人見知りの暗黒騎士さんは魔王軍をリストラされたので、今度は自分に素直に生きてみる
鉛空 叶
第1話暗黒騎士さん、魔王軍からリストラされる
暗黒騎士。
魔王に忠誠を誓い、暗黒の力を用い、人類軍を襲う騎士の総称である。
その漆黒の鎧は人々に恐怖を与え、卓越した剣技は王国の騎士さえも容易く葬る。
魔王軍の象徴とまで言われ、絵本でも語られ、幼子も名を出されれば泣き止む存在が今ーーーー小さくなって震えていた。
黒檀の巨大な机の向こうで、そのサイズに相応しい威容を誇るのは死の恐怖、魔王である。
闇色の衣を身に纏う骸骨。まるで死神のような存在が、肩を怒らせながらコツコツと机を人差し指で叩いていた。
「君さぁ、なんで呼ばれたか分かってる?」
コツコツ。
「それは……」
「君さ、魔王軍に来て何年だっけ?」
「産まれた時からですが……」
「ふぅん。君、幾つ?」
「今年で二十歳になります」
「そうだよね、もう二十年だよね」
コツコツ。
「それなのに君さぁ、全然暗黒系の魔法覚えないじゃん。君のお兄さんはあんなに活躍してるのに」
「あ、兄上は……」
「ん? どうしたの? 関係ないって? ないことはないでしょ。僕は君のこと言ってんの」
「う……」
コツコツ。
「魔王軍もね、物資、有限じゃないの。使えない奴置いておくほど、裕福じゃないの。わかる?」
「わ、わかりますけど……」
「けど? 君、自分の立場わかってるの? 君と同時期に入った子は立派に部隊長務めてるのに、君はどうよ?」
「わ、たしは……」
「ね、わかるでしょ? 親の七光りで、いつまでも置いとけないの。都合のいい物語じゃないんだからさ。君も大人だろ?」
「はい……」
コツコツ。
「はい、それじゃ、これにサインして。君、明日から来なくていいし、どこへだって行きなよ。どうなっても、もう関係ないし」
「それは、つまり……」
「うん。除隊してって言ってるの。簡単に言えばクビだよ。ク、ビ」
暗黒騎士は、その時、初めて目の前が真っ暗になるという体験をした。震える手で用紙にサインして、頭を下げた。
自分はもう見捨てられたのだと理解した。
ふらふらと兵舎に戻り、ほとんどない荷物を纏めた。
ふらふらと覚束ない足取りで魔王城から離れる。
遠い所に行ってしまった同期が、兵士達の指導をしているのを見て、駆け出した。
がしゃりがしゃりと、自前の漆黒の鎧が音を立てる。
無性に悲しくて、兜の隙間から涙が溢れた。
ーーーー暗黒騎士さん、本日、クビになりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます