第011話 逃走
『決死の逃走は思いがけない成果を生むかもしれない』
焦げ臭い臭いが辺りを包んでいた。雨が降ってきたおかげで火災は鎮火していて、奇跡の雨と言って良かった。もし雨が降っていなかったならば、
一緒にいた馬は即死だった。これまで何度となく共に死線を乗り越えてきてくれた愛すべき相棒だった。今はその無残に黒く焦げ落ちた遺体に向けて鎮魂の黙祷をしてあげることしかできなかった。鼻面を触れて冥福を祈りたかったが、遺体の温度が高すぎて諦めざるを得なかったからだ。もし隠密としての訓練を受けていなければここでずっと号泣していただろう。
それにしてもまさか林ごと焼き尽くすとは思ってもみなかった。伝説の
その凶暴性と破壊力はこれまでに出会った
ひとまず
感謝の祈りを終えると魔法のマントの紐をもう一度締め直してから南方の目視できる林に向かって全速力で駆けだした。
あの日から降り続く豪雨のせいで足元は悪く移動できる速度自体は低下させられたが、昼間でも薄暗くて視界が悪いために発見されにくい事を考えると幸運の雨だと感じられた。これから先の移動を考えるとこのまま降り続いてほしい雨だった。
1つ目の村フィルスで馬は調達出来なかった。人口のほとんどが農業と牧畜を営む村で牛は多くいたが馬はいなかった。旅商人の装いを怪しまれることはなかったが、「
疲れがピークに来ていた。15日程仮眠を繰り返しながらずっと移動していたのだから、疲労が蓄積していたのは当たり前だった。フィルス村を出てすぐの林に潜り込んだ後に大きな木の根元に這うようにして辿り着き、気を失うようにして眠り込んでしまった。
日の出から刺す日光が瞼の上からでも強く感じられて、はっとして飛び起きた。日の高さから見ておそらく半日ほどは経過しているように思われた。自己嫌悪に襲われたが、唇を噛み締めて堪え、急いで次の村へと出発した。
眠ってしまった焦りから周囲への観察がやや雑になっていたのに気付いていなかった事に、その後大きな後悔をする事になるとは、この時露とも思っていなかった。
追跡の足音はすぐ近くまで近づいていた。
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