第9話暗黒騎士さん、受難再び
「ずるいずるいリナリィったらずるい!!」
「ずるくない! ドナティが寝てたのが悪いんでしょ!?」
「悪くないもん! お姉ちゃんだからってずるい!」
暗黒騎士さんが去って行って、しばらくしたら本当に病気が治っていた。村の人たちも、次々に起き上がり、今ではすっかりいつもの活気を取り戻していた。
ドナティもすっかり元気になって、ずるいずるいと繰り返す。
「だいたいドナティも助けてもらったんでしょ!? 一緒だよ!」
「一緒じゃないもん! ドラゴンと戦うなんて本でしか見たことないもん!」
「むーっ!」
「ふーんだっ!」
二人ともうるさいわよーっ、と母親の声。
揃ってはーいっ、と返す。
そんなどこにでもある普通の、幸せな光景。
二人は互いに顔を近付け、ひそひそと話す。
「でもでも、騎士さま、かっこよかったね」
「ねー、ちょっと鎧は怖いけど」
「やっぱり? あれ、すごい悪役っぽい」
「中身はそんなことないのにねー」
「ねー」
鎧は禍々しくて怖いけど、それでも自分たちの為に、騎士さまは戦ってくれたのだ。
少女たちにとって、それは物語の中の体験そのものだ。実際に病気が治ったとなれば、それは最早信仰の対象だろう。幼い少女たちにその自覚はないかもしれないけど。
「また会いたいねー」
「ねー」
「今でも誰かを助けてるのかな?」
「きっとそうだよ」
顔を見合わせて、少女たちは笑う。
あの騎士さまが、今もかっこよく戦ってるのを想像しながら。
◇
「う〜ん……」
一方その頃、暗黒騎士さんは悩んでいた。
即ち、自分の鎧をどうするか、だ。
魔族を下してしまった。この噂は、きっとすぐにでも広まるだろう。
自分はもう魔王軍には帰れない。
けれど自分は魔族であるから、人間側にもつけない。
幸いにも、暗黒騎士の中身を知る人間は殆どいない。
鎧さえ身に付けなければ、その姿は人間に近い。
地面に置いた鎧を見詰める。
けれどこの鎧はーー
「ずっと、使ってきたし……」
訓練時代から、ずっと使ってきた鎧。体に馴染んでるし、手離すのも嫌だ。しかし、手離さなければ、自身は前へと進めない。
暗黒騎士さんは決めた。
「埋めるか……」
どことも知れない森の中。ここがあなたの墓場だ。さよなら思い出、こんにちは新しい世界。
せめて、と手甲と足甲だけ残して、後はさようなら。スコップ代わりに使っていた木の板を放り投げて、暗黒騎士さんは手を払う。
随分軽装になってしまったが、これで問題はないだろう。
暗黒騎士さんは歩き出す。
どこかでゆっくりと過ごせたらいいなぁっと思いつつ。
「きゃああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
「……またか!?」
森を劈くような叫び声。
前にも似たようなことがあったなぁ、と思いつつ、人間たちはこんな治安の悪い中、どうやって暮らしてるんだ、と走り出す。
好きなように出来なかった以前と比べて、今は自由なのだから。
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