第17話暗黒騎士さん、魔族だと暴露される

「魔族……?」




 リーゼリットが怪訝そうに暗黒騎士さんの方を見る。




「なんだ、その様子じゃ知らなかったんだね。でもわかるよ。けど、どういう訳か、そいつからは暗黒の力を感じない……ああ、そっか、こないだ追放されたの、君だったんだ」




 御者の姿をした男が笑う。




「アン殿、後で聞かせてもらうぞ……貴様、シルヴィア様を離せ」




 リーゼリットが剣を抜く。


 目の前の男にぴたりと切っ先を向けて、構える。正面に構えたそれは、王道を往く騎士のものだ。何者であろうとも、正面から叩き伏せる意志を向ける。


 だとしても、男は変わりない。


 変わりない笑みを浮かべて、シルヴィアを担ぎなおす。




「っと、怖いなぁ……君たちと正面から戦うのは面倒くさそうだ」


「戯けたことを。貴様、いい加減正体を見せろ。その外観は、人間臭くて吐き気がする」


「それはできないなぁ……」




 男の姿が一瞬、影に包まれる。


 影が晴れると、そこに立っていたのは野盗の頭だ。




「僕たちの種族はね、こうして他人の影を被らないと生きていけないんだ。だから僕らは他人の姿を集めるのさ」




 姿が変わる。


 野盗たちの姿が次々と移り変わる。


 姿を変え、形を変えても、その浮かべる笑みだけは変わらない。




「さて、それじゃ、僕は忙しいんだ」


「逃がすと思うか?」


「逃げさせてもらうんだよ、お陰で時間はたっぷりあったからね」




 再度、野盗の頭に姿を変えた男。


 その足元から影が広がる。地面を飲み込み、まるで侵食するかのように、ざわざわと影が広がる。影の中から何かが見える。


 刃が見える。


 人の手が見える。


 ざわざわと、それが何人も何人も。


 ぞろぞろと、まるで影の中から生まれるように。


 影のような姿をしたものが、各々の獲物を構える。




「……お前、影法師の種族か……」


「そこの魔族は良く知ってるね……そう、僕らは影。影に潜んで影を使う。それじゃあ、君たちはそいつらと遊んでなよ。僕は行かせてもらう」


「させるか!」




 リーゼリットが前へと駆ける。


 刃が走る。その前に、男の周囲を影が覆い、影がまるで槍衾のようにリーゼリットを迎撃する。




「――っく!?」




 堪らず、リーゼリットは後退する。


 その周囲に影が湧く。リーゼリットを拘束して、その動きを阻害する。




「君たちはそいつらと遊んでいるといい。僕は忙しいんだ」


「待てっ!」


「じゃあね」




 男の姿が影に包まれ、消える。


 後に残るのは、野盗の姿をした影だけ。手に持つ獲物をこちらに向けて、どうにも逃がしてもらえそうにない。




「クソっ!」


「……悔やむのは……あと」




 暗黒騎士さんがその剣で、拘束を断ち切る。


 伸縮性はあるが、斬撃への耐性は少ないようで、影はあっさりと切り裂かれる。




「……それもそうだな。急ぐぞ」




 目の前には影。


 二人の騎士は、戦闘を開始する。



















 怖い、と暗黒騎士さんは思った。


 絶対に勝てないであろう、とも思った。


 影法師は卑怯者ではある。だが、暗躍を行うものが多い。




 そして、何よりあいつは、戦場に出て、実際に戦っている魔族だ。


 怖い。


 そう思う。


 けれど、何より怖いのは、魔族だと暴露されたこと。




 今まではなんとかなっていた。


 けれど、リーゼリットがどう思うかは、別の問題だ。




 暗黒騎士さんは戦場に出たことがない。限られた、狭いスペースでしかコミュニケーションを知らない。


 だからどうしたらいいのかわからない。


 わからないのだけど、それならばわからないなりに行動すればいいのだ。




 リーゼリットを助けたのもそれ。


 同じ魔族に反するのも、それ。


 結局は自分の中の騎士道に従っている。


 リーゼリットも同じであると信じているから。




 この窮地を脱するため、暗黒騎士さんは剣を執る。

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