「最終章」
第24話「沈黙する世界」
風がここまで斬り裂かんばかりに吹き付けてくる。ここはドラゴントライアングルの目の前、超法規的電撃大作戦の司令塔、空母『いずな』のメインデッキだ。そこには八人の運命によって結集した集団がいた。作戦名「いかずち」その一命によってこの場にいる人間たちは動いている。もはやあれから十日経った、全世界にこの巨大ハリケーンのニュースは飛び交い、ハリケーンは上陸すればその大陸はこの世から消え去るほどの勢力をもつようになった。ハリケーンが動けば、国が幾千も滅びることになるだろう。
十日もの間、雨雲は世界を覆いその雨は止むことなく振り続けている、このままではノアの箱舟の時と同様、世界は海に沈没し全ての生き物が死に絶える。
もはや世界は滅亡の瀬戸際に立たされていた。
政界はあらゆる超法規的処置によってここに最高の軍隊を派遣している。宗教界はあらゆる宗教団体がこの地に霊的拘束力を与えている。すなわち、世界中の宗教によっておりなす多重結界だ。だからハリケーンはここから微動だにできず今に至る。
「いま、まさに決戦の時が来た。ここからは何が起こるか分からない。みんな頼むぞ!」
「いよいよですね。風の匂いがなにか変です。嗅いだことがない。のに昔から知ってるような」
「嵐の時はいつもそう。でもこれほど巨大なものになると」
「まるで神と対峙してるよう」
「嵐を抜けたらそこは別世界だ。注意しろ!」
「豊村様、戦闘機の用意できました」
兵士が風のなかで叫んだ。
「伊佐、なにがあってもおまえとそのお友達は守り抜くから。それにしても本当に良いお友達を持ちましたね」
「お母さん、ありがとう。出来たのは友達だけじゃないんだ。その、私の恋人だ。藤沢賢治だ」
「あなたがまあ、ハンサムじゃない」
「お前がわたしの娘を・・・・・・・、おい、自慢の娘にもしもの事があったら分かってるんだろうな。その時は世界が終わるまえに八つ裂きだ!」伊佐のお父さんだ。違う意味で気合いが入りまくってる。
「わ、分かってますよ。娘さんには傷一つ付けさせませんから」
「よく言ったあ。傷一つでもあったらただじゃおかねえ!」
「あなた!それ以上やるならわたしが相手になりますよ」
「まったくよさんか秋炭、お前は娘の事になるとどうしてこう我を忘れる!」
伊佐のじいさんも元気だ。
「伊佐のお父様、大丈夫です、この不良は絶対伊佐さんには寄せ付けませんから」友恵だ。まだ根に持ってる。腰の波影の太刀がきらめいてる。
「なんや賢ちゃんはここへ来ても痴話喧嘩かいな、盛んでよろしゅうこって」
「高次!?おまえなんでここに!?」
そこにいる高次はなにか様子が違った、まるでどこかの大御所のような立派な和服を来た神様のようだ。
「おま、どうしたんだそれ」
「なんや、賢ちゃんまだ気づかんのか、わいはこれでも神様の一人なんやで?ほれ、賢ちゃんが小さい頃助けた子狐や、いうたろ、受けた恩はわすれんて」
「おまえ、神様だったのか?子狐ってあの時の?」
「そうや、わいは稲荷神社のお稲荷様や、ようやっと恩返しができそうや」
「そうか、その耳と尻尾はおまえ、そうかそうだったのか」
「やっと気づいてくれはったんやな。おおきに」
「おまえ、ほんとうはものすごいコテコテのコスプレイヤーだったんだな」
「は?なんやて?」
「いやあ、お笑いが好きでお調子者でこいつには絶対なにかかくし芸があると期待していたら、おまえこんな大事な日にボケかまさんでもいいだろ」
「ほんまにアホなやっちゃな、おまえ、まあいいわい、そういうことにしといたる、こうなったらおまえに死んでも死にきれないような恩返しせにゃお稲荷の名折れや!見とけや大阪お稲荷十七代目の生き様を!」
「おお、演技も堂に入ってるな、さすがだ、島!」
「ほんまにうちらいいコンビになれるで賢ちゃん」
「豊村さん、私が戦闘機に乗りながら全世界にある結界の拠点からの力を全部集めるからそこを突破して」細川さんだ。そうだ時間は刻一刻と迫っている。全世界の結界の力をここに集結させておける時間は少ない。今は一刻を争う時なのだ。
「よし、みんな全機搭乗!13;00時に作戦を開始する」
「おー!」
「それじゃあ、高町さんに大橋さん、それとおじいちゃん、ここはまかせたからね」
「はい、私の戦略ならばたとえ敵が悪魔か天使でもこの空母は守りきって見せます」
「あたしは馬鹿力しか取り柄がないしさ、でも天光からすごい武器もらったんだ。だからここは任せて!」
「わしと全国の拳士も結託して動いとる大丈夫じゃ、気にせず言って来い」
「ああ、分かった」
「全機オールグリーン!いつでも行けます!!」
「みんな、いまになっていうけどここまで一緒にきてくれてありがとう。そしてこれからもみんなと楽しくやるために行こう!みんな!」
六機の戦闘機はいきよいよく逆巻く風の中に飛び出していった。
作戦は始まった。全世界に暗号で伝達が行った。それが全ての合図だった。
「結界集束、今からあの分厚い気流の層に穴を開けます」
目の前の壁が掻き消えるようになくなっていくそして向こう側が見えた。その時だった。その場にいたものは全員凍りついた。巨大な風穴から大きな目がぎょろりとこちらがわを何かが見てる。まるで風穴のむこうは無限の空間のように広がっていてものすごい巨大な何かが次元を超越してこちらがわを威圧しているようだ。ところどころの暑い皮膚からは膨大な量の海水が巨大な滝になって流れ落ちている。
「リヴァイアサン!!」
「豊村さん、あちらがわどうやら次元が歪曲して広がっているみたい。つまりあちらがわとこちらがわでは惑星と銀河全体くらい広さが違う!」
「ならばわたしも答えなければな」
一筋の雷光の内から空間を引き裂いて巨大な何かが出てこようとしている。突如ドラゴントライアングル周辺は、その巨大ななにかによって空は覆われ、日が遮られ、昼だというのにまるで夜のよう。そして激しい鳴動とともに次元がへし曲げられそこから巨大な牙が空間を引き裂いた。突如、想像もできないような神々しくも恐ろしい巨大な咆哮が次元の裂け目からほとばしった。上空にとてつもない大きさの何かが来る。そしてそいつは現れた空中を悠々と遊泳してこの空を覆わんばかりに広がる。大きすぎて本当は恐ろしい速さで空中を泳いでいるはずだが皆にはひどくゆっくり感じる。
まるで空を覆い尽くす一つのうねりだ。地球から見上げる全ての人々がその大きさに恐怖し狂気の声を上げた。暴力的なまでの大きさ。世界はいやこの太陽系は一匹の生物によって覆い尽くされた。
「あれがバハムート!」
古の宇宙から生きる二つの聖獣が姿を表した。あまりの巨大さにそれらは畏怖しか抱くことを許さない。二つの聖獣は空中で対峙したまま動かない。だがその存在から発する波動がしだいに共鳴し始めた。
世界中が阿鼻叫喚の地獄に陥った。
世界中の人は皆、思わず気絶しそうになるほどの恐怖感を覚える。
空母の甲板にいる人員は次の瞬間起こったことにおもわずパニックになった。
イージス鑑一隻がその大きなスクリューをあらわにして逆さまになって落ちてきたのだ。
だが作戦参謀である高町はだれよりも先に我に返って指示を出した。
「全艦、急速回頭!降ってくるイージス鑑を避けよ!」
間一髪舞い上がったイージス鑑は空母の横の海に堕ちた。
「全艦攻撃開始!!目標、前方多数の未確認飛行物体」
黒い翼、そして雄々しく宙を舞うその生物は天使とも見えるがかぎりなく邪悪な存在それがどこからともなく空を埋め尽くすその数、数千万。
「高町!」
『はい、伊佐様』
「そいつらはルシフェルの軍勢だ。あいつ、これが好機だと全軍を挙げて攻めて来た。気をつけろ、どんな攻撃をしてくるかわからないぞ」
『大丈夫ですわ。ここまでは想定内ですの、ここは私に任せて早く』
空中を埋め尽くす魔王の軍勢は、ものすごい火の槍を投げつけ、雷の弓を射掛け、襲ってくる。だがその堕天使の軍勢に一発のミサイルが炸裂した。空の向こうから数万を超える戦闘機が向かってくる。一発のミサイルが引き金になり次々とミサイルが射ち放たれる。数万のミサイルと火の槍と雷の弓が交差して空中ですさまじい烈火を巻き起こして戦闘は始まった。
『各機、自由飛行に移り戦闘を展開せよ、敵を目的の場所まで惹きつけるのを忘れるな』
数万機の戦闘機と堕天使が入り交うその光景はこの世の終わりを思わせた。
各イージス艦から次々とトマホークが打ち出される。主砲が休まず鳴り響き、機関砲が連射される。
その様はまるであの夜の湾岸戦争の空爆の光景を見ているようだ。バハムートの巨体の下で流れ星のように光が入り乱れ、戦闘は混戦となった。だが高町はその戦闘の全てを把握している。
戦局は思わしくない。徐々にだが押されてきている。だが高町は細かい伝令を暗号にして全戦闘機に打ち続けていた。
堕天使の軍は徐々にある海域におびき寄せられる。そこには空があった。日差しがでている。堕天使の軍は太陽の元に照らし出されたそして、空より何かが落ちてきた。もちろんとっくに戦闘機は離脱行動に移っている、まるで曲芸を見ているような離脱行動だ。
そして堕天使の軍は巨大な爆炎に包まれた。水爆のようなその爆発は堕天使の軍に壊滅的な打撃を与える。爆炎の正体は名を『神の杖』と呼ばれるアメリカが開発した新兵器である。衛星軌道上から重さ百キログラムのタングステン棒を落として隕石とほぼ、同じだけの威力を出す兵器である。
この異常事態に特別に米国から許可を得た高町の隠し玉である。
しかしそこは堕ちたと言えども天使である。あれだけの爆炎に包まれながら滅せたのはその半分程度である。
そして事態はもっと悪くなる爆炎によって出来た穴から何かが出てきた。黒いそしてあらゆる悪の観念の具象。悪魔である。
ついに魔王はその槌を下ろしたのだ。
まず、ファンファーレが流れ、さまざまな悪魔が飛び出してそのあとから突如天空からまるで見ただけで発狂するような邪悪な想念を放出しながらバハムートに相当する巨体をもち、大蛇のように蠢きながら巨大な翼を羽ばたかせ、口から硫黄のガスを垂れ流しその身を赤き紅蓮の炎にまみれた竜が現れた、7つの尾、7つの冠、十の角をもつ名を赤き竜という。
また爆炎の穴からは一匹の巨大な獣の影が見えた。そいつはさまざまな神を侮辱する名を冠し豹に似て、足は熊、口は獅子。十の角に七つの頭。猛り狂いどんなものもそれを押さえつけることはできないだろう。
その巨体は世界を悠々と覆い尽くし、世界に闇を与えた。太陽の光は遮られ、その竜の紅蓮の炎があたりをつつみ、海を沸き立たせ、遥かな力を見せる。
獣はその煮え湯を飲み干して、やっと永い乾きを癒やし、その海の中の数兆という魚たちを食らって永い、飢えを癒やした。咆哮が空間を揺らし、全ての生きとし生けるものを滅さんと高らかに獣の恐ろしい雄叫びが世界を包んだ。しかし海の水は干上がらなかった。獣が出てきた穴は獣の大きさによってものすごい地割れを産み、そこからマグマがほとばしり始めた。すぐに海のかわりにマグマが地球に行き渡るその様や地獄のようだ。しかしそれはすぐにかわり始めた、水がどこからが流れてきてマグマとぶつかり煮え立つ水たまりとなった。この地球は、生命の源の水を絶えることなくがないほどもっているのだろう。もはやそこにはわれわれの常識は通用しない。沸き立つ海に。高町の空母たちは、なんと飛行船によって空に浮かんでいた。高町はここまで予想していた。だが予想しているのと実際に見るのとでは全く違う、小刻みに震えるちっぽけな自分を必死に奮い立たせて、艦隊に指令を出し続けた。しかしそれはこの無限に等しい果てしない空間に無様に力なく掻き消えていった。
世界は沈黙に包まれた。
世界は沈黙に包まれた。
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