第2話暗黒騎士さん、少女と出会う
とぼとぼと暗黒騎士さんは森を歩いていた。どこをどうやって歩いてきたのか、もうわからない。
ただ、自分の感情のままに走り続けてきたのだから。
荷物は背負ったバッグだけ。他はなにもなかった。
「はぁ……これからどうすればいいのだ……」
兜でくぐもった声は、その恐ろしい外見とは裏腹に透き通った声。
暗黒騎士さんにはなにもなかった。友達も、自分を置いて先に行ってしまったし、家族も、もはや手が届かない。
拠り所もない。
ないない尽くしである。
「お前も応えてはくれないしな」
ため息混じりに腰に佩いた剣を撫でる。
暗黒騎士は、生涯に一度、自分の魔力を織り込んだ魔剣を作る。持ち主と共に成長し、覚醒すれば、他のどんな剣よりも手に馴染み、特殊な力と名前を持つ。
しかし、暗黒騎士さんのそれは、未だ覚醒せず。名無しの魔剣のままであった。
「私は今、どこにいるんだろう……? 海は渡っていないから、マルハナ大陸のどこかだとは思うが……」
戦場に出してもらえない暗黒騎士さんには、如何せん地理に疎かった。
戦場にも出されず、訓練を受けて、タダ飯を食い、給料を貰う。クビになっても仕方ないな、と暗黒騎士さんは乾いた笑いを漏らした。
その時、ぎゃぎゃぎゃぎゃ、と異形の鳴き声が響いた。暗黒騎士さんはびくりと身体を震わせた。訓練ばかりしてきた暗黒騎士さんは自分の実力がわからない。
戦場に出してもらえないということは、簡単に死んでしまうのではないか、と思う。
死ぬのは嫌だった。
自分はまだ、何者にもなれていないのだから。何にもなれないまま死ぬのは、御免だった。
「ううう……怖いなぁ……早く安全な所に行きたい……」
それでも、ヘタレてしまうのは仕方ない。
それでもーーーー
「きゃああああああああああああああああぁっ!!」
悲鳴が響いた。
年端もいかぬ子供の声。
思わず、腰に手をやる。暗黒騎士さんは腐っても騎士である。自身の正義は持っている。
暗黒騎士さんは荷物を投げ捨て駆け出した。
森の中という悪路を疾走する。
慣れない獣道だが、その鍛えられた足腰が速度を落とすことはない。
あっという間に声の元へたどり着く。
緑色の肌の小人ーーゴブリンだーーが武器を持ち、少女を囲んでいる。
見た所、少女に戦う力はなく、ただその両手に抱えた袋を抱き締め、へたり込みながら目に涙を溜めているだけだ。
暗黒騎士にも騎士道はある。それは普通の騎士となんら変わることない。即ち、強きを挫き、弱きを助ける。
それが例え、人間であろうと、暗黒騎士さんの中では変わりない。
そもそも、魔王軍はクビになったのだ。今更失うものなどありはしない。
下卑た笑みを浮かべるゴブリンの群れに、暗黒騎士さんは突撃する。構えた剣は大上段に。一刀の元、斬り伏せる。
ずだん! とまるで紙切れのようにゴブリンを両断し、その姿を晒す。
漆黒の鎧を身に纏う暗黒騎士さんの威圧感は中々のものだ。暗黒騎士の中でも小柄な暗黒騎士さんでもそれは変わらない。
予測不能な事態に加え、自分たちより圧倒的強そうなん存在にゴブリンたちは震え上がり、逃げ出した。
後に残るのは、こちらを呆然と見上げる少女と暗黒騎士さんだけだった。
このような事態は初めてだ、と暗黒騎士さんは思い、少しばかり考える。
そして。
「無事だったか?」
と、中性的な声で、問い掛ける。
少女の瞳が焦点を取り戻し、小さな口が言葉を紡ごうと震える。
「ーーーーさま」
「ん?」
「騎士さま!」
がば、と少女は立ち上がり、暗黒騎士さんの手甲に包まれた手を握り締めた。
真っ直ぐなきらきらした目を向けられ、暗黒騎士さんは目を白黒させるのだった。
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