第650話 補助魔法使い、天狐とサンドラの関係を知る

 お父さんから語られたまさかの事実。

 本来なら僕はもっと驚くべきなのでしょうが、どうしてか僕は冷静のままでいられました。

 何故か、僕のおばあちゃんが龍姫さんという事実を自然と受け入れられてしまったのです。

 もちろん、その理由はわかりませんけどね。

 でも、冷静でいられた理由だけはわかります。


 「サンドラちゃんは」

 「なー?」

 「サンドラちゃんはそれを聞いて、大丈夫なのですか?」


 それは恐らく、僕よりもサンドラちゃんの方がずっと辛い筈だからです。

 生まれ変わってからサンドラちゃんはずっと僕たちと一緒にいました。

 仲間として家族としてずっと一緒に居たのです。

 ですが、サンドラちゃんは龍姫の手の者にやられ、一度は死に、僕はその龍姫の孫です。

 自分の事を殺した相手の一族と一緒に暮らしていた事実を知り、一番辛いのはサンドラちゃんだと思ったのです。


 「なんでだー?」

 「なんでって、僕は龍姫さんの孫なのですよ?」

 「そうだぞー。だから、私はユーリとアンジュの事を知っていたんだぞー?」

 「え? という事は、サンドラちゃんはずっと知っていたという事ですか?」

 「そうだぞー。じゃないと、ユーリとの関係の説明がつかないぞー」


 これは、良かったと思っていいのでしょうか?

 

 「それに、姉様は姉様。ユーリはユーリ、ユアンはユアンだぞー?」

 「という事は、サンドラちゃんは僕やお父さんの事を恨んでいないという事ですか?」

 「当たり前だぞー! ユアンは、ユアン達は私に生きる意味、生きる道を示してくれた。だから、私はユアン達と一緒に生きる。家族なんだぞー」

 「サンドラ、ちゃん……」

 「な、なー……」


 気がつけば、僕はサンドラちゃんを抱きしめていました。

 サンドラちゃんが、龍姫さんの事でどれだけ苦しんできたのかは、サンドラちゃんにしかわかりません。

 僕やお父さんの事を恨んでいたとしても、それは仕方ないと僕は思います。

 ですが、サンドラちゃんは僕を、僕達の事を家族と言ってくれました。

 僕はそれが嬉しくて堪らなかったのです。

 

 「でも、どうしてお父さんは僕のおばあちゃんが龍姫さんであると……いえ、もっといえばチヨリさんの事も僕に黙っていたのですか?」


 僕たちに伝えるタイミングは幾らでもあった筈です。


 「その時が来たからだ」

 「その時?」

 「えぇ。時代が変わる時が来たからよ」

 「そうなのですね?」

 「理解できたのかしら?」

 「いえ、全然出来てませんよ?」


 いきなり時代が変わる時と言われてもピンと来る人はいませんよね?

 だからといって、何も分かっていないと思われるのも嫌なので、一応相槌をうってみました。


 「こういう適当な所はユーリそっくりね」

 「ははっ、それは否定はできねぇな」

 「全く……いい? もし分からない事があったら素直に聞きなさい。知らない事は恥ではないの。知らないままにする事の方が恥なのよ」

 「わかりました。でも、もっと早く教えてくれれば良かったと思うのですけど……」


 そう思うのは僕だけですかね?

 もし、前もって教えて貰えれば僕たちだってもっと色んな準備が出来たかもしれませんからね。


 「屁理屈を並べるのはアンジュそっくりだな」

 「…………そんな事ないわよ」

 「あると思うぜ? まぁ、実際には教えたくても教えられなかった、というのが真実だからそこは我慢してくれ」

 「どうしてですか?」

 「そういうもんだからだ」

 「そういうものだったのですね!」

 「それで納得するのね」


 話せない理由があるのなら仕方ないですからね。

 無理に聞きだしてお母さん達との関係が崩れる方がもっと嫌ですし、僕たちが知りたいのは話せなかった理由ではなくて、時代が変わる時が来たというのが何なのかです。


 「それで、時代が変わる時がきたってどういう事ですか? 前にも言っていましたが、魔族が動いた事が関係しているのですか?」

 「ちゃんと覚えていたのね」

 「そこは覚えていましたよ」

 「なら、話は早いな。ユアンの言う通り、魔族の動きが活発化している」

 「それだけではなく、魔物の動きもね」

 「でも、魔力至上主義の人達は今は居ませんよね?」

 「魔力至上主義の連中はな。だが、それと連なる組織は今も活動中だぜ?」

 「そんな組織も居るのですね」


 てっきり、魔力至上主義がいなければ何も起こらないと思っていましたが、そうではないみたいです。

 むしろ、お父さんの話しぶりからすると、そっちの組織の方が危険な気がします。

 というのも……。


 「龍人族が敵に居るのですね」

 「だな。正直、魔力至上主義の連中ならどうとでもなると思ったが、流石に龍人族はマズい」

 「このままいけば、龍人族同士の戦争に発展する可能性もあり得るわね」


 その場合は魔族領とルード領に大規模な被害が及ぶ事になるだろうと、お母さん達は予想しています。

 それだけは避けなければいけませんね。


 「でも、それを聞いても、僕たちにはどうしようもありませんよ?」


 流石に組織を相手になんかできませんからね。

 しかも、それが龍人族の組織なれば尚更です。


 「そりゃそうだ。龍人族を相手する事になったら流石に俺達ですら一苦労するくらいだしな」

 「そんな面倒な事はしたくないわね」

 

 お母さん達でもきついのですね。

 あれっ?


 「一苦労って事は、お母さん達は龍人族と戦っても負けないって事ですか?」

 「まぁ、数人相手くらいなら負けはしないだろうな」

 「そ、そうなのですね」


 龍人族の強さがどの程度かはわかりません。

 ですが、少なくともナナシキのダンジョンでサンドラちゃんを相手した時、僕たちは本当にギリギリでした。

 結果的には勝ちましたが、みんなの魔力はギリギリで、僕なんかは闇魔法を全力で使ったせいで満身創痍でした。

 あれから僕たちも成長しているとはいえ、あの時の事を考えると、龍人族の相手は今の僕達でも荷が重いと思います。

 そんな相手にお母さん達は数人位なら大丈夫だなんて言えるのは相当凄いですよね。


 「今のユアン達なら大丈夫だと思うわよ?」

 「普通に無理だと思いますよ」

 「そんな事ないと思うけどな。ま、戦わずに済むならそれが一番なのは確かだ」

 「でも、戦いは避けられませんよね?」

 「そんな事ないわよ。その為に、貴女達は魔王に会いに行くのよね?」

 「そうですけど、どうしてお母さん達はそれを知っているのですか?」

 「クジャから聞いたからね」

 

 そこにも繋がりがあったのですね。

 まぁ、クジャ様にシノさんを預けるくらいですし、それなりの付き合いがあるのは当然といえば当然でしたね。


 「それで、龍人族が敵にいるのはわかりましたが、僕たちは何をすればいいのですか?」

 「好きにすればいいと思うぜ?」

 「好きにといわれても……もし、僕たちが間違った選択をしてしまったら大変な事に……」

 「なるだろうな。だからといって、この世に正解なんてものはないだろ?」

 

 何が正しくて何が間違っているのか。

 それは人によって違います。

 魔力至上主義の人たちが考えている事はわかりませんが、きっとあの人達はそれが正しいと思い行動しているのだと思います。

 だからこそ僕は思うのです。


 「正解がないからこそ、好き勝手やるのは違うと思うのですよね」


 好き勝手やった結果、誰かを傷つける事は魔力至上主義のやり方と変わりませんからね。


 「なので、僕たちは僕たちのやり方でやりたいと思います」

 「それは好き勝手やるのと同じじゃないのかしら?」

 「違いますよ。僕たちは僕たちで話し合って、みんなで進みます。間違った選択をすれば誰かが教えてくれますし、止めてくれます」


 僕の仲間は本当にすごいですからね。

 だからこそ、こうやって今までやってこれました。

 それはこれからも一緒です。


 「なるほどな。それじゃ、お前たちは今から何をするんだ?」

 「えっ……と、それは今から考えます!」

 「行き当たりばったりなのね」

 

 呆れたようにアンジュお母さんがため息をつきました。

 ですが、それと同時に笑っているようにも見えます。


 「ま、俺達の娘らしくていいじゃないか」

 「そうね」

 「で、俺達は何の話をしてたんだっけ?」

 「何だったかしら?」


 何の話しでしたっけ?

 話が色々脱線して良くわからなくなってきました。


 「えっと、サンドラちゃんとの関係だったと思うの」

 「あ、そうでしたね!」


 キアラちゃんが言ってくれて思い出しました!


 「そうだったな。という事で俺と…………今はサンドラか……の関係は身内って事だ」

 「お父さんの叔母さんって事でいいのですよね?」

 「そうなるのかな? 今はちょっと違うけどな」

 

 僕たちの娘みたいなものなので、強いていうならばお父さんから見て孫みたいな存在になるのですかね?

 まぁ、それも違うと思いますけどね。

 

 「まぁ、サンドラちゃんとお父さんの関係はわかりました」

 

 ですが、それ以上に気になる事が出てきてしまいましたね。


 「それで、龍姫さんは……僕のおばあちゃんは敵、なのですか?」

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