第648話 弓月の刻、天狐の家にお邪魔する
「ここが、お母さん達が暮らすお家なのですね」
「何もない所だけどね」
お母さんが言う通り、辿り着いたお家は至って普通の家でした。
普通といっても外観は、ですけどね。
「お茶を用意するからその辺に座っていてくれ」
「わかりました」
お父さんが台所の方へと消えていき、僕たちはお母さんに案内されリビングへと向かい、ソファーへと腰を掛けました。
「そんな緊張しなくてもいいのよ」
「緊張はしていませんよ」
「そう? 私には緊張しているように見えるけど」
僕を見てお母さんが笑います。
お母さん達がどんな生活をしているのか気になり、部屋の中をきょろきょろと見てしまっていただけなのですけどね。
まぁ、全く緊張していないかといえば、嘘になりますけどね。
ただ、僕以上に緊張している人が二人ほど居るので、それを見ているせいか緊張が薄れているのだと思います。
逆に全く緊張していない人も二人ほどいますけどね。
「お待ちどうさん。熱いから火傷しないようにな」
「ありがとうございます」
暫くすると、お父さんが戻ってきて、僕たちの前にお茶を並べてくれました。
そしてそのままお父さんはお母さんの横に座りました。
「それじゃ、折角だし挨拶でもしておくか。俺がユアンの……父親? のユーリだ」
「私が母親のアンジュよ。今日は歓迎するわ」
こうして並んでいるのをみると珍しい光景ですね。
お兄ちゃんであるシノさんで白天狐は見た事がありましたが、黒天狐というのは僕以外に会った事はなかったので、こうして見るのは鏡以外では初めてです。
そして、黒天狐と白天狐が二人並んでいるのも当然初めて見る光景で、何故か感動を覚えました。
「ユアン」
「あっ、はい?」
「ユアンも私達を紹介する」
「あっ、そうでした!」
お母さん達をみてボーっとしてしまったみたいですね。
「えっと、まずはこちらは僕のお嫁さんのシアさんです」
「イリアルの娘のリンシアです。昔、お母さんがお世話になりました。これからは私がお世話になります。シアと呼んでくれると嬉しいです」
珍しくシアさんが長々と話しました!
しかも、敬語を話しているのもかなり珍しいですね。
「そう畏まらなくてもいいぞ」
「ユアンのお嫁さんという事は、私達の娘と同じだからね」
「わかった」
そして相変わらずの変わり身の早さです!
まぁ、シアさんも何度も一緒にもにお母さん達と映像でお話していますしね。
今回は社交辞令って奴だと思います。
「それで、こっちの青い髪の人族がスノーさんで、翠色の髪のエルフがキアラちゃんです」
僕の紹介に二人が頭を軽く下げます。
まぁ、二人も一度ですが会っているので一応って感じですね。
そして、最後に紹介するのが……。
「アンジュ、ユーリ、久しぶりだなー」
「おう。小っちゃくなったな」
「元気そうで良かったわ」
サンドラちゃんでしたが、そういえばサンドラちゃんとお母さん達は知り合いでしたね。
紹介するまでもなかったようです。
「それで、今はなんと名乗っているんだ」
「サンドラだぞー。ユアンにつけてもらったー」
「いい名前ね」
と思いましたが、名前の紹介は必要だったみたいですね。
それもサンドラちゃんが自分で名乗ったので手遅れになってしまいましたけどね。
ですが、そのやりとりで気になった事があります。
「そういえば、お母さん達とサンドラちゃんってどういった関係なのですか?」
「ん? 聞いていないのか?」
「聞いてません……よね?」
前にその事について聞こうとしたことがあったと思いますが、それ以降その話をするタイミングがなくて、聞いてなかったと僕は記憶しています。
ですが、僕が忘れているだけかもしれませんので、みんなに確かめると。
「うん。まだ聞いてなかった」
「すっかり忘れてたね」
「忘れていたというよりも、聞くタイミングを逃しただけだと思うの」
やっぱり僕の勘違いではないみたいですね。
というよりも、今のやりとりで思い出しましたが、確か一緒に暮らし始めたばかりのサンドラちゃんにその話を聞こうとしたら凄く辛そうな、同時に悲しそうな顔をしたので無理に聞くのはやめることにしたのでした。
「サンドラちゃん」
「うんー。もう大丈夫だぞー」
「本当ですか?」
「うんー。今はユアン達が居るからなー」
「でも、サンドラちゃんが辛くなるのなら無理に話さなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫だぞー。それに、いつかは知らなければいけない事もあるからなー。絶対に私達に関りのある話になるー」
「私達という事は、その中には僕達も関わってくるという事ですか?」
「勿論だぞー」
サンドラちゃんは龍人族の巫女。
お母さん達は白天狐と黒天狐。
何気なく関係を聞いただけでしたが、この三人が関わる話しとなるとかなり重要な話になりそうな予感がします。
もしかしたら聞いてしまったのは失敗だったのかもしれません。
まぁ、いつかは知らなければいけないと言っていたので、遅かれ早かれ聞くことになったと思いますけどね。
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