第021話 絶望
『絶望の闇は徐々にその暗さを濃くしていく』
小川のいくつかが流れ込んで形成された薄緑色の水の湖のほとりに佇む小城で、
「今の私にその質問をするのは酷というもの。恐れ多くも伺うが、貴方はどう捉えているのですか?」
決意を込めた王子の眼はエルフを射抜こうとする勢いがあったが、その強烈な視線を受け流したエルフは冷静そのもので対応した。
「確かに貴国の誰に聞いてもほぼ全ての者が同一の答えをするだろうな」
至極冷酷な分析を披露して
「それは間違っていない。殆ど正解だ」
と、ほぼ抑揚のない言い回しで続けた。
一国の王族であるエドワードが自国の存亡の危機と市民の安全を気遣うのは当然であり、その危機を作り出している
「まずは暗黒神の勢力を押し戻す事が先決だろうな」
レヴィスターはエドワードの逆質問を受け流したようだった。エドワードは何かを言いかけたが今は必要ないと思ってその言葉を飲み込んだ。
「あなたのおっしゃる通りで、それが出来ない事には、我が国に平和が訪れることはない」
エドワードは彼の言葉に追従した。それは話を合わせるという事ではなく、本心からそう答えていた。但し、現在の自国の状況が全く分からないため、どのような方法を用いて、どこから手を付ければ良いのかが微塵も見えなかった。
逡巡している王子に対して「魔王」は表情を全く変えずに問いかけた。
「ジョージが俺を『魔王』と呼ぶ事を、お前にどのように伝えていたか良く思い出してみろ。そしたら少しは対処方法が見えてくるんじゃないのか?」
その表情とは裏腹のようにエドワードに助け船を出しているようだった。
国王・ジョージが親友をあえて「魔王」と呼ぶ事はどういった意味を持っているのか…エドワードは頭の中を整理しながら、焦りと屈辱で暴走しそうになる心を落ち着かせながら、父の言葉を必死に思い出していた。
「お前達の敵は確かに
レヴィスターの問いによってエドワードは深い思慮の世界に入っていった。
『奇跡の時代』と呼ばれた友好的な10年ではあったが、有史以来、記録されている期間だけでも千年以上と言われるほどの長い間、常にいがみ合ってきたのが両国であり、心を許すという事ができる間柄ではなかった。だからこそ国境警備は厳重に厳重を重ねていて、3大都市のうちの2都市である
『人外の戦力』
「暗黒神に魅入られた
エドワード王子は独り言に近いレベルの語気と声量でそう言った。それは側に座る
「ジョージの兵はそんなにショボいのか?」
3人の同じ見解を共有する空気をバッサリと斬ったのはレヴィスターだった。自分の部下が多く所属する軍を侮辱されたと感じたカルドは鋭い眼光でエルフを睨み、多くの市民が犠牲になっている事に責任を感じているティスタも険しい視線をエルフへ投げた。
レヴィスターはその2人の迫力に一瞥もくれず、
「
その問いにエドワードは愕然とした。レヴィスターの言う通りに強固な城壁と強靭な軍隊を有する自国の最前線の拠点と首都という国内で最も防衛力のある陣容を有する2都市を、この短期間に陥落させる戦力を整える事は不可能の筈だ。そもそもそんな災害級の壊滅的な破壊力を発揮できる戦力を
しかしそれほどの強大な戦力が戦闘に投入された結果、
「…、あっ……」
そしてエドワードはその戦力を発揮でき得る唯一の種族を思い出した。その種族の名を口にしようとするだけで全ての内臓が凍り付いたように感じた。大きく唾を飲み込みながら、
「まさか、
自ら発したその一言で全身が凍結した気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます