第8話 結婚記念日
「カナ?!」
「ヒロミさん、大丈夫?」
「あ、ああ……」
私にもカナにも特殊なマスクがかけられ、ワクチン接種済みだったカナは付き添いとして側に居てくれた。
「どうしてここに?」
「ヒロミさんが倒れているのを見つけたのは私なの。驚いたわ」
カナはあれから時田の子を産み、その後、別の男の子供も産んで二児の母となっていた。
フクロウ支援法で生活には困らなかったが、キャリアのあったカナは仕事をすることを選び、保育園とシッターに支えられ仕事復帰を果たしたそうだ。
「そうか、元気そうで良かったよ」
「ヒロミさんは結婚したの?」
私の指輪で分かったのだろう。
「うん、娘もいるんだ」
「幸せそうで良かったわ」
暫く話して、私の熱も下がり安定したのを確認するとカナは帰って行った。
私は5日間は隔離が必要なので、このまま入院することになった。ヨシ子に連絡するとかなり心配していたようで泣き出してしまったが、なんとかなだめて往診でワクチンを接種できるように手配するよう話した。
退院後、フクロウが殺処分され『フクロウエフェクト』が終わったことを知った。
3年間……たった3年だったのかと思えるほど激動だった。この短い間に、どれだけの人の人生が変わったのだろう。
『フクロウエフェクト』とは一体なんだったのか。
30年前の『バブル』も、実は3年程しかなかった。しかしその短期間で人生が、価値観が変わってしまった人は数多い。
未だに影響を与え続ける『バブル』と同じように、この『フクロウエフェクト』も終わっても影響は続くのだろう。
私は直後から影響を実感していた。
フクロウが居なくなったという事は、またイケメン、ハイスペがモテ始める。最近やたらと誘いが多くなり、女性達の視線が変わった。
「おい、長谷部。今晩どうだ?受付嬢だ」
「高橋、私は既婚者だぞ」
「固いこと言うなよ。てか、お前なんで結婚したの?」
「勝手だろ」
「とにかく来いよ。既婚者のほうがモテるんだよ?」
「今日はダメだ。結婚記念日なんだ」
今日は私達の三回目の結婚記念日だ。
もう三年も絶つのか……。結婚してすぐに子供に恵まれた私達には、本当にあっという間の三年間だった。
ヨシ子は毎朝、サチ子を抱いて玄関で見送ってくれる。
「いってらっしゃい。今日はご馳走を作って待ってるね」
「ああ、楽しみだな。早く帰るよ」
ヨシ子は料理上手だ。
何でもおいしいが、私が一番好きなのは酢豚。カラッと揚げた豚肉に甘酸っぱい黒酢あんが絡んで箸が進む。ちなみにパイナップルは入れる派だ。
ヨシ子は本当によくやってくれる。記念のプレゼントは何にしようか迷った挙げ句、結局本人に聞いてみた。
「ヨシ子、結婚記念日のプレゼントは何がいい?」
「えっ、プレゼント貰えるの?嬉しい!新しい抱っこひもかな?」
「それはプレゼントじゃなくて普通に買えばいいよ。ヨシ子のもので何か欲しいものはないの?ジュエリーとかバッグとか」
「うーん、そういうのは当分使う機会がないし、なんだか子供を産んでから物欲が無くなったみたいなの。欲しいものって特にないのよね」
そういうものなんだろうか?
女性はとにかく物欲のカタマリみたいな印象だったが、それも出産で変わるのか?
満たされているのかもしれない。
「美味しいものが食べたいくらいかな」
会社近くに美味しいと評判のケーキ店がある。そこでケーキを買おう。後は花束なら喜んでくれるかな?
定時であがり、そんなことを考えながら歩いているとスマホが鳴った。知らない番号からの着信だった。
「もしもし?」
「ヒロミさん?カナです」
番号を変えていなかった私に、カナから連絡が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます