵の能力が必要になると考えたからだった。エリザベスは小さく頷いて「ああ」とだけ返事をした。
ジョージは歩きながらエリザベスを顔を向けて続けた。
「ちょっと長い距離を移動してもらいたい」
そう言ってからエリザベスに耳打ちできる距離まで近づいて、彼女にだけ聞こえる様に囁いた。その間も場内の移動は誰も止めなかったが、ジョージの話が終わりそれを聞き終えたエリザベスだけが立ち止まった。それに気付いてから他の者も立ち止まったが、エリザベスと他の者には数歩程の距離が出来た。
エリザベスは目線を伏せて、やや逡巡していた。両手はきつく握られていて、緊張感を漂わせていた。他の者達は彼女を静かに見つめていた。彼女が動き出すのを静観して優しく待っている様だった。そしてエリザベスは口を開いた。
「私の役目は本当にこれでいいのか?お前達は皆これから死地に向かおうとしているのに…」
彼女は目線をしっかりと上げたが、そこから先の台詞を飲み込んだ。彼女の言いたい事を理解した
「まぁ、心配するな。死ぬ気など更々ない。ヴェス、人にはその時々でそれぞれに役割があって、それをきちんと果たすために生きているのだ。だからヴェスにも役割がある。それを果たしてくれたら嬉しいよ」
そこには優しげな笑顔があった。ここでも緊張感をほぐす
「ヴェスの任務も危険を伴う。お互いに覚悟を持って役割を果たそう!」
優しげな笑顔から真剣な表情になってそういったジョージに対して、エリザベスは無言で大きくうなずいた。
従者を含めた5人は1階まで足早に下りた後、エリザベスと他の4人は別れた。それぞれの覚悟を持ってそれぞれの役割を果たすために。
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