第4話 KAC4 紙とペンとハイスペ男子

「時田ッ!」


 カナを連れて去ろうとする時田を呼び止める。カナは潤んだ瞳でうっとりと時田を見つめていた。そんな顔は、私にしか見せないんじゃなかったのか?……カナ。


「1羽、譲ってくれないか?」


 フクロウは数が少なく、闇サイトでも1ヶ月の入荷待ちだった。それなのに、どうやって2羽も手に入れたんだ?島で捕まえたのか?


「え?」


 時田がゆっくり振り返る。

 フクロウ、フクロウさえあれば──


「30万!30万出す」


 フッと、ペンギンは鼻で笑った。


「先輩、それは無理ですよ。先輩達ハイスペ男子は今までさんざん甘い汁を吸って来たじゃないですか。やっと僕達にチャンスが巡って来たんだ。アンタ達にフクロウを乗せられたら意味が無くなっちゃうんですよ」


 ……アンタ達?


「お、お前まさか!」


 私は急いで会社へ戻った。




「高橋!おい!いるか!」


 私は叫びながらフロアを探し回った。

 スマホは繋がらない。


『ドンッ』


 何かを蹴飛ばすような音が遠くで聞こえた。

 会議室だ!


「高橋!」


 縛られ、粘着テープで口を塞がれた同期が床に横たわっていた。



「クソペンギンがっ!」



 高橋の頭にフクロウは居なかった。




 翌日から時田とカナは行方を眩ました。

高橋は時田にヤられっぱなしでは腹の虫が収まらない様子だったが、復讐したとしても残るのは復讐心だけだ。今度は時田から私達への。そんな汚物のラリーを続けたって意味がない。とにかく、フクロウさえ手に入れれば私達に怖いものはない。


 闇サイトの入荷待ちは解消されていない。やはり島で捕獲するしかないか……と『フクロウ狩り』で検索をかけて、衝撃的なニュースを目にした。

『フクロウ狩り』島ではなく、人の頭からの。ターゲットはイケメンやハイスペばかり──時田だ。





 数ヵ月後

高橋と一緒に六本木で飲んでいた私は、以前よく女性と行った会員制のスパの前を通りかかった。その時、中からヤツが出てきた。


「時田!!」


「先輩、お久しぶりです」


 時田のペンギン頭にはフクロウが3羽乗っていた。まるで成熟した雄鶏のトサカのように。

 高橋が時田に殴りかかろうとした時、後ろから傭兵のような男が二人、時田の前に立ち塞がった。もちろんこの二人も『アリ』だった。


「下がれ」


 時田の一言で傭兵は下がる。


「相変わらず『ナシ』なんですね」


 アイツは半笑いで私達を侮辱した。

フクロウがいないと『ナシ』いると『アリ』と言う呼び方が浸透していた。

時田の隣にはカナではない女がいた。


「カナは?」


「ああ、カナは妊娠したんで家に帰りました」


「妊娠!?」


「俺の子です。安心してください、ちゃんと面倒みますから」


 高橋が声を荒げた。


「お前、自分が何やってるのか分かってんのか?!警察に突き出してやる!」


「先輩、何言ってるんすか?あのフクロウは闇サイトで手に入れたモンでしょ?それを警察に訴えるって?教えてあげますよ。アレは先輩から奪ったんじゃなく『回収』したんです。あの闇サイトでフクロウを売っているのは僕です。でもその客がイケメンやハイスペなら僕達にとって都合が悪い。だから『回収』するんです。そしてそれをまた売る。また買って下さいよ先輩。リピーター歓迎ですよ」


 これで私達は二度とフクロウに手を出せなくなった。




『敢えて結婚しない』なんて調子に乗ったことを言わず、一人の女性を愛し、愛を育み、彩り豊かな人生を送る──そんな機会を私は永遠に失ってしまったのかもしれない。


 私達は淘汰されるのだろう。


 ゆっくりと


 でも確実に


 需要を失ってゆく


 紙やペンと同じように。


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