第28話「この世ならざる者」

三時間が立って自由落下をしている4機の機体は空気との摩擦でものすごい高熱を帯びていた。機体がとんでもない速さで落ちていることだけはそれで分かる。

『くっ、まだかこれじゃあ機体がもたない』

『大丈夫ですよ、この戦闘機は特別性、秘密裏に各国の戦闘機の技術の粋を集めて造られたものです。耐熱性に関しても宇宙ロケット並に出来ています』

『伊佐のお母さん、よく知ってるな』

『あらあ、新しい機体に乗る前にはマニュアルを千ページほど書いてあるのをいつも読むようにしていなければなりませんのよ』

『千ページって母さん、あの空母にくるまであそこのことは秘密にされてたはずだけど?』

『そんなものは発進前の数分間あれば頭にはいるので』

『伊佐の家族はいろいろ規格外すぎる』

『ん?伊佐さん。レーダーに反応、前方一キロに目標多数!』

 底からでてきたのはなにかとてつもない力をもった無機質なフォルムの生物たちだった。

『来たぞ!彼の者だ。全機攻撃体制!突っ込め!全てを倒そうと思ったら時間はない。狙えるものだけ狙って落とせ』

 機銃とミサイルの束がその生物群にあったった。そして中には炎に焼かれて落ちていくものも居る。レーザー兵器。超高温の遠赤外線をコンピュータ制御の砲塔が対象に発射する。対象はコンマ0・5秒で燃え上がる。

 そしてすごいのは自動マルチロックオンシステム。一度に二百発のミサイルをカーソルに入れてロックオンして自動的に連射できるのだ。

 それだけじゃない。両翼に二門、高密度のマイクロウェーブを発射する砲台が起動する。起動すると両翼から開閉式に砲門が出てきて一度に敵をどれだけ倒せるかを演算しつつ撃つことができる。うまくいけば連鎖爆発を起こし敵に深刻な損害を与えることができる。

 敵は多く一体は小さいがそれが一つのうねりのようにまとまって襲ってくる。機銃を当てているところで激しいせめぎあいが起こりどんどん群がるハエを炎で炙って落とすように次から次へと落としていった。

 全部で十の群れがまるで一個の手のように襲いかかってくる。人間の手の指を全部、槍にしてそれに反対側にもう五本の対になる指をつけたような感じだ。

 やがて機銃の弾が尽きて、留めていたその手の指が合わさるところにあらかじめ示し合わせていたマイクロウェーブ砲を四機が一斉掃射した。そのとたん周囲は閃光の爆発の嵐となって全ての敵は駆逐された。

 今自分たちは、弾丸より早いスピードで動いているのだ。そしてそれから四時間経過してやっと底についた。底は、ものすごく広くて火星のように荒涼としていた全てが殺風景で人気も何もない。光もささないから彼らは暗視ゴーグルで進むしかなかった。

 だがここで織花のスキルが役に立った。織花は、先頭に立って進んだ。どういうわけか気配を消せるだけでなく全く音を出さないとか少しの音も聞き分けるというスキルにも熟達していた。

「すみませんでした。飛んでいる最中ずっと気絶していたようで・・・・・・」

「いいよ、それより大丈夫?こんな真っ暗なところをそれもかなり広い。その中で彼の者の箱を探さなければならないんだ。ものすごく難しいことを任せてしまっている。すまない」

「いえ、だんだん目が慣れてきました。子供の頃から夜の森を一人で探検したりしてましたから」

「夜の森?おいおい、子供が一人で行くには危なすぎるだろう」

「いえいえ、私の実家はホントど田舎だったので1軒、家があったら周りが鬱蒼とした森といったところで夜になって晩飯の材料がなかったりすると森に行ってキノコとかとってましたから」

「織花、すごいな。まるで熟練の山師のようだ」

「ああ、それから暗視ゴーグルはここではなんの役にも立ちませんよ。ずいぶん深い穴のようなので光が完全に届かないようです。私は、なんとなくどんな暗闇でもぼやっと周りが光って見えてるのでなんとなく道がわかるのですが。それにしてもここはどこなんですかところどころに大きな船がそのまんまひっくり返っていたりとか飛行機が墜落してそのまんまになってたりとか潜水艦とか宮殿らしきものまでありますよ?」

「ああ、その昔、この地域は一つの大陸だったらしいんだ。だが大きな地盤変動で大陸は海に沈み、そしてそれからここらは火山帯の活動が盛んで鉄を腐らす蒸気や強力な電磁波を発生させて電磁パルスのようなものを起こしたりと。ふしぎな現象が絶えない」

「へえ、そうなんですか。やっぱり豊村さんはものしりですね」

「うん、だがこういう伝説が残っている。そらをすべ、だいちをつかさどり、うみをしはいした大陸は大いなるレヴィアタンの名のもとにほろびさった。今では海底にそのそくせきを残すのみなり」

「レヴィアタン、ああ、リヴァイアサンのことですね」

「ああ、そうだ。旧約聖書にはその名前で乗っているのさ」

「あ、あの」

「ん?どうした友恵」

「リヴァイアサンってさっきのあの巨大なあれですよね?」

「そうだ。今この周りを回ってここに渦潮をつくって大きな空洞を造ってる張本人だ」

「あれはなんなんですか!?ものすごく怖かった!私、バハムートもなるべく見ないようにしてたんですよ、なんていうか恐怖とか以前に意識そのものを持ってかれるような感じであれは目にしてはいけないんだと思います。人はあんな存在と対等に渡り合うようなことはありえないんでしょう」

「まあな、強いて言えばそうかもなだがこれからわたしたちが対峙するものたちもそれと同格なんだぞ?」

 織花の顔が凍りつく。

 そんなことを話している女子一行とは別に後から着いて来る男子一行があった。

「おい、糞ガキ、内の伊佐とはいつごろから付き合ってるんだ、あ?なめんなよコラ」

「あー、今年の夏休み前からですよ」

「ほう、じゃあかれこれ一ヶ月近くになるわけだ。で交際一ヶ月でなんでてめーが内の道場に入り込んでやがんだ。しかも合宿の際にはテントで一つ屋根の下だと。で親父様に連絡の一本もはいってねーとはどーいう頭してんだコラ、この金髪かこの金髪が頭の流れを鈍くしてんのか?染めたんか?この不良があ!」

「お父さん、金髪は悪口になっておまへんで、こいつの金髪は地毛ですから堪忍したってくださいよ」

「そうですよ、あなた?なにもそう邪見にしなくってもいいじゃないですか。あの伊佐にこんなチャーミングなボーイフレンドが出来たのですよ。苦労して産んだ甲斐があったわ。ほら顔つきなんかモデルさんでもなれそうじゃない。うふふふ」

「か、香苗!伊佐はよー、伊佐はよーあの可愛かった伊佐がよーもうすぐ……ぐふっ、うぇえええ」

「はいはい、大丈夫ですよ。あなた。伊佐は結婚してもあなたのことをちゃんと忘れたりしないですよ。だってあんなにいい子ですもの、あ、そうだ賢治くん。結婚式はどこがいいかしら?ハワイ?グワム?うーん、思い切ってオーストラリア!」

「あのー、さっきから俺ら、置いて舞い上がんないで貰えませんか?ほら、残りのパイロットの高町の選んだ傭兵さん。ものっすごくビクビクしてるんですがそれに」

「ふむ、そーいう、糞ガキは全然平気なんだな。大方この尋常じゃない気配にビビってしょうがなくなると思ったんだが」

「うん、だがそろそろなにかとてつもないやばい気があたりに立ち込めてきてるんで持ってきた篭手を腕につけてるところなんです」


「友恵、刀を用意しろ、そろそろやばい感じがする」

「分かりました。豊村さんも気をつけてください」

「前方、十万kmにものすごい巨大な箱が蓋が開いた状態で立ってます」

「さっきの奴らはこの中に入ってるやつの巨大な思念が産んだカスみたいなものだ。この中に居る奴は桁が全然違う!」

 それは遠い闇のむこう。高さ、3マイルあって幅1.5マイル。蓋らしきものがずれていて底から強烈な毒気が流れ出しそれらが先の戦闘機との一戦で戦った彼の者になっていくそしてそこらじゅうを埋め尽くして不快な金属音、ギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルギョルとそこらじゅうでこすり合ってひしめき合っている。ずれたその中は驚くほど暗い。

「伊佐さん、伊佐さん、伊佐さん!あれなんです?わけがわからない!こわい!どうすればとまるんですはやくとめて、いやああああああ!」

 織花が混乱状態に陥ったので賢治がみぞおちに一発当て身で気絶させ。

 他のものもものすごい威圧感、必死に闘気を集中させて押し負けないようにするだけでせいいっぱいだった。

 さてこんな巨大なものの中から何が出てくるのか。もはや一行は嫌でも恐怖を感ぜざる負えなかった。


 しかしことは彼らの想像を超えていた箱から出てきたのは、松明を持った美少年だった。その顔はどこか人間離れしている。ニコニコと仮面を貼り付けたような気味の悪い笑い顔の美少年だ。

 その美少年は、一行に声の聞こえるところまで近づくとくすっと笑ってこう言った。

「やあ、地上のみなさん。お越しになるのを待ち望んでおりました。今宵は世界の終焉のために我らが神が皆さんに盛大なセレモニーを開きたいということです」

「セレモニーだと?世界が終わろうとしているのになにを祝福するのだ!」

 豊村は怒気を帯びた声で言った。

「それは、地球の先住民である我々が我々のために君たちの地上に殺戮をもたらし地上にまた繁栄するための祝福ですよ」

「殺戮だと?」

「おやあ?あなたがた人間は、戦争というものをしないのですか?自分の豊かな大地を探すのにそこにくらす害虫は除去すべきでしょう?」

「きさまっ!」

「怒らないでくださいよ、私はあなた方に私たちに対抗するために4000年ほどいや一万年くらいの時間を差し上げたのですよ?これ以上にフェアな戦いはないでしょう。

未熟で愚かな種族を消し去るのはたんなる破壊です。しかしこの一万年であなたがたもそれ相応の文明をもったと思うのですが、いわばこれは世界と世界の戦いということです」

「地球の先住民たる我々がと言ったな。どういうことだ?」

「言葉の通りの意味です。はるか以前から地球で栄え宇宙を支配していた我々がまたこの世界に降り立つということです」

「つまり過去にはおまえたちがこの世界の主人だったと?」

「その通りです。実に物分かりがよろしい。ですがこの世界から立ち去るときに滅しておかなかった、神々がどうやらそうとうな力をつけているようで、この箱を門として周囲へ外から出さない結界のようなものが張られている」

「ああ、世界中がこの世の終わりになんとしてでもと力を合わせている」

「そうか、どうも自分たちの立場のわからないものたちが人間どもに力を与えているようだ。我らが神は、その上で憤怒を隠しながらもこうしててめえらと対等な殺し合いをお望みということだ。いっとくが俺はただの使いっ走り、だがてめえらくらいなら5秒あれば片付けられる」

「やってみればいい、無理だから」

 ズン! 少年の顔が笑い顔から一転して憤怒の形相になりほとんど衝撃波に近い殺気がみなを襲った。

「威勢だけはいいんだな、じゃあワンゲームスタートと行こうか。ゲームその一、俺を倒せ、時間は無制限。たとえ十億万年かかっても俺を倒せれば、ゲーム終了だ。最大勢力で来いよ、じゃねえとこんな結界すぐにぶち抜いちまうぞ?それはこっちとしても困るんでな」

「さあ、みんな行くぞ賢治、行け、一番手はお前だ」

「おい、聞こえてねえのか?最大勢力で、といったろうが、ああ?」

 ギィン!重くて固いものを力で捻じ曲げるような音が響いた。実際は賢治が回し蹴りを少年の首に決めただけなのだが、少年の首はありえない方向に曲がってる。

「ほお、いい蹴りだ、だが首をもぐくらいじゃねえと俺は殺せないぞ?」

「そうか、じゃあ遠慮無く」 

 そこから首をかかえこんでひねり、ちぎった。

 赤い血があたりに散漫する。

「けけけ、悪いな、首をちぎったくらいじゃ死なねんだよ、俺」

 そいつは賢治から首を取り返す、元あったところにつけたするとカチっとはまって首は再びつながった。

「うげ、おもちゃの超合金か、おめえ?」

「なあに、こんなのは余興だ。だが結構やるな、すまねえ、俺の勘違いだ。久々にこっちがわに来たんで感覚にズレがきてるんだ。そういうことだから俺も遠慮なく行かせてもらうぜ!?」

 ブアッと旋風が通り抜けるとともに賢治のみぞおちに深々と拳がめり込んでいる。

「たしかそこのお嬢さんにやってた技だろ?このあたりだったよな、こうやって五体で殴る蹴るするのがおまえのスタイルか?」

「がはっ、ああまあな」

「ふひひ、じゃあ俺には勝てないぜ、そら俺を殴ってみな」

 見せびらかすように頬をポンポンと突き出すので問答無用で殴ってみた。すると拳が消えて自分の手が自分を殴ってる。パンチを跳ね返された?

何度殴っても跳ね返される。殴るだけ殴られてる。それも自分の拳に。

だが賢治はあきらめない。すると逆に自分の顔を殴りだした。

賢治が感じたのは拳が闇の中へ消え、気づくと相手の頬にあたっているという感覚だ。

案の定、単純にパンチの方向をかえられてただけだ。そんなことをどんなに高度にしてもあらゆる打撃の質や威力を変えられるつまり物理法則の全てを掌握している賢治には異能の力の反射は通用しない。

「へ、へへ。空間転移を見破られちまったか」

「なるほどな、だがまやかしとかちょっとしたトリックじゃ俺は倒せない。そういうのは技の質を変えていけばいいだけだからな。

宣告してやろう、これから打つパンチはもう外れない」

「へへへ、おまえじゃ、お釣りが来る」

 ゴギャ!ガッガガガ!面白いように賢治の連打はそいつに当たった。さっきとはずいぶんな差だ。

「な、ぐは、げへ、そんな、がっ、どうなってる?」

「なに、少し本気で殴りに行ってるだけさ」

 殴るたびに硬いものがひしゃげるように形が変わる、そしてグチャグチャになった少年は、言葉さえ発することはできない。仮にこいつが運動エネルギーをそのまま反射してようがしまいが賢治の拳はそんなものでは止められない。一つのことを極めるとはそういうことだ。サムライが斬れないものはないといったら斬れないものはないのだ。

 もはや賢治の拳に常識は通用しない。

「さて、どうやらこの世界から消し飛ばすくらいの事をしないと死ななそうだな?それじゃあそういうことで」

 次の一撃はそのまま、少年を消し飛ばした。どうやったらそんな突きが打てるのか理屈は分からない。

「あはは、一番手がやられちゃった、打撃技なんて原始的な技もここまでいくと結構すごいわね」

 みんなが目を疑った声の主はあの織花だった、まさか自分たちの仲間が空中に浮かんでその目に妖気のような紫色のオーラを漂わせている。唇もまつげや髪もまるでオーラで染め上げたように光を放つ紫のオーラによって化粧がほどこされ、服装もかわってその姿はまさに妖姫といったところか。

女は、自分の体の何倍もある薙刀を軽く振った、織花の腕でそんなことはできるはずがないのに、その薙刀は振った瞬間に突風をもたらす。

「あなたたちの戦闘スタイルに合わせてあげるわ、さあ、そこの武器をもってるあなた、お仲間が妾の妖気に耐えられなくなって死ぬまで私を楽しませて?」

「くっ、だれかが、織花さんの体に細工したんだ」

「落ち着け、伊佐。やっこさん、友恵を指名してきたな、どうする。早くしないと織花はなんでもない女の子だ。すぐに体が耐えられなくなって死んでしまうぞ?」

「いいわ、わたしがやる、相手の獲物は相当に巨大、まずはその武器を叩く!」

 友恵はそういって視界から消えた。

「速い!友恵さん!強くなった!」伊佐が驚きの声をだした。

「あいつ、もっと力をあげたな」

しかし女はまるで時間を止めたようにその攻撃を薙刀で止める。

「はあ、人間の速さなんて結局この程度、妾は、無限の光をもつもの、空間も時間も妾を束縛することかなわず!」

「く、うわあああ!」友恵は連撃を繰り出すがそれをいとも簡単に止めるあの巨大な薙刀を織花の腕が支えられるはずがない、ならこの連撃をとめているのは別の力。すると織花の首から出血が。

「ちいい、なんという脆弱な体よ、これくらいの力にも耐えられぬか、ええい止めだ興ざめだ、お前友恵とか言ったな、その弱さではほかの者の足手まといだ、今度まみえるまでに強くなっておけ。するとまるで何かが出ていくように織花の姿はもとにもどった。しかしすぐに苦しみ始めた。意識はない、だがあの女の力で体に相当な負担がきてる。

「友恵さん、わたしが」すると伊佐が織花の胸に手をやるとまるで活力がいきわたるように体の崩壊を止めた。

「伊佐さん、大丈夫ですか?」

「私なら問題ない、織花はやつが取り付くには体のキャパシティが小さすぎたのさ、たぶんこれはもともと用意されたしかけだ、ほら額に変な文様が浮かび上がっている。これはたぶんあの魔術師の仕業だ」

「でもここには細川さんはいないんですよ」

「こういうこともあろうかと細川さんからドルイドにつたわる秘薬をもらってある」

 伊佐はそのビンのしずくを一つたらすとその文様はきれいに消えた。

「よかった」

「たぶんやつは敵の中核だろう、こんなに早くわたしたちの力を上回るやつが現れるとは想像してなかった」

「それって私たちでも負けることがあるというより私たちより力が上な奴がいっぱいいるってことですか?」

「まあ、そうなる」

「そんな」




「そんなに落ち込まないでください私たちは戦争してるんです」

 さっきの少年ではない、顔が般若の相である。それにただ歩いているだけなのに動きの緩急でまるで分身しているようにみえる。

「お前たちはなんだ、まるで梵天の魑魅魍魎のような姿をして」

「余興は楽しいほうがいい、あなたがたが日本という小国の生まれだとかで私たちも仏教や神道の神のような姿で現れてみたわけです、姿だけでもなにか不気味でしょう?

戦において仮面をつけてどれが本当の将なのかわからなくするのは定石ですよ?

「つまり、それは仮面というわけか」

「まあ、私たちの魂はあなた方のと違い無限ですからいろんな戦装束をして楽しんでいるわけです、おまえたちは我らの悦楽の余興になればいいんだよ!」また殺気だけで周りを圧するほどの衝撃。すると途端に姿が大きくなり大蜘蛛のような姿に。

「賢治、ここは私が相手をする。おまえは友恵と母さんとあの箱のなかへ」

「おまえを置いてはいけねえ」

「こいつを倒したら、あとに続く。それに父さんもいる」

「分かったすぐ、こいよ、ちょっとまて織花はどうする?」

「そのもののことは心配するな、我とて格下のものを人質にはせん」

「ああはいうがな、どうしたものか」

「あ、あの」

「ああ、高町のボディーガード」

「それなら俺が戦闘機まで運びます。正直、もうここにいるのは無理だ、それにこの子もここじゃ危険すぎる戦闘機のなかなら何とかなります。危険になれば無線かなにかしらの通信手段でそちらにつなげます、俺もこうなったら腹をくくりますんで」

「分かった。己の実力を推し量った上での最良の選択、いいボディーガードだ。高町には礼をいってもいいきれないほどだ」

「ではそれでは」

 まるで忍者のように凸凹した地形を進んでもときた道を織花を抱えて走って行くボディーガード、せめて名前くらい聞いておきたかったが、ボディーガードはそれを拒否した。自分はあくまで高町の忠実な下僕でしかないとかそういうことらしい。

「じゃあ、行ってくる。豊村、ファイト!」

「さあ、始めようじゃないか殺戮の大祭を!まずは我らの使いっ走りが下賎な言葉遣いで祭りを汚したことを謝罪しよう」

「なにか、自分がとてつもない強敵みたいにしゃべっているけどあなたのこと、全然こわくないんだよ。すまないが一瞬で終わってしまいそうで少々がっかりしてる」

「くはは、バハムートの娘となれば言うことも違うか、さあ、参れ。ん?おあ?片腕が!」

 そいつの片腕は手首から綺麗になくなっている。

 そして豊村の影がどんどん大きくなっていってやがてそいつよりも大きくなってそれを見てしまったやつは恐怖におののいた。

「お、おおおお!や、やめてくれえええ!」

 グシャ!

――賢治の一行

「どんだけ、深いんだこの箱ン中は?ぜんぜんどこかに通じてる感じがしない」

「お母さん、どうですかこの金髪の不、これで豊村さんの彼女なんですよ、許せますか」

「私的には、かっこいい男の子に思えるのだけど、今の女の子はこういう感じタイプじゃないのかしら?」

「い、いえ。お母さんのタイプはとてもいい線いってますけど……不良ですよ?」

「でも賢治くん、さっきだって先陣きって未知の敵に向かっていったでしょ、私は逆に少し暗い不良な感じでも心が優しくて熱ければいいと思うの」

「お母さんは分かってないんですよ!」

「そうかしらあ」

「そこ!この場面と全然そぐわない会話しない!だいたい、俺の金髪は地毛で不良じゃねえ」

「ほら、不良って言葉に抵抗があるってことは極悪非道な悪党なんですよ」

「あら、悪党はこまるわ、お婿さんが少年院なんて悲しいもの」

「ああ、くそ。話を聞かねえ奴らだ……」


――豊村の一行

「おまえ、あいつの何処が好きなんだ?まあ、俺の次にいい男ではあるがな」

「そ、それは、まあ強いて言えば昔の父さんに似ているってところかな、面白いし」

「はあ、自慢の娘はファザコンか。お父さん冥利に尽きるぜ、娘よ」

「あのな、父さん、ていってもあいつのほうが百倍いい男だからな、金髪だし」

「金髪はいいのか?あれはどっちかっていうといい感じなんだな?」

「ま、まあ」

「ふ、ふふふ」

「と、父さん?」

「だが俺はあいつにお父さんと呼ばれるのが我慢ならん!あいつがそう呼ぶのならばじんましんが出てでも息子よといってやるさ、ワハハハ」

「父さん、なんだかんだいってもわたしのこといつも肯定してくれてありがとう」

「……幸せになれよ、娘……」

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