ふたりは

あば あばば

ふたりは

 いつもより早く目が覚めてしまった朝、ふっと出来心で窓の外を見ると、ちょうど走っていく彼女の背中が見えた。部活の朝練だろうかーー大きな二本の三つ編みを左右に揺らしながら、いつものように一生懸命、脇目も振らずにまっすぐ駆けていく。

(もう、一人できれいに三つ編みできるようになったんだね)

 背中が見えなくなると、自然とため息が出た。並木道はみんな葉桜になってしまった。春が終わる。私たちの最後の戦いから、もうすぐ二ヶ月になる。


「くっ……」

 頭上に浮かぶ、巨大な鳥型の怪物「ショッパイナー」の影。赤い瞳でこちらを見下ろすその無機質な眼差しには、まったく隙がない。私たちは何度も反撃を試みたものの、高所から一方的に攻撃してくる相手に、まるで手が出せなかった。

 そんな八方ふさがりの状況の中で、彼女がふっと顔を上げて私の名を呼んだ。

「ビター! 同じこと考えてる?」

 苦境に陥ってくじけそうな時、彼女はいつもそう言って私をちらりと見た。本当はまだ何も考えなど浮かんでいなかったのだけれど、その瞳を見た瞬間、私には不思議と彼女の考えがすぐ理解できた。そして、唇を少し傾けて、こう答えるのだ。

「そう言おうとしてたとこよ、シュガー」

 ニッと笑って、私たちは同時に駆け出した。

「無駄なあがきを……やれ、ショッパイナー!」

 敵の幹部シックの声に応えて、ショッパイナーの巨大な翼がはためき、硬化した羽根が豪雨のように降り注ぐ。私たちはその合間を縫って、悠然と浮かぶショッパイナーの真下へと走り込んだ。

「行くよ、ビター!」

「いいわ、シュガー!」

 掛け声とともに、シュガーが跳んだ。「ハッ、届きませんよ!」と、嘲笑するシック。その言葉通り、シュガーの跳躍はショッパイナーの尾羽にも届かないうちに、落下へと転じはじめていた。けれど、それは私たちの狙い通りだったのだ。

 空中から勢いをつけて落ちてきたシュガーの足を、私は合わせた両拳で受け止め、膝のバネをいっぱいに利かせて、空中で待ち受けるショッパイナーめがけて、一直線に放り上げた!

「いっけぇぇぇぇ!」

 思わず口から飛び出した、私らしくない叫び声。次の瞬間、シュガーの上蹴りがショッパイナーの胸に植わった赤い塩鉱石をどつんと撃ち抜き、もんどりうったショッパイナーはバランスを崩して、彼女ごと地上へ落下していた。

「ビター!」

 土煙の中から鋭く自分を呼ぶ声に、私は言葉でなく駆け足で応えた。力強く伸ばされた手をつかみ、ぐっと手前に引き寄せると、白と水色のコスチュームに少し土をつけたまま、ウインクする彼女の姿がすぐ目の前にあった。

「今のうちにとどめを刺すエボ!」

 後ろから見守る、妖精ノエルの声。彼の言う通り、ショッパイナーはまだ地面でじたばたともがいている。私たちはトドメの必殺技を放つべく、つないだ手を天に掲げて身構えた。

「おいで、ノエル!」「エボ~」

「おいで、フランシス!」「ネダ~」

 二人それぞれの妖精の名を呼び、彼らが変身したスティックを右手に握り、力を込める。

「甘い夢と!」「苦い真実!」『二つの狭間に生まれる力を、この手に込めて!』

『響け! クィピュア・ビタースウィート・シンフォニー!』


 そうーー私たちはつい最近まで、妖精たちに選ばれた伝説の戦士「クィーンピュア」として、地球の平和を守っていたのだ。私、豪屋千世子ごうや ちよこがピュアビター。そして彼女、佐藤天海さとう あまみがピュアシュガー。

 痛みや苦しみもたくさんあったけれど、今思えば、それは充実した日々でもあった。私とシュガー、それに妖精二人、たまに助っ人のピュアサワーも……みんなで戦い、遊び、笑いあった。今まで一人で静かに過ごすことが多かった私にとって、いつも一緒の仲間がいるということは、新鮮で、素敵な経験だった。

 そして異世界から侵略してきた強大な敵、シオカラス帝国とその主、皇帝ソルト三世を倒したとき、私たちの戦いは終わった。妖精たちは彼らの世界に帰り、私たちはこの現実に残された。私たちが守ったもの……いつも通りの、当たり前の日常に。


「おはよう、天海! ……天海?」

 いつも通り、登校時間のぴったり十五分前に校門を抜けた私は、下駄箱の前でぼんやり突っ立っている天海と出くわした。挨拶しても、返事がない。ただ、ぼーっと空を見ている。

「あーまーみっ! どうしたの?」

「ふぇっ!? あ、千世子……ハァ~、人生そんなに甘くないね」

 と、ようやく我にかえった天海は呟いた。クィピュアだった頃、彼女の口癖は「甘ったれんじゃないわよ!」だったけれど、最近はそんな強気なこともあまり言わなくなった。彼女はもうすっかり、普通の中学生だ。

「何かあったのね、鷲P先輩と」

 鷲P先輩というのは、彼女が一年のときからずっと片思いしているバスケ部の鷲津先輩だ。あだ名の「P」の由来はよく知らない。

「あったもなにも……何もなかったんだってば! せっかく二人っきりになって、今度こそ、今度こそと思ったのにさ……あ~あ」

「告白できなかったわけね。残念……」

 そう言って慰めながら、自分の瞳が冷たく、無感情になっていくのを感じた。私は嘘をついている。本当はホッとしているくせにーーその心を押し殺して、彼女を元気付ける言葉を探しているのだ。ほどよく元気付けて、なおかつ、勇気付けすぎない言葉を。

「大丈夫、いつかちゃんと伝えられるわよ。天海なら、きっと」

 そう声をかけて、私は彼女の背中をトンと叩いた。なんて狡い女の子になってしまったんだろう、私は。自己嫌悪の苦い味が広がる。

「いつか……」

 のそのそ歩きだす天海を見送りながら、私の視線は、すぐ横をすり抜けていく彼女の指を追っていた。最後にその指に触れたのは、いつだっただろう? そう、あれはーー私たちの戦いが終わった日だ。私が初めて、彼女に嘘をついた日。


 その日は、二十四時間より何倍も長い一日だった。皇帝ソルト三世は、私たちが彼を倒すために集めてきた九十九種類の魔法の調味料を奪い取り、その魔力を使って地球の時間を止めてしまったのだ。

 私たちは地球を元に戻し、戦いに決着をつけるため、異世界にあるシオカラス帝国へと乗り込んでいった。いくつもの死闘を乗り越え、残った三人の幹部たちを浄化し、消耗したピュアサワーを後に残して、私とシュガーは皇帝がいる玉座の間へとたどり着きつつあった。

 塩の結晶で出来た長い回廊の窓からは、赤紫の異世界の宇宙が透けて見えた。目がくらむような景色。私たちの地球とは、あまりにも異質な世界。疲れもあってか、私は内心、心細くてたまらなかった。

「……とうとう、ここまで来ちゃったね」

 玉座へつづく巨大な扉の前で、シュガーははたと足を止めた。その声は、少しだけ震えていた。そうなるのも無理はない。最後の敵、皇帝ソルトは今や本拠地であるシオカラス帝国だけではなく、地球、そして宇宙、さらには並行して存在するすべての異世界にまで及ぶ強大な力を手にしつつあったのだ。

「勝てるかしら、私たち……」

 思わず漏れた私の弱音を、シュガーは責めなかった。勝たなければいけない。そんなことは分かってる。だけど世界のすべての未来、すべての命が、私たちの背中にかかっているのだ。そんな重責に、笑って耐えられる中学生なんていない。

 長く、重い沈黙を破ったのは、シュガーの突然の一言だった。

「千世子」

「え?」

 急に本名で呼ばれて困惑する私に、シュガーーー天海はいきなりぐいっと身を乗り出してきたかと思うと、私の左手をぎゅっと握りしめて、こう言った。

「戦いが終わるまで、離さないでね」

 まっすぐ私を見つめる天海の顔は、真剣そのものだった。その瞳を見た途端、私は震えていた足が、冷たかった指が、力を取り戻していくのを感じた。握った互いの手の平から、炎が燃え上がっていくようだった。

 戦える。私は、彼女のためなら、誰とでも戦える。そして、必ず打ち砕いてみせる。

「わかったわ。絶対に、離さない」

 そう答えた瞬間、天海が浮かべた笑顔の眩しさを、私は一生忘れない。その時、私は初めて自分の内で燃え立つ感情の正体を知り、同時にそれが永遠に叶わないことを、はっきりと悟ってしまったのだ。

 彼女の瞳に表れた、まっすぐで、純粋で、砂糖より甘く、宝石よりも透き通った思い。それはどこまでも混じりけのない、私への信頼と友情だった。けれど私はその瞳を、同じ気持ちで見返すことはできなかった。私の胸の内側で燃えていたものは、もっと自分勝手で、荒々しくて、いびつで、どろどろと……

「千世子! 同じこと考えてる?」

 違う。

「そう言おうとしてたところよ。行きましょう、扉の向こうへ!」

 私は嘘をついた。本当は、そのまま立ち止まっていたかった。閉じた扉の前で、二人きり、時間の止まった世界に留まっていれば……戦いは終わらない。この手を、離さなくてもいい。永遠にーー

 けれど私は、踏み出してしまった。自分に、彼女に嘘をつきながら。そして今も、同じ嘘をつき続けている。


「千世子ーっ! いつまで立ち止まってるのー?」

 ハッとして顔を上げると、階段の上からこちらを見下ろす天海が見えた。

「遅刻しちゃうよ。あたしは常習犯だからいいけど、千代子は皆勤賞でしょ」

 苦笑いで応えて、私も階段を駆け上がる。天海は階段の上で、私が着くのを待っていてくれた。

「千世子、最近なんかあったの?」

 段を上がりきった途端、急にそう問われて、私は一瞬言葉に詰まった。

「別に、何もないけれど。どうして?」

「うーん、気のせいならいいんだけど。でも最近、千世子の笑い方がスッキリしないなーと思って。苦笑いはいつものことだけどさ、なんか時々……もしかして、ホントに苦しいんじゃないかって気がしたんだ」

 彼女が話している間に、頭の中でいくつもの言葉が浮かんでは消えていった。

 いっそ、本当のことを言ってしまおうか?(そして私がスッキリするだけのために、彼女を困らせるの?)やっぱり、嘘をついてごまかす?(また、いつもみたいに罪を重ねる?)それとも、何も言わないか。黙って逃げ出して、彼女が心配するに任せておこうか?

 それだけは、私にはできなかった。

「……わかっちゃう?」

「わかるよ、そりゃ! 親友だもん」

 親友、か。なんて甘くて、なんて苦い言葉だろう。私はそれを吐き出すことも飲み込むこともできないがために、ずっとこうして中途半端なまま、立ち止まっている……

「実は、虫歯ができちゃったの。去年、ドーナツとかカップケーキとかチキータバナナとか、甘いものばかり食べてたからかしらね」

 天海は驚いた様子で、ぽかんと口を開けた。

「えーっ、千世子が虫歯!? ほんとに? なんで隠してたの!」

「だって、かっこ悪いじゃない。明日、歯医者に行くから大丈夫よ。ほら、あなたの教室はそっちでしょ。私はトイレに寄っていくから」

 そして私は天海の背中の後ろで、教室の扉をぴしゃりと閉めた。


「フランシス……私、もう限界みたい」

 私はトイレの蓋に腰掛けて、手に持ったカーキ色のスマホ型デバイスに話しかけていた。その画面はソルト三世の手から解放された魔法の国、アマカラ共和国とつながっている。そして向こうで話を聞いているのは、私の本当の気持ちを知っている唯一の人ーーじゃなくて妖精、フランシスだ。

「だから僕はずっと、はやく告白した方がいいって言ってるネダ! 天海はいい子だから、きっと理解してくれるネダ」

「そんなこと、できないわ! 天海の思い出を汚したくないの。どうせ思い出になるなら、楽しい、無邪気な思い出のままでいたい……」

 しばしの沈黙。フランシスは私と似て、沈思黙考してから言葉を選んで話すタイプだ。直情型の天海やノエルとは正反対。

「……千世子、一体何を考えてるネダ?」

「私……転校するわ。そして、二度と天海には会わない」

 吐き出すように、きっぱりと言った。すると画面の向こうで、茶色の小動物がぴょんと跳ねた。彼はそう言われるのが嫌いだったけれど、その姿はどう見てもタヌキだ。

「はやまっちゃだめネダ! そんなことしたら、天海が悲しむだけネダよ」

「悲しみなんて、一瞬だけのことでしょ。良薬は口に苦し、絆創膏みたいにさっと剥がせばおしまいよ。そうすれば、誰も苦しまなくてすむじゃない。私も、きっと天海を忘れて楽になれるの……」

 私はきっと、ふてくされてダダをこねる子供みたいに見えただろう。フランシスはこう見えて妖精としてはとっくに成人している年齢らしく(実際いくつなのかは聞いたことがない)、人間に置き換えると私よりもずっと年上なのだ。

「気弱になっちゃだめネダ! 君は戦士として、あんなに勇敢に戦ってきたんだネダ。自信を持って進めば、きっと新しい道が開けるネダ」

 フランシスの言葉を聞いて、過去のいくつもの戦いの記憶が脳裏をよぎる。そう、私たちは勇敢に戦ってきた。何体もの巨大なショッパイナー、そして何度も立ちはだかった強敵、三人の幹部たち。けれど記憶の中で、いつも私たちは二人だった。……途中から三人の時もあったけど、まあ、だいたいは。

 今は、一人で戦わなきゃいけない。そして、戦う相手は「悪」ではなく、自分自身なのだ。それとも、この気持ちそのものが、悪いものなんだろうか……

「あなたには、わからないのよ。あなたには、ノエルがいるもの」

 私は投げやりにそう言って、通話を切った。彼ら二人は恋人同士だ。ノエルはフランシスが好きで、フランシスもノエルが好きで、フランシスは男の子で、ノエルは女の子。

「わからないわよ……」

 遠く、チャイムの音が聞こえた。生まれて初めて、私は授業をサボった。


 二年生になって、天海とクラスが別になったのは幸いだった。私が授業をサボったなんて知ったら、質問攻めにされるに決まっている。私だって、そんなにいつも都合のいい嘘が浮かぶわけじゃない。

「豪屋さん、1時間目どこ行ってたの?」

「……ちょっとね」

 涼しい顔でそう答えれば、それ以上深入りしようとする生徒はいなかった。去年別のクラスだった子たちは、天海と出会う前、名門豪屋家の跡取り娘として育てられ、無口で威圧的だった小学生の私のイメージがまだ残っているんだろう。

 そう、ちょうど一年前ーー私はまだその刺々しい豪屋千世子だった。そんな時、彼女は突然私の前に現れたのだ。


「ここ、あたしの席かな?」

 教室の隅に座った私の目の前、空っぽだった椅子に大きな鞄をドサッと置いて、その少女は言った。乱暴にまとめた左右の雑な三つ編みは、まるで子供の頃に読んだ「長くつ下のピッピ」の挿絵みたいに、ばらばらの方向に飛び出していた。

 見覚えのない顔。そして、私を見ても引かない態度。転校生なのはすぐ分かった。

「さあ、先生に聞いてみないと……」

「先生は空いてる席に座れってさ。空いてる席ってここだけだよね」

 彼女はそう言うと、どかっと鞄の上に腰掛けて、どこからともなく取り出したキャンディを、ひょいと口に放り込んだ。嫌いなタイプだ、と思った。騒々しくて、遠慮がなくて、粗暴で。

「反対側にも、一つあるわよ。向こうの方が黒板がよく見えると思うけれど」

 私は今の席の静けさが気に入っていた。手前の空き席のおかげで、他の生徒たちの喧騒から離れていられたのだ。だから、彼女がそこに座るのをなるべく避けたかった。

「そう? でも、ここがいいな。ほら、窓も近いし!」

「え……?」

 少女はいきなり私の横に手を伸ばしてきたかと思うと、窓の留め金を人差し指で軽く外して、ガラッと大きく開け放った。

 瞬間、まだ春の香りが残るかすかな風が吹き込んで、カーテンが大きく翻った。風の来るほうへ顔を向けると、青く晴れ渡った空が視界に飛び込んできた。空の上には太陽、下には雲を挟んで、水平線。遠く、鳥が飛んでいくのが見えた。

 私はその時まで、自分のすぐそばに窓があることさえ忘れていた。

「もちろん、あなたが嫌じゃなかったらだけど」

 相手の言葉で我に返った時には、すでに「嫌だ」と言う機会は失われていた。私は黙って、朝の日差しに横から照らされた、彼女の頬を眺めていた。

「あたし、佐藤天海。あなたは?」

 風に煽られた自分の髪をおさえながら、私は自然と、右手を前に差し出していた。

「豪屋……千世子」

 天海は私の手を強く握り返して、ブンブンと上下に振った。

「よろしくね、千世子!」


 それから、あまりにも沢山のことがあった。沢山の思い出。二人で話したこと。一緒に歩いた道。戦いの中で、お互いに背中を預けた日々。喧嘩して、仲直りして……つい昨日のように思えるそれらに、私はひとすじも傷をつけたくなかった。

 そう、汚したくないのは天海のじゃなく、私自身の思い出なのだ。もし天海に否定されたら、私はあの美しい日々を、もう二度と微笑んで思い出すことはできないだろう。だからそうなる前に、宝石は宝石箱にしまって、私は自分の道を歩き出さなければならないんだ。他の道は、ないのだから……


 一人の帰り道、夕日を背に歩いていた。

 天海はいつものように、クリケット部の部活で遅くなる。一年生の頃は私も美術部に通っていて、同じ時間に帰れたのだけれど、最近は絵を描いても楽しく思えなくて、ずっとお休みしている。無邪気に天海の似顔を描いたりして、笑っていられた頃とは違う。

 校門からまっすぐ続く、長い桜の並木道。少し下り坂になっていて、行く手に差した自分の影は、自分自身よりも大きく見える。誰もいない道……影だけが道連れ。

 一人の時間に慣れなくちゃいけない。これからはずっと一人なんだから。

 急に、自分の足音がひどく大きく聞こえた。

(私は、一生このまま一人なんだろうか)

 それともいつか、天海が鷲津先輩を見つけたように、私も誰かを見つけるんだろうか。天海じゃない別の誰かを好きになることなんて、想像もできない。でも私はまだほんの中学生で、人には大人っぽいとか言われても、自分が何者なのかさえはっきりと分かってはいないのだ。


「……ニヤーォゥ」

 ふと、右手の脇道から猫の声が聞こえた。寂しさを紛らわせたくて、私はふらふらとその道に入っていった。天海=ピュアシュガーの相棒である妖精ノエルは、猫によく似た姿をしているせいか、自然の猫たちを呼び寄せる力を持っていた。それでよく近所の猫を集めて、天海と二人で遊んだものだ。

 路地裏では、一匹の黒猫が塀の上に佇んでいた。

「あなたも、一人なの?」

 苦笑いしながら声をかけると、黒猫はまた一声鳴いた。そっと近づいて、隣に腰掛けてみた。黒猫は逃げなかった。

「一人でも、怯えたりしないのね。どうすればそんな風に生きられるのか、あなたに聞けたらいいのに……」

『聞きたい?』

 突然聞こえてきた声に、一瞬、何が起きたのかわからなかった。猫がーー喋った? そんなはずはない。その場から後ずさりして、周囲を見回す。

『永遠の孤独がどういうものか……おまえにたっぷり教えてやろうか? 恨み言ならいくらでもあるサ……』

 私はようやく声の主に気がついて、かつて変身に使っていたスマホ型デバイス「ピュアホン」を反射的に取り出していた。けれど、今は天海がいないーー一人で変身はできない。

「ディジー! あなたは、あの時倒したはずよ!」

 かつての敵、シオカラス帝国の幹部、紅一点のディジー。赤いドレスに身を包み、何度となく私と天海の前に立ちはだかった。帝国には三人の幹部がいて、その中でも特に私と因縁があったのが彼女だった。

『その通りサ、ピュアビター。おまえたちがソルト三世陛下を倒し……正気に戻し、その魔力で保たれていた我らの体は塩に還った。そして肉体を失った我ら三人は、こうして元の姿に……戻ったというわけサ』

 猫がぴょんと跳ねて、塀の下に降り立った。そして、私はディジーの今の姿が何なのか、目の当たりにすることになった。夕日にさらされて、猫の足から伸びた黒い影。そこに、見覚えのあるツリ目の瞳が現れていたのだ。

「影の中に……?」

『我々は陛下の御力によって、夕日が落とした自らの影を材料として生み出された。そして、今また同じものになったのサ……シックとイルネスは心を保てずに、ただの影になってしまった』

 彼女の声には、深い憎しみがこもっていた。無理もない。仕方なかったこととは言え、私たちは彼女の仲間を永遠にこの世から消し去ってしまったのだ。

「……それで、私に復讐しに来たというわけ?」

『アッハ! できるものならとっくにそうしているサ。もう私にそんな力はない。私はただの虜囚なのサ。こうして地面に縛り付けられ、誰にも何にも触れることさえできない』

 ディジーの声はいつの間にか、私の足元へと移動していた。驚いて一歩引くと、彼女の瞳も同じだけこちらに動いた。自分は無力だという彼女の言葉を、信じていいのだろうか? もし人間界で強い闇の力が行使されれば、フランシスたちがピュアホンを通じて気づくはずではあるけれど。

「気の毒だとは思うわ。だけど、私には何もしてあげられない」

『何も望みはしないサ。せいぜい己の勝ち得た、平穏な日常の幸せってやつを味わうがいい。それが身を賭してまで、おまえの守りかったものなんだろう?』

 皮肉がちくりと胸に刺さる。私は、幸せになんかなれてはいないーー戦いが終わってから、心を占めるのは失ったものばかりだ。彼女はそれを知っているのだろうか?

『おや、そんなに幸せそうじゃないね。それじゃあ、何のために私たちを殺したのサ?』

 彼女の言葉に、心臓がどくんと鳴った。それは私がずっと、うすうす恐れていた言葉だった。

「……殺したわけじゃない。闇に還したのよ」

『何が違う? シックは、イルネスは、どこに消えた! ソルト陛下も……あんな萎びたじじいは私の陛下ではない。私の敬愛した皇帝陛下は、あの腐った塩の塊と一緒に、永遠に消えてしまったのサ。それが死でなくてなんだ?』

「やめて!」思わず、叫んでいた。ディジーの声からほとばしる、怒りの激しさが恐ろしかった。

『夕日を見るたびに思い出すがいい。おまえが踏みつけにして、消し去ったものどもを。おまえの手にこびりついた、闇の匂いを……アッハハハ!』

 笑い声に混じって、黒猫の駆け去っていく足音が聞こえた。私は夕闇の中、一人で彼女と向き合うことに耐えられず、猫と同じ道を走り出した。けれど、影はどこまでもついてくる。足を早めれば早めるほど、ディジーの狂気じみた笑い声が高まっていくように思えた。


 赤く染まった路地を右へ、左へ走っていくうちに、私は見知らぬ道に迷い込んでいた。左右に伸びるコンクリートの塀が視界を塞いで、迷路をさまよっているような気持になる。頬を汗がつたう。疲れ切って顔を伏せると、目の前にディジーの冷たい笑顔があった。

『逃げられると思うのかい? 自分自身の影から……』

 まるで、自分と天海のことを言われている気がした。転校することで、私は天海からじゃなく、天海に惹かれる自分自身から逃げ出そうとしているのだ。自分から逃げられるはずなどないのにーー

「もうやめて。私につきまとわないで!」

 私は目を閉じて、耳をふさいで、その場にうずくまっていた。けれどディジーの声は、足元から体を伝って、頭に響いてきた。

『逃れられるものか。影は、おまえの一部なのサ。ここにいると、夕日に揺らぐおまえの心がよく見える……おまえの恐怖。おまえの不安。おまえの秘密……』

「まさか……」

 さっと血の気が引いた。

 知られている。きっと以前から私の周りの影に潜んで、ずっと様子を伺っていたに違いない。ディジーは私の動揺に気づかぬふりをしながら、影の中でにやりと笑った。

『そうだ。私はさっき、おまえに復讐できないと言ったっけネ……でも、一ついい方法があったじゃないか。おまえの隠し事を、ピュアシュガーのやつに教えてみたら、どうする……?』

「そんなことをしたら……あなたを、永遠に許さないわ」

 力を込めて言ったつもりなのに、私の声は震えていた。天海に知られてしまうことを想像した途端、心臓に刃物を突きつけられたように、体が冷たくこわばるのを感じた。

 彼女に知られたら、転校しようがどうしようが関係なくなってしまう。きっと軽蔑されて、何もかも台無しになって、彼女も傷つけて……

『おや。それじゃ、おあいこってわけだ』

 ふと鞄の中で、ピュアホンの震える音が小さく聞こえた。フランシスか、天海か……私はそのまま、振動が収まるまで待った。そして、絞り出すように言った。

「やめて。お願い……」

 影の中の笑いが、さらに鋭く深くなるのが見えた。

『人にお願いする時は、もっと丁寧な言い方をするものサ』

 私は何も口答えできなかった。天海のことを持ち出された途端、迷子の子供みたいに、頭が真っ白になって何も考えられなくなっていた。

「お願い……します」

 悔しさと情けなさで、今にも泣き出しそうだった。けれどディジーの声はさらに冷たく、厳しくなっていった。

『膝をつけ。陛下がおまえたちにそうしたように』

 笑いの消えたディジーの声に、どう反抗すればいいのかわからなかった。彼女は本気で、私の心を折ろうとしている。復讐のために……

 もしかすると、それは正当な理由なのかもしれない。世界を守るためとは言え、私は彼女の居場所を奪い去ってしまった。シオカラス帝国。その目的が悪だとしても、彼女にとっては生きる意味そのものだったのだ。今この時だけでも、彼女の気が済むようにすべきなのかもしれない。私が、彼女の言う通りにさえすれば……天海は何も知らずにいられる。

(これは、仕方ないことなんだ)

 そう言い聞かせながら、半ば倒れこむようにして、アスファルトに膝をついた。その時、ぽつん、ぽつんと水滴が膝に当たった。それは私の目からこぼれた涙だった。

(助けて、天海……)

 心の中で私は、今一番遠ざけなくてはいけないはずの名前を呼んでいた。


「千世子ぉーーっ!!」

 はじめは空耳かと思った。あまりにも、出来すぎたタイミングだったから。

「天海……?」

 路地の向こう側で、クリケット用の大きなバット片手に仁王立ちになったその姿は、紛れもなく彼女本人だった。天海はディジーが何か言おうとする前に、私の影に向かって自分の鞄を力強く叩きつけた。

「どこの何者か知らないけど、二度と千世子に近づいたら、あたしがこの世の果てまでぶっとばしてあげるから、覚えときなさいよ!」

 夕日に照らされた頬が、かすかに揺れている。きっと一生懸命走ってきたんだ。私のためにーー胸に湧き上がってきたのは、震えるほどの喜びと、同じだけの恐怖だった。

「来ないで、天海! 来ないで……」

『フ、役者が揃ったネ』

 ディジーの声は鞄の下から、天海の影へと移っていた。

「ディジー!? 千世子に何したの?」

 困惑する天海の声。私はディジーに何も喋らせないように、天海の影に覆いかぶさった。

「べ、べつに彼女は、何もしてないわ。ただ、話してただけなの」

「でも、千世子を泣かせたじゃない!」

 天海の言葉を聞いて、よけいに涙がこぼれた。そんな風に、優しくしないで。期待してしまいそうになる……離れられなくなる。

(泣かせてるのは、あなたよ)そう口には出せなかった。

「お願い。何も聞かないで。このまま、帰って」

 私が言うと、天海は拳を握ったまま、困惑したように口をパクパクさせた。

「でっ、でも……!」

 ここぞと、ディジーの笑い声が響く。

『ハハッ! そうサ。二人の秘密の愉しみを邪魔するなんて、野暮はおやめよ』

「あなたは黙ってて!」と、遮る私。

 とにかく、天海をここから遠ざけなきゃいけない。でも、こうと決めたら誰がなんと言おうと曲げないのが彼女だった。それが他人のためならなおさら。

「あたしは帰らない。千世子が泣いてる時に、放ってどこかに行くなんて、できないよ」

 天海はそう言って立ちはだかった。その優しさと頑固さが、今は腹立たしいような気さえした。

「勝手なこと言わないで。私のことなんか、ホントは何も知らないくせに!」

 言葉は止めようもなく口からこぼれてきた。バカなことを言って、天海に嫌われてしまうのに。でも秘密を知られれば、どうせ彼女には嫌われてしまう。知られて嫌われるより、知らずに嫌われた方がいい。

 私は天海に背を向けて、深呼吸して、きっぱりと言った。

「私、転校するのよ。どうせすぐ離れ離れになるの。だからもう、私に構わないで」

 口にした途端、うそのように涙が止まった。瞳は乾き、その奥の心も冷たく乾ききっていくような気がした。私は決別を口にしたのだ。天海に対して、自分の心に対しても。

 視界の端で、ディジーが声もなく笑っているのが見えた。最初から、これが彼女の狙いだったのだ。私たちを直接仲違いさせて、不幸なまま別れさせること。それが彼女の復讐。そうと分かっても、私は自分の言葉を取り消すことはできなかった。

「千世子……?」

「ほら、もう涙も止まったわ。あなたが行かないなら、私が消える」

 冷たくそう言って、振り向いて、歩き出そうとした瞬間ーー天海の顔を見て、私は固まってしまった。

 夕闇の薄暗がりの中で、天海は子供のように泣いていた。乾いてしまった私の瞳の代わりに、彼女の大きな瞳から、大粒の涙があふれていた。私はどこにも立ち去れなかった。


「天海……」

 彼女は涙をこぼしながら、まっすぐ私の顔を見ていた。そこには、悲しみも、怒りもなかった。そこには、無防備に傷つけられた心だけがあった。彼女の目はぽっかり空いた穴のようだった。

「ほんとなの……千世子?」

 天海の問いに、私は答えられなかった。

「泣かないで、天海」

 彼女は黙って首を横に振った。その顔を見ているうちに、私はどんどん胸が苦しくなった。どうすればいいんだろう。どうすれば彼女が泣き止むんだろう。泣きじゃくる彼女と向き合ううちに、私の頭からはディジーの思惑とか、転校とか、好きとか嫌いとか、秘密がどうとかも全部吹き飛んでしまっていた。

 そんなもの、本当はどうでもいいことだったんだ。なのに私は、こうして目の前で泣く天海を目にするまで、ずっと自分が傷つくことばかり考えて、私がいなくなることで彼女がこんなに傷つくなんて、想像もしていなかった。

「お願い。天海が泣いてたら、私……どこへも行けないじゃない」

 さっきの天海と同じことを言ってるーー手を伸ばして、彼女の頬に触れた。指でぬぐっても、涙はどんどん落ちてきた。私は一歩踏み出して、そっと背中に手を回した。ぎゅっと抱きしめると、天海は驚いて、やっと泣くのをやめた。

「千世子……?」

「ごめんなさい、天海。私、嘘をついたの。ずっと、嘘ついてたの……」

 言わなくてはいけない。今また嘘をついて逃げ出せば、彼女はもっと傷つくことになる。彼女が悲しむくらいなら、私は打ち砕かれて、粉になってもいい。彼女が泣かずにいられるなら。

 さあ。今度こそ、本当に踏み出すんだ。嘘から抜け出すために。自分のためじゃなく、彼女のために。

「天海。私、あなたのことが好き。友達としてだけじゃなく」

 抱きしめた彼女の耳元で、私は声に出して言った。天海の顔は見えなかったけれど、彼女は私を突き放したりはしなかった。それだけで、救われた気がした。

「言ったら、もう一緒にいられないと思ったの。嫌われて、今までの思い出も、素直に思い出せなくなるんじゃないかって……それが怖くて、ずっと隠してた。それで、隠せなくなったら、逃げ出そうとして」

 両腕をほどいて、天海の顔を正面から見つめた。顔を真っ赤にして困惑しながらも、彼女は私の話をじっと聞いてくれていた。

「でも、もう逃げないわ。すぐに答えてくれなくていい。私はずっと待ってるから。天海の心の準備ができるまで」

「……わかった」

 そう言って小さくうなづいてから、天海はハッと思い出したように顔を上げた。

「でも、これだけは言わせて。あたしは、絶対に、千世子を嫌いになんかならないよ」

 その言葉と、彼女の笑顔を見た途端、私はあの時ーー彼女への気持ちを自覚したあの瞬間から、ずっと背負いこんできた重い荷物が、軽くなっていくのを感じた。そして久しぶりに、心からの笑顔で、彼女に応えた。


「さて……同じこと考えてる?」

 と、深呼吸して、天海。私の答えはいつも通り。

「ちょうどそう言おうと思ってたとこ」

 すばやく鞄から取り出したピュアホンを片手に構えて、私たちは同時にディジーを睨みつけた。

『アッハ……失敗か。麗しい友情に拍手したいところだが、あいにく両手がないのでネ』

「覚悟はできてるでしょうね。あたしたち二人を泣かせた罪は、マリアナ海溝より深いわよ」

 天海の鋭い声を、ディジーは影の中であざ笑う。

『フ、フ、無力な私相手に変身しようってのかい? まあいい、どのみち時間切れサ』

「時間切れ?」と、天海。

「日が沈むからよ。彼女は夕日の影の中にしかいられないんだわ……ディジー、よく聞いて。フランシスたちにあなたのことを話すわ。残った魔法の力を使えば、あなたたちを救えるかもしれない」

 私の申し出を、ディジーは一笑に付した。

『ハッ! 奴らにみっともなく頭を下げるくらいなら、地獄をさまよう方がましサ。だが心しておくがいい、ピュアビター。おまえが報われる日など永遠に来はしない。そしていつか、孤独の中で苦しみ抜いて死ぬところを、私はここで見ていてやる……』

 ディジーがそう言い終えると同時に、周囲はふっと暗闇に包まれた。夕日が沈んだのだ。足元は真っ暗で、ディジーの皮肉な笑い顔はもうどこにも見当たらなかった。

「……帰ろっか」

「うん」


 私たちは表通りに戻って、街灯の下を、二人並んで歩いた。なんとなく、照れくさい沈黙が続いていた。

「天海も、告白してみたら? 鷲P先輩に」

 不意に言うと、天海は飲みかけのアップルジュースをブッと口から吐き出した。

「そっ、それは関係ないじゃん! だいたい、千世子と違って、あたしと鷲P先輩はそんなに話したこともないし……」

「でも、好きなんでしょう?」

 私の問いかけに、天海は少し困った顔をして、フーッと息を吐いた。

「そう思ってたんだけどさ。さっきの千世子を見てたら、正直よく分かんなくなっちゃった」

 天海は立ち止まって、歩道のタイルを靴の先でつつき始めた。私は黙って、彼女が先を続けるのを待った。

「そりゃあ、もちろん、ずっと憧れてたよ。格好良いし、優しいし。でも千世子みたいに、相手のためにずっと思い悩んだり、嘘ついたり、泣いたりしちゃうくらいのことが『好き』なんだとしたら……あたしの『好き』なんて全然そんなじゃないような気がしたんだ」

 天海はまたゆっくり歩き出した。その背中を見ながら、私は頭でつい考えてしまった打算を、ため息と一種に夜空へ吐き出した。それから、ふっと心に浮かんだ言葉をそのまま彼女に言った。

「いろんな『好き』があるよ、きっと。私のも、天海のも」

 きっと、まだまだ子供なんだーー彼女も、私も。ちょっと世界を救ったくらいで、なんでも分かるわけじゃない。

 これからもっといろんなものを見て、いろんなことを知っていくんだろう。楽しいことも、悲しいことも。私たちの人生はつづいていく。自分たちが守った、この世界で。

「それじゃ、千世子は応援してくれるわけ? 鷲P先輩のこと」

 釈然としない顔の天海。私はその背中を追い越して、くるっと彼女に向き直った。

「応援はしない。恋敵だもの。でも、妨害もしない。私は私で、天海にイエスって言わせるように頑張ってみるつもり」

「……たとえば?」

 答える代わりに、私はひょいと右手を差し出した。天海は少しためらってから、それを握り返した。暖かい手の感触に、思わず顔がほころぶ。去年と変わらない、小さいのに力強くて、頼もしい手の平。

「なんか変な感じ。前はいつも握ってたのにね」

 そう言いながら、天海も笑った。あの時、あの場所で見たのと同じ、きれいな笑顔だった。私がじっと見つめると、苦笑いして顔を逸らした。頰が少し赤らんでいた。

 このまま、ずっと親友でいるのかもしれない。どれだけ近くにいても、やっぱり恋人になんかなれないかもしれない。こんな甘い時間の中でさえ、苦い予感はずっと心の奥にある。だけど今、彼女は確かに隣にいて、楽しそうに笑ってくれる……

「あ、流れ星!」

「えっどこどこ?」

「あそこ」

 私が指さすと、もう一筋、星が流れた。願い事はしなかった。それは、私が自分で叶えなくちゃいけないことだから。

 それから長い間、二人で空を見ていた。まばらな星たちは、箱からこぼれた宝石のようだった。


(おわり)

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