第3話 KAC3 遺伝子vsハイスペ

 再起動が終わり、二番目の男は意識を取り戻した。


「お、おい、大丈夫か?」


「ん?何がだ?次はアンタの番だな」



 二番目の男はそれまで通りに振る舞い、初期化については覚えていないようだった。私はエサが無くなったことを口実にフクロウ狩りを終わらせた。空もしらみ始めている。

 水上バスで戻り二番目の男と別れた後、私は職場近くのビジネスホテルで仮眠をとり、そのまま出社した。


 男性社員は皆フクロウを乗せている。昨日までは見かけなかったのに。


「おぅ、お前フクロウは?」


 同期が声をかけてきた。


「昨夜がんばったが、捕まえられなかった」


「は? 捕まえに行ったの?! 何で買わないんだよ」


「売ってるのか? 見あたらなかったが」


「闇で売ってるよ。後でメールしてやる。でも品薄だからな。俺のは15万した」


「15万?! そのフクロウは何のために乗せてるんだ? そんなに重要なのか?」


「俺もハッキリは分からない。だけど、確かに女の態度が全然違う。とにかく、あったほうがいいってことだ」


「オマエみたいなハイスペでも必要なのか?」


「ああ、ここだけの話、あのフクロウは遺伝子に関係があるらしい。あくまでも噂だが」



 遺伝子?何がどうなってフクロウが遺伝子に関係するんだ?あの初期化ってまさか……

 同期から届いたメールの闇サイトによると、やはり遺伝子が初期化されるらしい。

 ストレスや加齢によって傷ついた遺伝子が『初期化』され新しくなる。不妊も改善されるらしい。生物にとって、傷のない健康な遺伝子はこの上ない魅力になるだろう。女性は本能でそれを感じ取っているということなのか?あのフクロウにそんな力が?所詮闇サイトの情報だ。鵜呑みにするワケにはいかない。


 私は所謂AK男子だ。『あえて結婚A Kしない』男子。ハイスペックでありながら、料理や家事もこなす。オマケにイケメン。もちろんモテる。

 特別、結婚願望もなければ子供も欲しくない。だから結婚しない。したくない。同期もそうだ。いや、ヤツのほうが私よりハイスペックかもしれない。そんなヤツがフクロウに頼るなんて……にわかには信じられない。


 今夜はカナと食事の予定。

カナは複数いる女性の中でも本命だ。頭のいい女性だから、フクロウみたいな怪しげなモノに惑わされるはずがない。


「カナ、お待たせ」


「ヒ、ヒロミさん……?」


 カナの顔がひきつっている。


「どうしたんだ?」


「い、いえ、何だかいつもと違う感じがして……」


 カナの様子が明らかにおかしい。

 まさか、そんな……


「カナさん!」


 私の隣に一人の男が並んで立った。


「カナさん、僕と食事にいきませんか?」


 派遣の時田──通称『ペンギン』


「時田さん!」


 ペンギンの頭に小さなフクロウが乗っている。

 この絵ズラはちょっとズルいんじゃないか?


「カナ、行こう」


 私は冷静に、当たり前にそう言った。


 カナの美しい顔が歪んでいる。


「カナ、どうした?」


違う、カナ。惑わされるな。


 時田がカバンから何かを取り出した。

 そして

 ゆっくり頭の上に乗せた。




 二匹目のフクロウを。




『カチッ』


『キドウシマス』


時田の中で何かが起動した。




「可愛い!!」




 カナは時田に飛び付いた。




ウーーー!ソーーーー!だーーーーーーー!



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