「世界を覆う沈黙の鐘」

第23話「物語は唐突で凄絶に始まる」


夏が来た。テレビでは、相変わらず異常気象とか日本の領土問題とかが話されている。

戦争が起こりそうな予兆もあるがそれは、日本社会の多忙で平凡な日常にかき消されていく。

 豊村家では、このまえの事件で警視総監の松峠というおじさんが来ていた。

 豊村家ではちょうど夏休み後半に入って四人と一人の友達が集まっていた。あの織花という子も一緒だ。

 友恵は庭で竹刀を振ってるし、天光と明日香は、将棋で熱烈なファイトの真っ最中だ。しかも八戦全部天光の勝ち。それどころか六枚落ちで天光有利とかいうありえない状況。もうそろそろ王将と歩だけでお相手してやりますわよ、とか言いそう。明日香はなのになんか全然焦ってない。どうやら駒を動かすだけで楽しいようだ。それにこんなに簡単に負かされるとなんかスポーツ精神がうずくらしい。明日香は昔おじいちゃんと遊んでて腕前は玄人級。だが現在将棋界最強の女子高校生には歯が立たないみたいだ。

「それでですね、あのテロリストは国際的なカルト信仰の結社の一人だったようで今、署で詳細な情報を聞き出しているところです」

「気をつけてください、相手は服に忍ばせた針一本でたやすく人間を皆殺しにできるような人間です」豊村がそういうと松峠は首をかしげた。

「ほう、豊村さんはどうやらあの男についてなにか知っているようですね、良ければ教えていただきたい」

「松峠はん、この姉さんに腹の探り合いかけるのは相手がわるいでっせ。この人の腹の中は広すぎて掴みどころがないさかいな」

「はは、これはあの豊村家のご息女に対していささか失礼でしたな。話を戻しましょう。今、日本近海で異常な現象が起こっているのは知っているでしょう。ドラゴントライアングルと呼ばれる海域で今、戦闘機ですら入れない巨大なハリケーンが起っております。これは気象学的に異常なことです。そしてそれについでローマ法王が昨日、国連に秘密裏に世界の破滅の危機について見解を発表したのです」

「ほう、それはどんな?」

「見解はこうでした『黙示録が起ころうとしている我々は主に御前でついに試される』」

「黙示録!そう法王がいったのですか」

「法王が言った世界の危機が近いならば今、日本近海で起こっている巨大ハリケーンもなにか関係があるのではと国連はかんがえています。偶然の一致かハリケーンが起こった時期と法王の会見の時期は重なるのです。日本には昔から多くの霊的な存在がありました。そしてそれらを鎮めるために神道ができたと言っても過言ではない。実は今、世界の軍事力、政財界、宗教界、あらゆる面で均衡が崩れてきているのです。そして今度の事件。この事件で狙われたのは間違いなく豊村 伊佐あなたなのではないですか」

「松峠さん、ならばもう私の存在に日本政府は気づいているということですね。だからわざわざ警視総監のあなたが事情聴取にこられた。そう、政府としては最大限、穏便にけれど丁重にこの事件にあたるために」

「恐れながら、そういうことになります。マスコミにあやしいと思われずそして事件を深い意味で知る人物ということで私が抜擢されたのです」

「では、私もいよいよ動かなければなりませんね、私はドラゴントライアングルに赴かなければなりません」

「だがあそこは戦闘機でさえ入れない巨大ハリケーンの巣ですよ」

「ここにいるみんなと私の家族、そして藤沢賢治という男がいればなんとかなります」

「な、高校生にそんな危ない橋を渡らせるわけには!」

「高校生というなら私本人も高校生です。それに日本の武士は十三歳で元服し大人になるものです」

「本当にいいのかい、君たち」

「私は、豊村さんの役にたてるならどんなところでも」友恵が言った。

「もとよりそのつもりですわ、豊村さまのいくところこの天光どこでもついていきます」

「私もそのつもりだぜ、力仕事は任せな!」明日香が言う。

「私、豊村さんが好きだもの。だから私の力、豊村さんのために使いたい」細川さんだ。彼女は、自分が魔術師であることを豊村さんに話していた。しかしそれでも豊村は気兼ねせず、付き合ってくれている。

「私なんかが役に立つのかな、でも豊村さんのためなら力になりたい」織花だ。気配を消すということにかけては彼女の右にでるものはいないだろう。

「藤沢は、結局絶対行くんやろ、ならわしもいかんでどうすんや」高次だ。わかりやすい。

「ということです、警視総監。心配はいりませんよ。みな、その道の達人です」

「ええ、政府は豊村さんあなたの周辺にものすごい優秀な人物があつまっていくのをまるで何かの強力な重力が働いているように見ています。そしてその優秀な人材を最終的にどうするかは豊村さんあなたにかかっているのです」

「まず、そのハリケーンの近海に厳戒態勢をしいてください。それはたぶんリヴァイアサンの仕業です」

「リヴァイアサンというとあの聖書にでてくる怪物?」

「実際には神が作った神獣です」

「そんなものと戦うのですか」

「いえ、あれはどちらかというとこちら側です、つまり味方です、私たちの真の敵への水先案内人です、そして黙示録の獣と竜を引き受けるでしょう」

「獣、竜?」

「サタン、もしくはルシファーと置き換えてもよいでしょうが」

「!ではあの男の供述は正しかったのか?」

「?どういうことです?」

「つまり、あの魔術師が話した供述です、なんでも神の敵である邪悪な神々とか?」

「ふうん、あの魔術師も事態がわかっててそれでもわたしをねらったということか」

「豊村さん、なんのことです?」

「いや、あいつがどういう目的で私を狙ったかはしらないですが私を殺し損ねたことでやつらの計画はわたしに適用されない」

「?計画?」

「小さいころから私はいろんな組織に狙われていましたそしてそれを守ってくれた父と母のおかげで今私はこうしていられるのです」

「まさか、あなたが小さいころからこんな凶悪な事件が身の回りであったと?」

「ええ、日常茶飯事でした。通学途中トラックが突っ込んできたり、わたしが入った銀行が強盗に襲われたり」

「そういえば今回の一件で過去の事件を洗っているとみょうに豊村家で事件が多いというのは感じてはいましたが」

「まあ、全部が全部というわけではないでしょうが」

「よく生き残ったものだ」

「まあ、常人に私は殺せませんから」

「そういえば天源流の師範代でしたね」

「まあ、それだけじゃないんですけどね、天源流は実家が総本山だからやっていただけで」

「そうなんですか、うちの署でも天源流の武術を正式採用して警備の強化にあたらせようとしておりまして。石斎先生はご健在ですか」

「おじいちゃんなら教える門下生がいないってうずうずしてますよ、そちらの方もいつでも門をたたけば喜んで教えてくれるでしょう」

「そうですか、いや、すいません余計な話を」

「話を戻したいのですが、ハリケーンに軍隊を置きます」

「?なぜ、どうして軍隊を置く必要が」

「世界で今いろんな混乱が起こっているといっていましたね?」

「ええ、インターネットがへんな暗号で炎上し、株価を扱う電子機器は完全にシャットアウト世界中で大恐慌の前触れのようなパニックが起こっています。それに各国の政界の大物たちがこぞって暗殺や戦争の発令や紛争地帯への爆撃 核のスイッチを押すかの大討論もはや完全に正気を失ったようになってしまって民族間、宗教間でも醜い争いが絶えません、なぜ日本だけが波が立たない池のように静かなのかわけがわからないのです」

「各国に通達してください、ハリケーンの付近に軍隊の派遣と宗教と民族の隔たりを越えての団結を呼び掛けてください、情報通信技術は役には立ちません、もっと原始的な手法で訴えかけるのです」

「トイウトイッタイドンナコトヲオカンガエナノデスカミスヨシムラ?」

その男は突然、家の縁側に現れた。

「手紙 のろし 暗号 スピーチ 教会の鐘 コーラン そういったものです、民族なら民族の宗教なら宗教のみんなのアイデンティティに訴えかけるのです。モンゴル人にしかわからない挨拶の仕方やチベットの高僧が喋る言葉、つまり彼らの彼らによる言葉で会話するのです」

「ナルホド、メニハメヲハニハヲトイウワケデスネ」

「あなたはどちら様ですか?」

その外国人がしゃべる前に治療から帰ってきた藤沢が驚いた声をだした。

「おやじ?」

「へ?」

「やあ、賢治まさかこんなプリティな彼女がいるなんてなんでダディにちゃんと教えてくれないくれないんデスカー?」その外国人はなんだか急に親しげにしゃべり始める、みんなの開いた口がふさがらない。

「おやじこそ、ここで何をしてるんだよ」

「私は国際連盟から特派員としてここに来てるんだヨー、だって国連でいつものようにお仕事してたら急に明日の空港チケットもそれからスマートフォンもなんだかわけのわからない文字がでて急に空港がパニックになってしまったんだ。そしたら、特派員専用のダイレクトメールに着信アリでたまたま日本にいたワタシが特派員に派遣されたんダヨー」

「あの賢治のお父さんのそのわけのわからない文字が映ってるスマフォまだ持ってますか」

「うん?うん、あるけど?」

「ちょっとみせてください」

 スマートフォンは見たこともない変な形の文字でいっぱいだった。

「ヒエログリフやエジプトの象形文字よりも古い文字だ。こう書いてある、のろしがあがった、暗黒の王が目覚める、世界を混迷させ、そして凄絶な裁きが下る、知恵あるもの、勇気あるもの、力あるもの、目覚めて戦え、お前たちの終わりにせめてものささやかな抵抗を見せよ、我は暗黒の王なり」

「なんだ、自分の目覚めを自分で予言している」

「いろんな伝承や伝説で語り継がれる存在だ、我々のような単一の思考形態じゃないんだ、もっと複雑で神に近い存在というわけだ」

「ところでミスヨシムラそれではハリケーン付近に現時点での最大戦力の投入でよろしいですカ?」

「ええ、お願いします」

「わかりました、ええと」

賢治のお父さんは二重底になっているカバンから怪しげな黒電話を出した。

英語でなんだかわからないが話している。

「親父が国連で働いてるのは知ってたけど、特派員とはな」

「ダイジョウブみたいです、混乱は一時的なもので今日の6時ごろには第一次警戒態勢がとかれるミタイデス」

「ありがとう、さて、問題のハリケーンだがやはり相当の装備をした最新鋭の戦闘機が必要になるだろう、どうしたらいいだろうか?」

「ワタシにもどうにもなりません。最新鋭の戦闘機といってもそうなると各国のトップシークレットで

す、そんなものを個人の都合で貸し借りはできません」

「そうですよね」

「あら、そういうことならわたくしにいってくださいませ」

「天光さん!?」

天光の豊村の自宅の電話でどこかに電話を掛けた。「ええ、そうです。すぐにヘリを二機手配してください。そして目標海域に空母を。ええ、ええ。そこからは我々で何とかします」

 天光が電話でだれかとてつもなく偉い人と話している。それも天光の高飛車な感じは少しも変わらずに。

「豊村様、なんとかあの海域まではいけそうです。問題は、その先ですわ。あそこでは史上空前のハリケーンが猛威を振るっているのですから」

「こっちには細川さんがいる。彼女ならハリケーンの渦に穴をあけられると思うんだが・・・・・・」

「できないことはないよ、でも私の魔法は、果たしてどこまであそこで起きていることに通用するか分からない」

「それは、どういうこと?」

「豊村さんの中にはバハムートがいる。だとすればあの海域にも同じレベルのいえそれ以上の聖獣がいてもおかしくない。もしそいつがハリケーンを起こしてるのなら、私は神に匹敵するくらいの力とつまりリヴァイアサンと戦うことになる。そういうこと魔術は魔法じゃない聖獣クラスの存在がいるところで私の術式が発動できることは奇跡に近い」

「そうか、考えても見なかったな。細川さんだってあれだけ凄まじくても人間なんだよね」

「私は普通の人間とは少し違うわ。深い森の中で何百年も木々や動植物を世話していたドルイドの末裔なの。こう見えてもう何百歳にもなるんだよ」

「じゃ、じゃあ、この学校に入ったのは」

「あなたがいたから。多分ここにいるみんな、理由は違うだろうけどあなたに会うためにここにいるのよ」

「みんな、わたしのためにありがとう。そしていよいよ行動にでる時は来た。それで作戦だが、まずハリケーンを突破しなくてはならない。だが心配はいらない立ち寄り先の空母には私の父と母がいる。私の両親は、実は傭兵なんだ。それもとびっきりの。藤沢はこのことを知ってる。そして両親にハリケーンへの戦闘機の操縦を任せるつもりだ」

「じゃあ、私たちはその戦闘機でハリケーンに突入するわけですね」

「ああ、だが知っての通り戦闘機は搭乗員数が二名。私と父と母で3機とばしても4人余ってしまう、戦力はできるだけ多いほうがいい」

「じゃあ、高町に頼めよ」

「明日香……」

「な!高町、おまえの執事だったらあと3機はいけるだろ」

「そうですわね、たしかに戦闘機の一流のパイロットくらい手配するのは造作ないですわ。でも私が思うに人にはそれぞれの役割があります。私は所詮、人を使って戦略をこねくり回すしか脳のない人間ですわ。私が力になれるのは私の意図通りに動く人間が多数いる場合のみ、私は後方支援に回ります。戦闘機の帰還に空母が沈没しては話になりませんから」

「高町さん、私たちが帰ってくることまで考えてくれたのか。そうか、分かった、じゃあ空母を頼む」

「かしこまりましたわ、ですが言っておきますがちゃんと帰ってくるんですよ、同士討ちなんて戦略はわたし認めませんから」

「分かってるさあなあ、豊村、それじゃあ、あたしは切り込み隊長だ。先陣は任せろ」明日香だ。

「あなたはわたくしと一緒にいてくださいな」天光が言う。

「なんでだよ、おれだってみんなと一緒にいたいよ」

「明日香さん?あなたはわたしと一緒にいるのです。わたしの力にあなたは必要です」高町の目が光って怖い。

「な、なんだよ。睨むなよ。素直にわたしにいてほしいっていえばいいじゃないか」

「ふう、私達には世界の命運がかかってるのです。それを忘れないでくださいまし。私の戦略にはあなたのような将となる人間が必要なのです。それに私ひとり空母に取り残されては寂しいではないですか。あなたと私の仲でしょうに」

「それはまあそうだな。いいぜ高町なんでもやってやる!」


「なるほど、ただ不用意につっこむだけではだめか、適当な人材を適材適所にか」

「私には波影の太刀があります、あれは退魔の力もあるんです。長年つかいなれた刀です、今の私ならどんな魔でも両断できます」

「そうか、しかしこれからの戦いはどうなるかわからない、一流の研ぎ師に研がせたいな」

「それなら、私にまかせて、知り合いに国宝級の刀鍛冶がいるの、そのひとに研ぎをしてもらえばいいよ。歴戦の強者に生まれ変わった愛刀、それが揃えばどんなものでも斬ることができるでしょう」細川さんだ。細川さんはいったいどうやって国宝級の刀鍛冶としりあったのだろう。やはり謎の多い人だ、と友恵は思った。

「大丈夫、戦国時代にやっかいになった人だから」

 こ、心を読まれた!?それに戦国時代!?細川さんはやっぱり謎だ。

「今度の相手はそんなに甘くない。やれることは全てやっておくべきだ」

「分かりました。私の愛刀よろしくお願いします」

「友恵様は豊村様についていてあげてくださりませんか?」

「わ、私なんかが?」

「今の友恵様の実力は相当なものです。もっと自信をもってよろしいですのよ」

「うん、友恵は私についてきてくれ」

「よ、豊村さんがそういうなら」

「あのー、私はどうすればいいのかな。私なんかいていいのかな」織花遥だ。

「織花さんには重要な任務がありますわ」

「え、じゅ、重要な任務!?」

「ええ、あなたのその気配の無さ、敵に気づかれず先頭を走る、いわゆる忍びとしてあなたほど適任者はいませんわ」

「ええ、私が先頭を!?」

「織花さん」豊村は真剣な目で織花に向き直る。

「別に無理にとはいわない。今回の事で巻き添えを食った一人であるあなたにそんな責任をおっ被せるつもりは毛頭ない、だがもしあなたさえ良ければ力を貸してもらえないか」

「わたし、この学校に入学してからだれかにこうやって声をかけられたの。初めてなんです。とても嬉しかった。親とかきっと激怒するかもしれないけどわたし、豊村さんたちの役に立ちたいです。私の方からお願いします」

「よし、先陣は私と藤沢、友恵に細川さん、そして織花さん、まあ島は言われなくてもついて来るんだろ?」

「あたぼうやないか」

「よしこの六人。突入事は細川さんと私でハリケーンをできるだけ弱めるつもりだ。あの海域はこれまで戦闘機すら入れなかった難所だが現状戦闘機での突破に駆けるしかない。あとはパイロットの腕しだいだ。高町と明日香は空母で後方支援を頼む。そういうわけで警視総監殿、緊急超法規的処置で自衛隊の空軍要請をお願いしたい」

「君らには呆れたよ。いいだろう。この松峠責任をもって事に当たらせてもらう」



「そういうことだ、藤沢、あの海域にいくことになった」

「そうか、意外と早かったな。よし行くか、豊村!」

 賢治はこのまえの魔術師の一件で伊佐から大体の話を聞いていた。だからこの展開は読めていた。

 そんなだから、のんきに整骨院で足の治療をしてたわけだ。だが普通なら病院ざたの怪我のはずが子の短時間で治り始めている。伊佐のおじいちゃんの手技はまさにゴッドハンドだ。

「おほん、それで私の方から切に会っていただきたい人がいる」

 警視総監の松峠だ。みなの会話を微笑ましく聞いている。

「松峠さん、そちらはどなたです」

「ローマ法王からの使者です。本来なら正式な立ち会いのもと、会見と行きたいところですが事を公にしたくないのでこちらに来てもらいました。ガブレ・アモス神父です」

 突然、豊村家のお茶の間に神父姿の首から十字架をさげ、部屋に入る前に手で十字をきる聖職者の姿があった。彼はカタコトの日本語で話し出す。

「どうも、イサ・ヨシムラ。ガブレ・アモスと申します」

「よろしく豊村伊佐です、今日はお客が多いな、賢治のお父さんそれにガブレ・アモスさん今お茶いれますね」

「ああ、豊村くん、わたしにもお茶をお代わり」

「松峠さん、これで7杯目ですね」

「いや、この家のお茶がうまくて」

「茶葉はふつうの茶屋のです」

「淹れ方がよいのでしょう、私は紅茶のほうがあってるのだけれどジャパニーズティーもいいわ」

「天光さん、なんなら紅茶入れようか?」

「あら、お気になさらず、うふふ」

 しかしガブレ・アモス神父、なんだかそこにいるだけで神々しい神聖さに包まれた人だ。

「さっそくですがあなたたちが立ち向かおうとしている敵について教えておきたいのです」

「健治の父親です、国連の特派員えきました」

「あ、どうもバチカンのガブレ・アモスです」

「これは自己紹介が遅れました。藤沢・ジョン・マイケルです」

 豊村家のお茶の間は今は国際交流の会議室となっていた。

「はい、そのまえにあの海域でなにが起こっているかを説明しましょう。今我々がとらえている最新のことです。ことの発端はあの海域である箱がサルベージされたことがはじまりなのです。その箱は一種のとびらで私達を守護する神々と対立するものたちが封印された箱なのです。

 ガブレ・アモス神父は一度言葉をきり、皆の反応を見た。そして思い出したかのようにまた話し始めた。

「そうまるでパンドラの箱のようにそしてそれを守るかのように海神リヴァイアサンはあの海域の底深く、ある説によればあの海底には異次元が横たわり。リヴァイアサンはそこに隠れすんでいたのです。箱が表にでたことでリヴァイアサンは激怒しハリケーンで海域を封鎖、結果あそこにはだれもはいれないようになったというわけです」

「つまりハリケーンを起こしてるのはリヴァイアサンでそれは箱の中のなにかを外に出さないためというわけですか」

 ガブレ・アモス神父はふっと微笑んだ。伊佐の理解が早いからだ。といってもアモスさんがくるまえに大体のことは警視総監の松峠さんと賢治のお父さんから聞いてしまっているのだが。

「そうです、バハムートの娘よ、あなたがあそこへいくのは運命かもしれません。しかし敵は箱の向こう側ばかりにいるのではありません。魔王ルシフェルはこれを好機に堕天使と悪魔の軍をよこすでしょう。もとは神に等しき存在。戦いは困難になるでしょう。それでもあなたたちは勝たなければならない。幸い、ハリケーンの中までは魔王軍は

入って来られない。要はあなたたちが箱の中へと到達し対立せし者と対決し打ち果たせるかにかかっているのです」

「私は一人ではない。仲間がいる。ならそれを信じて戦うだけだ」

「注意してください。箱の外に彼らを出してはいけませんよ。それだけで世界にどんな異変が起こるか分からない」

「大丈夫、心配めさるな。ご老人。わしの孫はそんなにやわではないのでの」

 伊佐のじいさんで拳法の達人。天源流の継承者だ。今まで道場の方にいたがこちらがさわがしくなってさっき伊佐がお茶を汲むとき呼んでおいたのだ。神父とおなじくらい存在感がある。

「あなたがミスター・セキサイですね、お話はかねがね聞いております。そのお年で最強と噂される天源流の継承者」

「いや、こりゃどうも、あなたはわしの孫の身を案じてきてくれたのでしょうが心配いりませんや。この子ら、これでいてなかなかしっかりしておるでな」

「そうですね、私もこうやって話してみて内心すこし安心しています。でも相手はあなどりがたい、みなさん世界の運命のためにどうぞよろしくお願いします」

「はは、言われなくともそのつもりだよ、神父」

「そうか、ではボクハこれでちょっと行ってくる、じゃあ賢治みんなと世界を守るのはお前の仕事だぜ」

「おう、おやじこそへますんなよ」

「バカ言ってる場合じゃないね、これでもヘビー級ボクサーだったんだよ?こんなボディブローで沈没するようなやわな国際機関じゃないね」

「いや、おやじの経歴と国連関係ないから」

「ま、国際連盟もヘビー級ボクサー並ってことね、日本の行政も世界の政界もあまりなめないでほしいね、これでもみんなに文句たらたらでもパワーバランス考えながら必死にやってるね」

「けっいってろ」

「はは、それじゃネー」

 おじいさんも賢治のおとうさんも一目で相手が只者ではないのに気付いた。

「そちらさんは賢治のお父上かな?」

「はあ、よくわかりまシタネ」

「金髪でどことなく賢治ににていらっしゃるから」

「いやあ、いつもうちの息子がお世話になってます」

「おまえさんの息子結構見どころあるぞい」

「それはよかった、それにしてもあなたのお孫さんも大変な器量ヨシデ」

「ははは、孫はあなたの息子にぞっこんでな、ちかぢか嫁にいかせようかと」

「OH!それはめでたい、うちの息子も鼻がタカイです、どうぞヨロシク」

「ははは、面白いお父さんじゃて」

「それでは私は仕事があるので」

 二人がおじぎをすると健二のお父さんは帰っていった。

「おう、なんだ勢揃いだな。奇襲でもかけるのか?いや友恵のじっさん、めちゃ腕がいいぜ、もう足はなんともないんだからな」

賢治は友恵のおじいさんと伊佐のおじいさんの治療を受けてたのだ、伊佐のおじいさんは友恵のおじいさんの手わざをそれはもう感服していた。

 

「そうかおじいちゃんは賢治の治療をしてたんだな、もういいのか?」

「おう、わしは整骨が主なんだが戦争のとき仲間の傷の手当てをしてたからなそこらの医者よりゃ、腕はいいわい、それにあいつにはわしの天源流の奥義について少し話しておいた」

「おじいちゃん、賢治がそこまでいけると思う?」

「ああ、いやいってもらわねばならん、相手が神と同等なんだからな」

「そうか、なら本当にじき後継者だな」

「そうなるとお前さんは自動的に賢治の嫁ということになるが?」

「え、ええ!?」

「なにをおどろいとる、おまえだって天源流の跡継ぎじゃ、奥義を会得したものに嫁ぐは代々天源流の娘の務めじゃぞ?」

「そうか、あいつ面白いやつだけどなんだけっこうすごいやつじゃないか、いいよおじいちゃん、あいつが奥義を会得できたら、私は嫁に行くよ」

「ほお、そこまで惚れておったか」

「な、おじいちゃ、ためしたな!?」

「あのなあ、伊佐」

「お、おうなんだ?賢治?」

「そういうことはもっと声を小さくしてな」

「え!?」

「みんなの顔が赤い」

「いや、めでたいことですな、ふぉっふぉっふぉ」

このじじい、この世界存亡の時に孫娘からかってって伊佐も乗るなよ。

でも何故だがみんなの緊張が解けた気がする賢治はまあいいかと夏のにゅうどう雲を見て思う。

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