Lyric6:例えばの話 それぞれの形
そして、ライブは盛大な歓声に包まれながら無事に終了した。
アイラのMC、ルシオのDJ、モルフェの演奏。
無茶髭も、影ながら舞台の音響や光源の調整を行っていたらしい。野外、昼間のライブと言えど、これがあるとないとでは大違い。裏方として立派な仕事を果たしたと言える。
盛り上げるところはしっかりと盛り上げ、時には穏やかな曲で心を和ませ……途中で騎士リヒャルトの乱入はあったが、ライブは大成功のままに終わったと言っていいだろう。
ライブが終われば、後は当然撤収作業。
展開したトレーラーを元に戻し、中に詰まっていた家財道具を詰め直し。
良かった、楽しかったと伝えに来た住民たちに、感謝の言葉を返しながら……宴は終わっていく。
リヒャルトは、いつの間にかいなくなっていた。
何も言わずに去ることが、彼なりの勝者への
住民たちもまた、やがて少しずつ立ち去っていく。己の生活に帰っていく。いつのまにやら、陽も傾き始めている。
人もまばらになったライブ跡地で……ルシオは、適当な木箱に腰かけていた。
「……無茶髭は?」
そのルシオに、モルフェは声をかける。
ルシオは視線の先――――目を輝かせて詰め寄る子供たち、の応対にどうしたものかとわたわたしているアイラの姿――――から目を離し、愉快げに微笑んだままモルフェに視線を移した。
「ん? ああ……中でトレーラーの具合確かめてるよ。忘れ物がないか、とかな」
「……そうか」
自分で聞いておいて、気の無い返事を返す。
言いたいことは、話したいことは別にある――――ルシオは勘のいい方ではあったが、そうでなくても察せられるほどにはわざとらしい態度。
思わず、ルシオは噴き出した。
こうなると、心外だと言わんばかりに頬を赤くするのはモルフェだ。
「なっ――――なんだ! なにがおかしい!」
「くく、いやスマンスマン。あんたがこう……あんまりにもわかりやすいもんで、つい」
「なんだとう!」
「悪かったって。謝る、謝る。ごめんな?」
ケタケタと笑いながら謝れば、モルフェはツンとそっぽを向いてしまう。
それがまるで駄々をこねる子供のようだったから、ルシオは余計に笑ってしまった。
「で……俺に話があるんだろ? 無いなら無いでいーけど、あるなら聞きますよお嬢さん。ひと仕事終えて気分もいいし」
「むむ……まぁ、な。話したいことが……聞きたいことが、いくつかある」
「そりゃ光栄。ちなみに恋人はいないし、身分違いの恋ってのも悪くないと思ってまーす」
「馬鹿者。誰がそんなことを聞いた」
「傷付くなぁ」
特に傷付いた風ではなかった。
モルフェはいくらか、目を細めて思案する。
思案してから、意を決したように口を開いた。
「……なぜ、私を舞台に上げた? お前たちの……仲間でも無かろう。その、なんだ。……失敗するとは、思わなかったのか?」
「ああ、そこから?」
疑問だった。
この街――――トライオトに来るまでの間に、多少演奏はして見せた。
ライブをするとなって、試しに弾いてみてくれと乞われてリュートを軽く爪弾いて見せた。
いくらか……いくらかは、彼らの前で演奏しているのだ。
それでも、いくらかに過ぎないのも確かで。
モルフェの腕を信用できるほどに見せたとは、彼女自身は思っていなかった。
初めて訪れた場所の、それも即興を軸にしたライブともなれば、演者同士の信頼が不可欠。
である以上はやはり――――モルフェの起用は、思慮が浅い判断だとすら思えた。
「一応演奏聞かせてもらってはいたしなぁ」
「だが、即興を任せるに足ると信用されるほど聞かせた覚えはない」
「でも実際できてただろ? あとはまぁ……手かな」
「手?」
「そ。あんたの手。見ればわかるよ」
言われて、モルフェは己の手を見た。
白く、細く、長く――――そして。
「あんたの手はキレイだけどさ。タコができてるだろ? リュートと……あと剣術かな、その付き方は。相当練習した奴の手だよ」
「……………………」
「俺はあんたの研鑽を信じたってわけ。少なくともハッタリじゃないのはちょっと聞いてわかったしね。努力は裏切らない、なんて言う気はないけど……努力する奴は信用できるからな」
「…………まだ聞きたいことはある。なぜこんなことを……貴族相手に決闘を仕掛けたり、ライブを開いたりしている? お前たちに得が無い。どころか危険なだけだ。現に騎士が捕らえにきたじゃないか。いつもこんなことをしているのか?」
「あー、まぁいつもだな。割といつも。警吏と揉めるのも、まぁいつもっちゃいつもか。よくあるよ。毎回どうにかしてきたけど」
気恥ずかしげに、鼻先を掻きながら。
静かに眼鏡を押し上げながら。
視線の先は、子供たちと戯れているアイラ。
「……なんつーかな。好きなんだよ。頑張ってる奴がさ」
「……………それだけ?」
「それだけっちゃそれだけ。ひた向きで、真っすぐで、前に進もうって頑張って……好きなんだよなぁ、そういう奴。見てて嬉しくなるっつーか、世の中捨てたもんじゃねぇなって思う。んで、頑張ってるのを嗤う奴とか、邪魔する奴とかがどーも許せねぇの。だいたいそんなとこだよ、俺がこんなことしてんのは」
少し離れたその先で、アイラは子供たちと追いかけっこに興じていた。
どうも背中の羽を弄られて怒ったらしい彼女が、けれど駆け回る内に随分と楽しそうに笑っている。
追われている子供たちも、心から楽しそうに笑う。
それを見たルシオも、どこか嬉しそうに笑った。
「――――あいつ、魅了ができねぇって話はしたろ?」
「ああ……だから代わりにラッパーをしているのだったな」
「言い出したの俺なんだけどな。ラップ教えたのも俺だし。……あいつもさぁ。魅了ができないからって故郷追われて、それでもできないなりに色々頑張ってんだよ。探してんだ。“自分の価値”ってのをさ。だからまぁ……あいつがそれ見つけるまでは、付き合ってやろっかなぁって」
「……随分、入れ込んでいるんだな」
「おっと、アイラには言うなよ? こっぱずかしいし、あいつ調子に乗るからな」
「フン、言わんよ……私もそこまで野暮ではない」
からからと笑いながら、ルシオはポケットからシガレットケースを取り出した。
開いて、中から一本煙草を手に取る。
「……吸うのか」
「少しね。ライブの後とか、曲聞く時とか……あんたも吸うか?」
「いや……私はいい」
「そ。えーっと、マッチマッチ……」
「…………もうひとつ、いいか?」
「んー? ……お、あった」
「――――――――お前が
マッチを擦ろうとしていたルシオの手が、止まった。
一拍遅れて、苦笑が漏れる。
吸おうとして咥えた煙草を、指で摘まんで手に取って。
「……ムッさんか? ったく、口が軽いんだからもー」
「すまん。しかし……気になってな。ラップができるお前が、アイラにばかり決闘を任せているのが」
「まー気になるよな。そりゃそうだよな。いや別に大したことじゃないんだけどさ」
気恥ずかしそうに笑う。
傾き始めた太陽が、仄かに朱くその顔を照らしていた。
モルフェは無意識に、皮の耳当てをそっと抑えた。
「……前に一回、決闘で痛い目見てね。それで怖くなっちまった。お遊びでやる分には平気なんだけどな……決闘ってなると、頭が真っ白になって言葉が出てこねぇんだ。そんだけだよ」
「…………すまん。嫌なことを聞いた」
「いーって別に。……それとも気になるなら、逆にお願い聞いてもらってもいい?」
「わかった。なんだ?」
「煙草吸うから、一曲弾いてくれ。落ち着く奴」
そう言って、ルシオはもう一度煙草を咥えた。
それならばとモルフェも首肯で返し、背負っていたリュートを手に取る。
爪弾く旋律――――彼女の故郷に伝わる、どこか懐かしい曲。
マッチを擦れば、勢いよく噴き出す煙と共に火が灯った。
煙草にあてがい、火をつけて。
手を振ってマッチの火を消してから……大きく吸って、紫煙を空へと吹いて吐く。
それから彼は旋律に耳を傾け、指で煙草を摘まんだまま瞳を閉じた。
もう一度煙草を咥えるでもなく、ただ紫煙を揺らめかせながら、静かに音を聞く。
「……それ、アンタの故郷の曲?」
いつの間にか、モルフェの傍らにアイラの姿があった。
しゃがみこんで、己の膝に肘を乗せ、頬杖をつきながら。
驚くでもなくリュートは音を奏で、ルシオはぼうと耳を傾けている。
「ああ、そうだ。……子供たちは?」
「日が暮れる前に帰るって。まったくアイツら、アタシの羽と尻尾はおもちゃじゃないっつーのに……」
「フフ、それは災難だったな」
「ほんとよ! ……つーかルシオ、アンタまた煙草ひと口で終わるわよそれ」
「んー? うっせぇ、煙草ぐらい好きに吸わせろっつの」
「ほっとくと自分でもったいないって言う癖に……」
「いーんだよそん時はそん時で」
指摘されて放心していたことに気付いたか、思い出したようにルシオはもう一度煙草を吸った。
それから吸い込んだ煙をアイラに吹きかけ、悲鳴を上げる姿を見て愉快そうに笑って。
「ギャーッ! においがつくでしょーがっ!」
「だからお前のいないとこで吸ってやってんのに、寄って来たのはどこのどいつなんですかね」
「おーいお前らァ! 俺っちが後片付けしてる時にいい御身分じゃあねェか!」
「いっけね。悪いなムッさぁーん! とりあえず一服させてくれねぇかなーっ!?」
「しょうがねぇな! ガハハ!」
「ゆ、許されるのか……」
「もー、ムッさんはルシオに甘い!」
陽が傾いて――――やがて、夜が来る。
◆ ◆ ◆
「アイラお姉ちゃんたち、夜はどこに泊まるの?」
と、聞いてきたのはパンジーだった。
あらかた片付けも終わったところで、さてこれからどうするかという時だった。
「アタシたちは……いつもトレーラーで寝泊まりしてるし、今日もそんな感じ?」
「今から宿探すのも面倒だしなぁ。モルフェはどうするんだ?」
「私は、そうだな。それこそ宿を探すとするか……」
「じゃあさ! じゃあさ! お姉ちゃんたち、うちに泊まっていかない?」
なんでも――――パンジーの祖母が、孫を助けてくれた上にライブで皆を楽しませてくれたお礼としてせめて宿ぐらいは貸したいのだとか、なんとか。
加えてパンジーはアイラたちに懐いたようで、話したいことも色々とあるのだろう。
アイラたちは顔を見合わせ、少し話し合って――――
「――――じゃあ、アタシとモルフェでお邪魔しようかしらね」
「お兄ちゃんたちは?」
「俺らはトレーラーで寝るよ。見張りってわけじゃないけど、ほっとくのも心配だしな」
実際には大人数で泊まるのも負担が大きかろうと分担するよう話し合った結果なのだが、ともあれそういうことになった。
男二人はトレーラーで。
女二人はパンジーの家で。
そのように結論して、その場で別れて。
アイラとモルフェは夕食をご馳走になり(たいへんおいしかった)――――今、寝室でパンジーと歓談に興じていた。
「良かったぁ。アイラお姉ちゃん、私の寝間着でピッタリだね!」
「うん……そうね……良かった……ほんと……ほんとに……」
「ぬぅ。この寝間着、少々丈が小さいのだが……」
「うーん、それお母さんのなんだけど、それより大きいのはうちには無くて……」
「そうか……いやすまん。これで構わんさ」
「うん……ほんと……うん……良かった……」
「どうしたんだアイラ……大丈夫か……?」
「はい……平気です……はい……」
アイラは汗を拭って寝間着に着替えた時からずっとこの調子だった。
旅人にはありがちなことではあるが、アイラもモルフェも最低限の着替え以外の衣服は持ち合わせておらず、寝間着(簡素な
ゆったりとしたものなので、サイズには融通が効く。
……のだが、モルフェは長身と……それから、豊かな胸に服が押し上げられる関係でいささか丈が短くなってしまっている。許容範囲ではあるが、腿までしか隠せていない寝間着からすらりと伸びた白い脚がいかにも肌寒げであった。寝間着でも耳当てをつけたままだから、妙なアンバランスさが際立っている。
ほう、とパンジーがため息をつく。
「モルフェお姉ちゃん、お肌キレイだねぇ。ほんとに美人!」
「そ、そうか? 遺伝だよ、これは……」
「アタシ、お母さんもお姉ちゃんも妹も姪っ子もスタイル良かったんだけど……」
この世の終わりを見てきましたみたいな顔だった。
「ま、まぁまぁ……その、なんだ。魅力というのは一面的なものではないぞ。うん」
「一面的……? 誰の胸が平面ですって……?」
「そんなことは言ってないんだが!?」
「なぜ……? 姪っ子なんてまだ10歳にもならない内から私よりスタイル良かったんですけど!? というかパンジーもアタシより若干スタイル良くない!? 未成年なのに!? なぜ!?」
「……おばあちゃんのご飯がおいしいから……?」
「食生活……ッ!」
「そういう問題なのか?」
……未成年とはいえ、パンジーはとっくに第二次性徴期を迎えた年齢である。
まだまだ伸びしろはあるにせよ、既に肉体は女性的な体つきへと変化を始めている。
それがどういうことかというと……絶望的に起伏の無いアイラの体について詳細に語らねばならないため、彼女の名誉のためにさておくものとして。
「うー……ところでモルフェって今
「うん? ――――ん、んん!? あ、あー、そうだな。年齢か。えーと……」
ふと年齢の話題を振ると、モルフェはあからさまに動揺した。
癖なのか耳当てを抑え、視線を泳がせて――――
「――――――――――――17歳だ」
「うわ無理があるかどうか微妙なライン」
見たところ20代半ば程度に見えるのだが、もしかしたら大人っぽく見えるだけなのかもしれない。
そういう意味で、極めて微妙なラインだった。
「そ、そうか? いや、そうだろうな。うん。なのであまり言いたくは無かったのだ。うん」
「………………うんじゃあ、それはそういうことでいいけど」
「本当だぞ!?」
「わかったってば。そういえばアンタって、なんで旅してるんだっけ?」
「むぅ。……武者修行というかな。見聞を広げるために……」
言いかけて、モルフェは少し思案した。
「――――いや、話すか。実は……ある呪いを受けていてな」
「呪い?」
「ああ。生活に支障が出るわけでは無いが……恥ずべき呪いだ。それで、解呪の方法を探している」
「はいはい! 知ってる! 王子様のキス!」
「フフ、それで解けるのなら苦労は無いがな……呪いをかけた当人が王子のような者だから、さてどうだか」
「モルフェお姉ちゃん、王子様に呪いかけられちゃったの?」
「不覚を取ってな。呪いを解いたら、帰って償いをさせてやるつもりだよ」
「……アンタ結構血気盛んというか、武闘派よね」
思えば最初に会った時もパンジーを庇って貴族に食って掛かる場面だったわけで。
アイラも人のことを言える立場ではないが、大概に後先を考えない
「アイラお姉ちゃんは、ブリムエンの音楽祭に行くんだよね?」
「そーよー? アイラ・ザ・チャーム
「かぁっこいー!」
「でっしょー? フフン、アンタ大物になるわよパンジー!」
アイラは得意げに無い胸を張った。
……などと考えていたモルフェをキッと睨みつけた。鋭い。
「お昼のライブもすごく楽しかったし……アイラお姉ちゃんなら、きっと人気者になれるよ!」
「……そ? まっ、トーゼンよね!」
「ああ……確かに昼は凄かったな。よくもまぁ観客の心を支配するものだ……あの騎士との決闘も良かったが」
「あら、アンタも中々だったわよ? いつもはルシオのDJに合わせてるけど、たまには生演奏もいいモンね。また一緒にやりたいぐらい!」
「光栄だ。急ぐ旅でもなし……そうだな。また壇上に上がるのも悪くない」
「あ、ならさ!」
ポン、とアイラは手を叩く。
名案を思い付きました、なんて顔をして。
「アンタ、アタシたちと一緒に来ない? 聞いた感じ、アテがある旅でも無いんでしょ?」
「む……それは嬉しい申し出だが……い、いやしかし、他の二人がなんと言うか……」
「きっとアイツらも喜ぶって! もちろんアンタが乗り気じゃないなら、諦めるけどさ」
「…………………………」
困ったように、モルフェは耳当てを抑えた。
しばし、そうしたまま。
思案。思考。渦巻いて。
「――――少し、考えさせてくれ。急ぐ話でもないだろう?」
「……そうね。どうせ、もうしばらくはこの街にいるだろーし」
「すまん、助かる。……嬉しいとは思っているんだ。ただ……大事な決断だからな。少し、考えたい」
「OK、OK。わかってるって。アタシこそ、急に言っちゃってごめんなさいね。アタシからルシオたちにも伝えておくから、ゆっくり考えてちょうだい」
「ああ、ありがとう……」
……と、話していたところで寝室の扉が開く。
別の寝室にいたパンジーの祖母が、様子を見に来たようだった。
「パンジー。今日は、こっちの部屋で眠るのかい?」
「あ、うん! 今日はお姉ちゃんたちと一緒に寝る!」
「フフ、そうかい、そうかい……じゃあ、あまり夜更かしして、お二人に迷惑をかけちゃいけないよ」
「うん! ……ねぇおばあちゃん。お姉ちゃんたち、明日も泊まっていってもいいよね?」
「お、おいおい。流石に迷惑だろう、それは……」
「いえいえ、とんでもない! パンジーも随分懐いたみたいだしねぇ……お二人さえ良かったら、いくらでも泊まっていただきたいぐらいですよ。私もなんだか、孫が増えたみたいで嬉しくてねぇ……」
「そ、そうか?」
「孫……アタシやっぱりパンジーと同年齢扱いされてる……? 成人済みなんですけど……もう19なんですけど……」
「……そうだな。それなら、もうしばらく世話になるとするよ」
「ほんと!? やったぁ!」
なにやら打ちひしがれているアイラはさておくとして。
モルフェが微笑んでそう伝えれば、パンジーは飛び上がらんばかりに喜んでモルフェに抱き着いた。
その胸に顔を埋め、嬉しそうに笑っている。
「フフ……それじゃあ、くれぐれも夜更かしはいけないよ。おやすみパンジー」
「うん! おやすみおばあちゃん!」
微笑ましそうに笑いながら、老婆は扉を閉めて去っていく。
己の寝室に戻ったのだろう。
……あまり騒いで、老人の就寝に差し障りがあっても良くないか。
「……さ、ああ言われてしまったしな。今日はもう寝ようか」
「えーっ! もうちょっとお姉ちゃんたちとお話するー!」
「こらこら、夜更かしはいけないと言われただろう? 明日早起きして、たくさん話せばいいさ」
「うー……わかりました。じゃあじゃあ、お姉ちゃんたちの間で寝てもいい?」
「構わんよ。アイラも、構わないだろう?」
「えっ!? あ、うん!」
先ほどからぶつぶつと何事か呟いているアイラに水を向ければ、彼女は肩を飛び上がらせて驚いた。
……それから一瞬、眉尻を下げて何かに怯えるような顔を見せてから……頬を緩ませ、嬉しそうに笑う。
表情の忙しい奴だと思いはしても、モルフェはそれを疑問には思わなかった。
サキュバス。淫魔。あるいは、夢魔。
人の夢に潜み、精気を吸うとされるもの。
…………
それが無邪気な善意から来たものであっても……いいや、だからこそ。
サキュバスの魔力は、老若男女を問わず作用するという。
彼女たちと寝所を共にすることを恐れる風習は、今でも根強い。
「……えへへ、OKよ。一緒に寝ましょ?」
「やった!」
「おやすみ、二人とも」
モルフェは嘆息交じりに微笑み、灯りを吹き消した。
世間で言うように、悪夢を見ることは無かった。
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