アフリカオオコノハズクVS魔法高校校長
咲兎
ドアの前に立つ
これは、私達の住む地球とは異なる歴史を辿ったもう1つの地球でのお話。
その地球では、魔法という超常現象を起こす事の出来る力があり、その力を扱える人間、通称魔法使いが多くいました。
そして、そんな地球には、1人前の魔法使いになる為の魔法学校が世界中に存在しており、多くの人々が通っていました。
そして、この物語は、そんな魔法学校の1つ、日本の東流魔法高校で起こった小さな大騒動のお話……。
◇
「オラアアアア!!! 脱げええええ!!! 脱げや校長おおおお!!! ヘルファイアアア!!!」
「フンッ! 未熟ッ! フハハハ、馬鹿め! そう簡単に脱ぐものかアアアア!!!」
「……何だこれ」
……おかしい。
私は、クラスの先生に言われて、校長室に魔力入りのネズミ肉を届けに来た……んだよね。途中から、夢とかじゃない……よね?
何か、ドアの向こうから、全力で叫ぶ校長と同じクラスの矢野君の声が聞こえるんですけど……。
って言うか、脱げって、えっ?
私の記憶が正しければ校長っておっさんだよね。
それって……。
「よし! 頼まれてたネズミ肉だけ校長室の前に置いて帰ろう!」
色々な意味で入る気が無くなった私は、引き返す事にした。
そういえば、校長の身分になれば、魔法の実験はしないはずだけど、何に、魔力入りのネズミ肉を使うのかな……ま、良いか。
そんな余計な事を考えていたのが、いけなかった。
「いてっ」
うっかりドアに足をぶつけてしまった。少し大きめの声を出してしまう。
「おぉ! その声、セナか! 俺を助けに来てくれたんだな! 早く来てくれ!」
「ぬぅ! 援軍だとぉ!」
うわあああ!!! 見つかったあああ!!!
「はぁ……失礼しまーす」
もうどうしようもないので、校長室に入る事にした。
「良し! 頑張れ、セナ! クラス委員の力を見せる時だ!」
「ぬ! あの、一条瀬奈か。
クク、丁度良い! ここで貴様の実力見せて貰おうぞ!」
どうしよう。何か、勝手に戦う感じの雰囲気になってる。っていうか、あのって何?
「えっと……そもそも、何なんですかこの状況は?」
思い切って聞いてみた。
「なっ! 状況を理解しないで助けに来たのか!? さすがセナ、俺の親友だぜ!」
君、2回くらいしか話した事ないよね?
「まず、俺が奴と親戚だって事は知ってると思うが……」
「初めて聞いたけど、それで?」
「俺は、その関係で奴とたまに会ってたんだが、それで少し前見たんだ! 奴が、自分のヅラの中に入っていくのを!」
「ごめん、ちょっと何言ってるのか分かんない」
というか校長ヅラだったの?
「クハハ、まさか見られていたとはな! やるな誠一!」
「くっ……分かっただろ。だから、俺は今日万全の装備でここに来た。そういう事だ」
「いや、どういう事なの!?」
私は、思わず叫んだ。
「クハハハ、そのような説明で伝わる訳もあるまい!
良いだろう! この儂に挑む勇者である貴様には、特別に説明してやろう!
まず、この儂のカツラは、儂自身が作った亜空間の核となっておる。
そして、このカツラの裏からは、その亜空間に自由に出入りが出来るようになっておるのだ。
亜空間は儂の個人スペースなのだが、どういう訳か、最近その亜空間に異次元と繋がるゲートができた。
そして、そのゲートから、異次元の存在が迷い込む可能性がある故、誠一は亜空間の核たるこのカツラを破壊しようと考えておるのだ。
このカツラが消えれば、亜空間が消え、異次元と繋がるゲートも消えると言った具合よ」
「な、なるほど……」
思ってたより、ちゃんとした理由だった……。
「というか、矢野君はどうしてその亜空間が異次元と繋がってるってわかったの? 入った訳じゃないんだよね?」
「いや、異次元なんて知るわけないだろ。ただ、意味不明なヅラがあったから焼こうと思っただけだ」
「えぇ……」
大丈夫かな、この人……。
「なっ! 違ったのか! クク、誰に似たのか面白い奴。だが、焼かせぬよ。あの異次元ゲートからは、さらに何かが出てくるやもしれぬのだからな」
「さらに? もう何か出たんですか?」
「うむ、見ろ」
そう言って、校長が指さした先には小さなフクロウが一羽いた。
「可愛いだろう。儂のペット、フクロウの風太郎だ。こやつは世界で数少ない異次元から来た種、異次元種と呼ばれるフクロウと同じ個体のようでな。今、魔力のある餌を与えて育成しているのだ」
「あっ、このネズミ肉ってもしかして」
「むっ、それは、風太郎の餌ではないか。そこに置いておけい」
「はぁ、分かりました」
フクロウに、魔力のある餌って大丈夫なのかな?
というか、これって確かアフリカオオコノハズクだよね。あの、強い敵が来ると枝みたいに細くなるので有名な。えっ? これが異次元種? 明らかに違うでしょ。
「うーむ。しかし、異次元種が手には入るとは、やはりゲートは素晴らしいわ!」
……いや、なんか喜んでるっぽいし、言わないでおこ。
「テメェ、見損なったぜ!」
「何ぃ! 誠一よ!」
「そこは、美少女を呼び出して、ハーレムを作ろうとしろよ! ヘルファイアアアア!!!」
「フハハハ!!! 発想が青い青い! 青二才よおおお!!!」
……何か、また戦い始めた。
しかも、2人とも無駄にハイレベルな戦いだ。正直、私の入り込む余地はない。
……でも、このまま帰るっていうのもなぁ。
フクロウの風太郎が首を回してこちらを見ていた。それが、どういう意図なのかは分からないけど、2人を止めた方が良い気はする。
アフリカオオコノハズクはストレスに弱い。こんな狭い室内でドッタンバッタンやられたら、たまったものじゃないはず。
まぁ、できる限りの事はしてみようかな。
「出来る事があったら、協力してね」
私は、風太郎にそう声をかけ、風太郎の檻を開けてから、作戦を実行した。
まぁ、これで何か変わる事も無いと思うけど……。
「ふっ!」
まず、風魔法で部屋のカーテンを閉じる。2人は激戦の最中で気づいてないみたいだ。
次は、校長に視界を遮断する魔法をかける。
「暗闇よ!」
「猪口才な!」
でも、校長には効果がないみたい。まぁ、これは想定内。だから、次は、部屋の電気を落として、足に強化の魔法を叩き込んで、一気に校長との距離を詰める。
暗いから校長の位置は分からないけど……大体で!
狙うはカツラ! カツラを取って戦いを終わらせる!
「セナ! その方法は駄目だ!」
!? 矢野君、それは一体
「うわああ゛あ゛!!!」
全身が痺れる! 私は、思わずその場に倒れ伏した。
「ふん。来ると分かっていれば、見えずとも反撃は容易い。安心せい、少しの間、動けなくなるだけよ」
これは、高位魔法の電撃か! 完全に読まれてた! くそぅ……。
「ヅラが……ヅラが欲しかった」
校長の性格上、カツラを燃やしてきちんと勝てば場が収まると思ったのに!
「もう一手だったな。このカツラをとるには……ん?」
ん? 校長の様子が、何かおかしい?
え? まさか……。
「矢野君! 電気付けて!」
「ん? お、おう!」
矢野君が電気をつける。
「な、貴様ぁ……」
「風太郎!」
思わず叫ぶ。目の前にはカツラを咥えて、飛ぶ風太郎がいた。
「す、すげぇ! さすが、フクロウは頭が良いぜ!」
フクロウは、暗くてもモノクロの状態で物が見えるらしい。加えて、音を立てずに空を飛ぶ事ができるとか、だから校長に気づかれずに電気の消えた部屋から、カツラを取る事ができたんだ。
何だ、私が無理にここまで手出しする必要は無かったのか。だって、風太郎は、自分で解決出来る力を持ってたんだから。
にしても、飼い主のカツラを自ら取るなんて、もしかして魔力入りの餌が体に合わなくて、校長に不満でもあったのかな?
風太郎は、私の前に校長のカツラを置いた。これを、どうにかして欲しいって事かな? でもごめん。今、私痛くて魔法使えないかも……。
「矢野君! これを!」
「おう、ヘルファイア!」
矢野君がそう叫ぶと、瞬時にカツラが消し火と化した。
「お、己ぇ……このちっぽけな鳥風情が……許さん!」
校長はそう言うと、全身から、尋常でない魔力を発して、風太郎に近づいていった。
やば、勝てば、場が収まると思ったけど、風太郎がいい所を持ってくのは、校長的にまずかったのか!
……でも、そんな校長を見た風太郎は。
「……」
全身を大きく広げ、威嚇する構えを校長に向かって取った。これは、聞いた事がある。アフリカオオコノハズクが天敵に狙われて、もうどうしようもなくなった時に取る決死の威嚇の構えだ。
全身を大きく見せて、相手を威嚇するけど元々が小さいから大して大きくならない上、この構えが終わった後には全ての力を使い、死んでしまう事もあるという。
つまり、風太郎は飼い主である校長と命がけで敵対するつもりなんだ……。
「なっ……」
校長は、そんな風太郎を見て動揺してるみたいだ。
小さい体ながらも風太郎の放つ気迫は尋常じゃない。多分、魔力のある餌を食べ続けていたからだろう。
でも、校長が動揺しているのは、それだけじゃない気がする。
「……そうか、風太郎。儂とした事がお前には悪い事をしていたようだ」
校長はそう言って、全身の魔力を収めた。
「今回はすまなかった。風太郎と一条瀬奈には今から回復魔法をかける。
それと、一条瀬奈、悪いが頼みがある」
「えっと、何ですか?」
◇
私は、校長に風太郎の飼育を任された。
自分は飼い主に向いていないから、戦いで連携出来ていた私に任せたいとか。まぁ、あれだけ嫌われてれば気持ちは分かるけど……向き合うべきだと私は思う。
「何か飼育委員みたいになっちゃったな……。ね、風太郎。いつかは、校長と仲良くなろうね。やっぱり本当の飼い主と仲が良いのが一番だもん」
私は、檻の風太郎に向かって話していた。あれから1月経った今、風太郎は結構私に懐いてくれている。
……そして、私は誰もいない事を確認して、こう呟いた。
「にしても、あの後調べたら、アフリカオオコノハズクが本当に異次元種だなんて驚いちゃったよ。
これからしばらくは宜しく。同じ次元の地球出身として」
終
アフリカオオコノハズクVS魔法高校校長 咲兎 @Zodiarc2007
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