第13話暗黒騎士さん、人間の町へ
暗黒騎士さんは思ったよりも大きな城門を見上げる。
魔王軍の中にあった訓練場くらいしか大きな建物を知らない暗黒騎士さんの目にも、そこは大きく見えた。
城門前で武装した兵士が二人、門を通る人間を見張っている。
明らかに不審人物がいれば、身分証明の提示を求めているようだった。
「……! リーゼリット様!」
兵士はリーゼリットを見ると佇まいを直し、敬礼をする。
「よい、それより、通させてもらうぞ」
「は、はい! どうぞ……そちらの方は?」
シルヴィアはフードを目深に被っており、暗黒騎士さんにも何か理由があるのだろうとわかる。兵士には、二人に見覚えはない。ちらちらと視線をさ迷わせながら、リーゼリットに判断を仰ぐ。
「こちらの二人は……あー、気にしないでくれ。私のツレだ」
「ですか……こちらには、何の用事で?」
「馬車を調達しにな。先程野盗に襲われてしまって、馬車がなくなってしまったのだ」
「野盗ですと!?」
「気にしなくてもいい。もう別の部隊が向かっている。それよりも、町へ入るのは問題ないだろうか?」
「ええ、リーゼリット様とその客人ならば大丈夫です。どうぞ」
兵士が道を開け、再度敬礼を行う。リーゼリットが返礼して、颯爽と歩き出した。
暗黒騎士さんは、小さく頭を下げるとその後を追った。
門を抜けるとそこは町のメインストリートのようだった。
多くの人が賑わい行き交っている。
これ程多くの人類を見るのは、暗黒騎士さんにとって初めての経験であり、少し気圧されてしまう。
「シルヴィア様、お疲れでしょうし、まずは宿泊施設を探しましょう」
「そうね。任せるわ、リーゼリット」
「お任せ下さい。アン殿はどうする?」
「わ、私は……とりあえず、痴女と思われないような……装備が欲しい」
成る程、とリーゼリットは頷く。
「時にアン殿はお金を持っているのか?」
「…………」
暗黒騎士さんは己の持ち物を思い返す。そう、貨幣などというものは、生憎持ち合わせていないのだ。
「その様子からすると、持ってないようだな。そら」
ごそごそと鎧の内側から袋を取り出す。受け取ったそれはずしりと重い。
「これは……?」
「なに、前金だよ。自由に使ってくれ」
「前金……」
暗黒騎士さんにとって、給料以外でお金を貰えるのは初めての経験だった。
初めてのことばかり経験しているような気がするな、と暗黒騎士さんは思う。
「装備を整えたら……そうだな。ここから噴水が見えるだろう?」
リーゼリットの指の先、大通りの中に広場がある。その中央には、この町の象徴であると宣言しているかのような、噴水があった。
「あそこで待ち合わせするとしよう」
「……わかった」
暗黒騎士さんは頷いた。
◇
思ったよりも袋の中に硬貨が入っていてびっくりした。
一先ず、新しく購入した鎧を身に着ける。
鈍色の鎧は少し頼りないが、ないよりは良いだろう。
手甲と足甲だけ色が違うが、それも良いだろう。
辿り着いた宿泊施設は、思ったよりも高価そうな場所であった。ベッドはふわふわだし、浴場まで完備されている。
暗黒騎士さんはそのような所で寝るのは初めてだった。
ゆっくりと体を休めた翌朝のことだった。
太陽の光と、部屋のノック音で暗黒騎士さんは目を覚ました。
扉を開けると、血相を変えたリーゼリットが立っていた。
「ア、アン殿! シルヴィア様がいないんだ!!」
「…………え?」
凛とした表情を崩し、今にも泣きだしそうなリーゼリットの姿に、暗黒騎士さんは言葉を失うしかなかった。
シルヴィアが、いなくなったらしい。
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