第29話「終末の決戦」

「目標、完全に沈黙。『シークレットビースト』二体ともにです」

 二体のシークレットビーストはバハムートととの戦闘で沈黙していた。


「こちらの損害は?」

「戦闘機が二百機ほど飛行不能、パイロットは脱出して空母で救助が完了」

「そう、その救助したパイロットのうち、継続して戦闘が可能なものは空母の滑走路に搬送、新しい戦闘機でいつでも出撃可能なように」

「はい!」

「明日香、どう?体は大丈夫?」

『ああ、すごい気持ちいいぜ、槍もまだ半分残っている」

「明日香、槍はできるだけ温存してそれはこちらの切り札、なくなれば替えはないの」

『OK、じゃあ、ちょっと休んでるよ』

「高町司令官、右後方から堕天使の軍が、戦闘機が応戦中」

「よし、また『神の杖』を使うわよ」

「雲の動きに注意、今からこの分厚い雲に風穴を開けてやるわ」

「高町司令官、どうするのです」

「きまってるじゃない、緯度と経度を割り出して雲の中へ『神の杖』を投入するのよ」

「そんな、味方の戦闘機はどうするのです」

「全戦闘機に通例、コード000を開始、用意!」

「コード000、開始を確認、全戦闘機に発信」

「高町司令官、そのコードは」

「『トップシークレット』よ、戦場ではこういう凪の状況が一番こわいのよ、『シークレットビースト』は沈黙。でも撃破まではいってない、たぶんあの二体は通常兵器では破壊不可能、なにかしら魔法のような威力を付与した兵器でなければ通用しない生きてる世界が違うのだ。

通常兵器ではあの二体にはダメージを与えら

れない、だから今細川さんに動いてもらっている。

「高町司令官まさか!」

「そう私はあの二体沈黙させるだけじゃない

撃破すると決めたの!この世の中にあんな怪物がいるとは知らなかった聖書の話なんて、

本当のことだとは信じられなかった。でも滅びは私たちの常識をこえて突然起こるのよ、

それまで私たちが作り上げてきたものをすべて打ち壊して、そんなことさせない。だって私はこの世界が好きですもの。残りの槍は五千発、そして各宗派の多重結界を展開している細川さんの力それでやつらにとどめをさす」


 龍と獣は、たかが人間風情にここまでやられたことに腹を立てていた。どうして人間ごときにやられるのか?憎しみを炎に、激情を油に絶望を死に。彼らを殺すための方法を思案した、幾万の時の間を生きてきた二つの存在はまず人間の心をかき乱すことにした。

最初の計略はうまくいった、古き言葉で世界を乱し混乱を招いて同士討ちをさせようとしただがそれにたいしてやつらは結託して自分たちを強固にした。

 何かが違う、審判の日のはずがやつらはその身をゆだねず懸命に戦おうとしている。

獣と龍は思った。もう、ただの子羊ではなくなった。

運命にあらがおうとする勇者なのだと。

すると獣と龍は体を打ちふるわせ、歓喜し

人間からの挑戦状を受けた。

 とその時、またもや大きな衝撃が広がった。

ハリケーンの雲をぶち破って『神の杖』が使用されたのだ。

コード000、それは一万を超える戦闘機に搭載された、小型ブースターによる電子結界なのだ。一万の戦闘機が『神の杖』を落とす場所の外周を旋回してブースターを起動、

そして堕天使の軍を『神の杖』爆撃時までその場所から動かせないようにするためなのだ。

 それによって堕天使の軍は壊滅、これで残すは『シークレット・ビースト』二体だけだ。

「先に起き上がったのは龍だった。こいつは

 その巨体でものすごい高度まであがりそして全身に炎を宿らせ、高町たちの艦隊を炎熱で融解させる気だった。

「明日香さま、いい?バックの中に特別、長い槍がありますか?」

『ああ、これは?」

「「それは細川さんがロンギヌスの槍を作る過程で生まれた槍よ、一万本霊槍を作るとたまにそういうものすごい力をもった槍が生まれるんだって」

『へえ、すごいのか?』

「私のお墨付き」と細川さん。

『これを投げればいいのか?』

『そう、今、上空にいる赤き龍へ、さっさとしないとわたしたちが丸焦げよ?」

『おう、わかった』

 明日香はそういって槍を投げた。

槍は稲妻になって飛翔して赤き龍に突き刺さった。電撃が龍を襲い、ぎゃああとわめきながらもんどりうって落ちていった。

のこるは獣のみ、龍が倒された獣は牙をむき出しにして今にも襲い掛かる勢いだ。

ロンギヌスの槍はあと5000本しかしやつがこちらへ間合いを詰めてくるのに一秒もかかるまいあと投げれて2,3本どうすれば。

すると獣の周りに結界が張られる。

「なんだ?今度は?」

『私です、細川です、言われた通り獣を結界にとじこめました』

「よし、今よ、明日香、やちゃって」

『うおおおお!』

 運動神経のよい明日香はもうやり投げの技に習熟していた。狙うは心臓。いや獣というからには弱点があるはず。

獣は一本一本、けったいな槍に貫かれることで怒りそして弱体化していた。

獣は全身全霊で結界を破ろうとするが破れない。そしてその瞬間はおこる。細川さんが結界を収束させて獣の腹をむき出しにしたところを明日香の槍が貫いた。

断末魔の悲鳴とともに地中深くへ埋まっていくそこに海の水が注ぎこまれ、龍も獣も地に落ちていった。

私たちは打ち破ったのだ。

世界中から歓声が上がった。

沈黙はもうない。

沈黙は破られた。

「高町司令官、レーダーに目標多数、これは?

シークレットビースト、二体の内圧がたかまっています。このままエントロピーが増大すると自己崩壊を起こしてこの太陽系ごと吹っ飛ばしてしまいますよ!ああ、レーダー停止、空母「いずな」機能全停止、ほかのイージス艦が手旗信号で打電、われ、本艦強力な電波干渉をうけたり、よって援護、不能」

「どういうことですか?高町司令官」

「落ち着きなさい、現代戦において敵国へのサイバー攻撃は常識、やられたわ、

自身の力を電磁波に変えてこちらのサーバをハッキングしてるのよ。

全艦、補助電源に切り替え、手動にスイッチ。

「な?正気ですか、ハープーンなどのミサイルは精密な演算から成り立ってるんですよ?」

「あなたは、こんな状況であんな面倒な兵器を使うつもりなの?」

「え?」

「いい?人間最後に信じられるのはアナログだけよ、この船にはそのための手動装置が組み込まれているの。そして戦闘機も高度なOSを必要としない、完全な手動攻撃機なの」

「そんな。サイバー攻撃を受けておいてその不利な状況はどうやったって覆せないわ、それにあともう少しで太陽系ごと吹き飛ぶかもしれないのですよ?」

「人間は、素手でピラミッドを作り、パルテノン神殿を築き、始皇帝の陵墓を造ったのよ

世界の終わりくらいどうどうと姑息な兵器に頼るのをやめなさい!全機、ミサイル等の装備を捨てよ、ただしミサイルの切り捨て位置に注意、そのミサイルは手動で機雷になる」

「司令官、ソナーに反応、相当数の未確認潜水物体を感知」

「全機、ミサイルの切り捨て用意、放て」

 一万を超えるミサイルが海中に投下、そのまま各イージス艦が司令塔になり、爆破、海中の敵にダメージ。

す、すごい大海中の敵へのそなえもしてあるなんて。

「司令官、全方位に堕天使の軍が、戦闘機が落とされています」

「搭乗員の避難を優先、絶対に一人も死なせるな!空母「いずな」メインデッキ開閉。他

空母も同様に!」

「ええ?メインデッキ開閉?」

「そう、その赤いラベルのボタンよ」

「これは非常時の脱出用ボートのボタンじゃ」

「脱出?世界の存亡がかかっているのに、そんな観念、あるはずがないでしょ、いい、相手は堕天使。そして悪魔なのよ、もともと滅することなどできないのよ、悪という概念そのものも滅することができないのと同然にね。

でも人間はそれに絶えず打ち勝ち、憎しみと悲しみ、嫉妬や激情に負けずに生きていくものなのよ、これはそのためのボタン。さあ、空母「いずな」の本領発揮!」

メインデッキが開閉されると巨大な砲門が三っつ三連ででてきた。

「そんな、空母に大砲なんて!」

「大艦巨砲主義万々歳ぃいい!さあ、その弾頭で相手をぶち抜いて、いい?各砲門は、それぞれ操舵トリガーによって制御されるわ、つまり当たるか当たらないかは各艦の搭乗員の腕にかかっているのですのよ。弾は次元縮小を起こす特殊弾丸、相手のエントロピー増大を抑制するわ」

「司令官、こんなもので倒せるのでしょうか?」

 少尉は青い顔をしている。それに対して天光は満面の笑みだ!

「そうね、無理でしょうね。上空の堕天使の軍を各戦闘機の備え付けキャノンで抑えられても10分が限界だわ、そっちの主砲でもね。

だから秘密兵器をつかうわ」

「まさか、波動砲なんていうんじゃないんでしょうね」

「うん、それ凄く似てる。でも波動エンジンなんてついてたら宇宙でも戦えるでしょ、もっと実践的な代物よ」

 すると高町はいずなの機関部に入っていった。

そこには、人ひとりがのれるくらいの搭乗席があり、そして椅子についてるトリガーを引くとそのまま前にスライドして空母の甲板に現れた。

と現れたのは球状の電球のようだ。

そのフラスコ内に高町は座っている。

「さあて、ルークとキングを入れ替えて攻撃にうつりますわ、まもっとも私は将棋の方がすきですけど」

 フラスコ内には高出力の電流が流れ始めた。するとものすごい光を放ち始め、そしてそれが上空の雲に向かって照射された。昔ある博士が天体の観測のためにある物質を天体に照射した、すると二キロ離れた村がその日のうちに全焼したという。

 それから数百年その男の研究が生んだその装置は莫大なエネルギーをある地点からある地点へ移送させることができる。つまり高エネルギー転移装置、その威力は核爆弾とは比較にならないような威力そのうえどんなエネルギーでも飛ばすことが可能、そしてそのエネルギーは電気、つまり天光は世界中の電力をこの装置に持ってきて一点に収束させて打つことにしたのだ。電撃には電磁歪曲の仕組みで二体の爆発を最小限に抑える働きがある。

 そしてシークレットビースト獣と龍にはさきほど明日香がしこたま、槍状のものを突き刺してある。さてゼウスの雷霆がロンギヌスの槍を、避雷針のようにして直通でうけても獣と龍は立っていられるだろうか?爆発と爆縮を同時期に同じ位置にはっし対消滅で打ち消すという天光の大胆な発想である。そう、最年少女流棋士竜王になりそれ以後も破格のいきおいでタイトルを取り、電王戦で高層ビル一個分のホストコンピュータと暇つぶしで、170勝している超天才高町天光は、いつでも相手でさえ驚愕するような派手な手で裏では綿密な計算のもと華々しく勝つのがモットーという人物だ。

 結果は、まあ、軽く相手を沈黙させた。

つまり爆発は起こせなかった。形を保てない二体はかなり不安定だが徐々にしぶとく再生している。。

「ふう、これでもエリア24の機密装置を使った超大がかりな作戦なんだけどなあ、これで今の科学は百年くらい進むほどのテクノロジーなんだけど、まあ、最後はやっぱアナログに頼りましょ、ってなわけで全砲門、発射!」

「は、はいなんとか」

「よっしゃ、ぶちかませー!」

 戦艦大和クラスの砲門が一斉に火を噴いた。

もともと空母を撃沈させるための主砲であるなまじ、現代兵器よりもかなり効果が高いらしい獣の腕がもがれ、龍が勢いに飲まれて後方に百キロメートル後退した。

「し、司令官、堕天使の軍の勢いが落ちてます、それどころか飛べなくなって地に落ち始めてます」

「ふう、対空戦もやはりねばり勝ちのようね。このときのために作った特殊燃料のおかげでどうにか戦い抜けたようですわ。さあ、砲弾がつきたらまたやつらも力をもりかえすわ、通常兵器、そろそろ運転再開させますわよ」

「ええ、司令官あれって切り捨てたんじゃ」

「今の文明社会の利器を切り離してどうやって六十億人もの人間を守るのですの、さあ、こちらも電子戦はじめるわよ」

「は、はい」

すると高町は例のフラスコ装置から、複雑な信号を送り始めた、これは、そのまま、巨大な量子コンピューターになるらしい。空母「いずな」作戦名「いかづち」とはここまでをよんでつけた名だったのだ。

 量子コンピューター―実現すれば世界中の

パスワードや暗号がすべて意味をなさなくなる、衛星でさえ、狂わすことのできるモンスター級巨大サーバーだ。それに周りの空母の管制塔がリンクして一つの巨大ネットワークを形成する。なにしろこっちは世界中の電力を使い放題。節電は正反対の天光の策である。

「やはり、相手の暗号は666を基盤。ここに知恵が必要である666とは人間をあらわしている。知恵あるもの。その謎をとけ。6という数字は5という素数の次の数字。完全な数字…5の次…足す一 完全に近い不完全。その上での人間という意味、それらが複数。……人々、人類。6足す6足す6は18、

ふむ、でもこの数結構便利ね、なんにでも代用できるし、こういう原理的に有利に働く数を相手に知能戦をしかけるのは愚かね。、でも魔性がついてはなれないような不吉な数字はあまり使わないほうがいいわ。そうね666を裏返して999?111から999。なるほどたしかエンジェルナンバーとかいう奴ね。それぞれに意味がある。これが一番の緊急コードかしら。悪魔は絶対に神に勝てないようになってるはず、でなければ天地がひっくりかえっているもの。そう、人は信じる力によって奇跡を起こす。私は、自分とこの世界そして今戦っている人すべてを信じているわ、そしてここまで戦わせてくれた神も信じ始めている。でも人間はまっすぐに進むということをとても難しいと感じるもの、物質的なものを越えて精神の域にまで達してはじめて奇跡は起こる、さあ、もう一秒13分のロス、敵の侵入速度はものすごいわ、でもパンドラの箱も結局一つはのこるもの」

 高町はわけのわからないことをつぶやきながら必死に三次元型キーボードを動かし通づける。それ手をすっぽり覆ってしまうようなもので指先から手首までの動きに反応して、ものすごい高精度の入力ができる。

そして今目の前には一つの立体ホログラムがある。

それはまるで蝶難解なルービックキューブのようで、3列の数字が三回続いた箱になっている。それが666個の箱になっていてそれが一つの箱を形成している。

 右のスクリーンにはタイムリミットのスカウターが表示され、それがもう十秒を切った。

キューブは着実に組みあがっていくがそれでも侵入してくる数字の乱立で統制は乱される。

今や高町は黙示録の獣と一騎打ちをしているのだ。

 残り3、2、1

000.1秒

スカウターは一がゼロになるところで止まった。キューブが完成したのだ。完成したキューブは自己維持ができずに箱の形から収縮して星の形になりそしてパキンと折れ、ボロッと崩れた。

「ふー、やったわ、これで通常兵器が使える

でもそれもどうやらタイムリミット付きのようね通常兵器も弾数に限りがあるわ、ここからは現実の空間で対局しましょう」


 凍り付いた時間が動きだす、お互い持ち時間をかけての持久戦である。

あとは伊佐様そして賢治様あなたがたに持ち時間すべてを賭けましたわよ。


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