第009話 侵攻

『突発な事由への対処は大変困難である』


 上位龍エルダードラゴンによる商業都市コームサルの中枢部の崩壊によって都市の内部は大混乱に陥っていた。北門と中央部で上位龍エルダードラゴンが発生させた火災は雨の勢いが弱まった上に暴風が継続したことが重なって徐々に都市の各方向へ広がっていった。軍隊を始め住民も総出で消火活動をしたが、火勢は弱まる気配を見せなかった。ついには火の勢いが終息するのを祈りつつ街の外に避難するしかなくなっていた。


 軍隊は住民を西門以外の最寄りの城門から脱出をさせていた。火勢が強まる中で住民も軍隊も必死で城壁の外を目指していた。住民達の先頭が城壁外に脱出をし始めた頃、その避難民達に攻撃を仕掛ける集団が北と南の城門付近に突如出現した。

漆黒帝国ブレイク軍だぁぁっ!!」

漆黒の鎧で全身を固め馬上槍ランスを携えた騎馬隊が南北の城門に各500騎程出現し、脱出してきた純白王国フェイティーの住民達を次々と襲撃していった。聖騎士団パラディンズは住民を火事から守りつつ優先的に城壁外に脱出させるために城壁内に残ったままだったため、敵国の騎士団の襲撃への対応が遅れてしまった。火災から逃れようと都市の内部から外部へ脱出しようとしている住民達と、城壁外の惨劇から避難するために城壁内に戻ろうとする住民達とが城壁周辺の内外でぶつかり合い、辺りは大混乱に陥った。こうなってしまうと聖騎士団パラディンズの誘導や制止の掛け声も住民達には届かず、2つの人の流れが誰に求められない大きな渦となって人々を飲み込んでいった。

 城外から侵攻した漆黒帝国ブレイクの騎馬隊が城内に逃げ込もうとする住民達を背後から薙ぎ倒すように次々と襲撃していったが、局地戦というよりも単なる混沌状態とした現場に聖騎士団パラディンズは隊列を整えるどころか武器を構える空間さえ保てず、住民達と共に敵国の騎馬隊になす術もなく蹴散らされていった。

 都市中央部から押し寄せていた住民は避難先のはずの城門から人が戻ってきている人々が

漆黒帝国ブレイクが攻めてきたっ!」

「別の門に逃げろっ!」

口々に騒いでいるのを聞いて、次第に目標としていた避難先に一大事が発生していることに気付き始めた。それから人の流れは徐々に逆流していったが、住民の多くは背後から敵国の騎士隊に蹂躙された。

 それは南城門も同じように発生していたため、住民や軍隊の被害は甚大なものになっていた。


 東城門付近の火事の被害が拡大していたが、住民達の避難は無事に進んでいた。住民達は避難できたことに安堵してから黒煙を上げて燃えている都市を振り返り、嘆き悲しみ、落胆しながら涙を流す者も多くいた。それでも皆が命があることに安堵し、不幸中の幸いであることを神に感謝していた。家族や知り合いと抱き合って喜ぶ者達もおり、ひとまず安心という空気が生まれていた。

 その時雷が天空を駆けたような轟音が上空から地上に向けて響き渡った。暴風雨がほぼ暴風だけに変わっていたため天候は回復傾向かと思われていたので、雷鳴が轟音として広がっているのは不自然な現象だった。城門外の住民達はこぞって上空に目を送り、不自然な現象の源である音の正体を見出そうと曇天を凝視していた。そして住民達が見つけたのは伝説上の怪物モンスターとされてきた「上位龍エルダードラゴン」であり、人々は自分たちが何を発見したのか理解できない状態であった。そのため誰も声を上げたり逃げたりする事が出来ず、「固まって」しまっていた。

 天災と同意の上位龍エルダードラゴンは東城門方向へ向けて急降下したが、呆然と立ち尽くす人類達に目もくれずに、彼らの上を舐めるように飛行した。それから城門の手前で急上昇し、その際に長い尾の先にある二股の大きな爪で城門の上部にある屋根や見張りの塔を破壊していった。避難のために城門を通過しようとしていた住民やそれを誘導する兵達は城門の倒壊に巻き込まれた。そして上位龍エルダードラゴンの低空飛行を目撃した人々は腰を抜かして動けなくなっていた。


 これで商業都市コームサルの4方の城門は全て塞がれてしまった。港の火事に巻き込まれた西門、敵国軍隊に蹂躙される北・南門、ドラゴンに破壊された東門。そして都市中央部の領主館の崩壊。敵国の侵攻に都市機能はほぼ壊滅されてしまった。

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