第646話 補助魔法使い、再会する
「中は至って普通ですね」
「うん。思ったよりも広くない」
蜘蛛の糸に包まれていたせいで、大きく見えていた館でしたが、実際に中へと入ってみるとそこまでの大きくはありませんでした。
もちろん、普通に暮らすのは十分な大きさはありますけどね。
それでも、ナナシキにある領主の館や僕たちのお家と比べると小さく思えます。
「それで、何処から探索するの?」
「そうですね……あれ? 誰か入口の扉を閉めましたか?」
何処から探索するのか決めようと辺りを見渡すと、いつのまにか僕たちが入ってきた扉が閉まっている事に気付きました。
中に入って何かあった時に直ぐに出られるようにと開けておこうと話し合ったのに、その扉が閉まっていたのです。
「私は知らない」
「私も閉めてないよ」
「私もです」
「私でもないぞー!」
という事は、誰も閉めていないという事ですかね?
「たまたま閉まっちゃったのですかね?」
まぁ、閉まっちゃったのなら開ければいいだけの話ですけど……ね?
「なにやってるの?」
「えっと、扉が開きません」
「またまた……ほんとだ」
僕の力が弱い訳ではないみたいですね。
スノーが押したり引いたりしていますが、それでもビクともしません。
「面倒だから壊す」
「そっちの方が早いですね」
「ユアン、強化して」
「わかりました。
切れ味が上がる魔法ですね。
これならば、シアさんの腕があれば鉄の扉でも斬れると思いますので、木製の扉なら簡単に……。
「ん……無理」
「本当ですか?」
「うん。扉に当たる前に、何かに邪魔された」
「何かに?」
「うん。ユアンの防御魔法みたいなのに当たった感覚」
僕の防御魔法みたいなのにですか……。
「んー……確かに魔力は感じますね」
「という事は、誰かが魔法をかけたって事なのかな?」
「そうとも限りませんよ。何らかの
「とりあえずわかるのは外には出られないって事だなー」
「そうなりますね」
サンドラちゃんも気づいたみたいですね。
「外に出れない?」
「はい。扉が閉まったので気づいたのですが、転移魔法が使えないのですよ」
「探知魔法は?」
「探知魔法もですね」
恐らくは妨害の
「なので、周りの状況を確認しつつ慎重に向かいましょうか」
「わかった。スノー、先頭任せても平気?」
「大丈夫だよ」
「蜘蛛が出るかもしれないけど。本当に平気?」
「嫌だけど、そうは言っていられないし任せて」
「わかった。後ろは私に任せる」
頼もしいですね。
僕だったら苦手な蜘蛛が出るかもしれないと思ったらとてもではないですが前衛は無理です。
「それじゃ、まずは外に出られそうな手掛かりから探そうか」
「そうですね。まずは一階、その後に二階……」
「ちょっと待つ。足音が聞こえる」
探索を始めようとした時でした、シアさんがみんなの会話を止め、耳を澄まし始めました。
すると、僕の耳にもコツン、コツンとゆっくりとこちらに近づいてくる足音が届きました。
「敵、ですかね?」
「わからないけど、警戒はしておいて。足音が囮の可能性もあるから」
「囮ですか?」
「うん。姿が見えない相手と戦う時って音を頼りに戦うんだけど、逆にそれを逆手にとられる可能性もあるから」
エメリア様の親衛隊をやっていた経験が活きているみたいですね。
僕とシアさんは音がする方ばかりに気を取られていましたが、スノーさんは音の方を気にしつつも、辺りを警戒しているのがわかります。
「なー?」
僕たちが警戒する中、突然サンドラちゃんが気の抜けたような声を出しました。
「どうしたのですか?」
「えっとなー……うんー。大丈夫そうだなー」
「何がですか?」
そう質問するも、サンドラちゃんは僕の質問に答える前に、トコトコと足音の方へと歩いて行ってしまいます。
「スノーさん!」
「わかってる!」
「シアさん、僕たちも!」
「うん!」
サンドラちゃんの意図はわかりませんが、このままサンドラちゃんを一人にする訳にはいきません。
「速い」
「どうしてですか!」
しかし、またもここで不思議な現象が起きました。
僕たちを置いて歩きだしたサンドラちゃんの姿が見えているのに、僕たちはサンドラちゃんへとなかなか追い付けません!
僕たちは走り、サンドラちゃんは歩いているのにです!
「ユアン。足音が遠ざかってる」
「本当ですね、もしかしてサンドラちゃんは追いかけているのですか?」
「そうかもしれない」
もしかしたら知らないうちに魔法などをかけられていたのかもしれません。
でなければ、サンドラちゃんが不用心に一人で行動するとは思えません。
「でも、足音に少しずつ近づいているとは思うの」
「そうだね。此処まで来たら私にも聞こえるよ」
それだけ足音の主に近づいたという事ですかね?
だとしたら、より警戒を強めないといけませんね。
「それだけじゃだめ。まずはサンドラをどうにかする」
「はい。人質にされたら厄介ですからね」
防御魔法があるとはいえ、完璧ではありませんからね。
特に、相手が転移魔法の使い手で、この場から連れ去られてしまったら手の施しようがありません。
なので、まずはどうにかサンドラちゃんへと追い付かないといけないと思い、必死に後を追いかけたのですが……僕たちの心配とは裏腹にあっさりと僕たちはサンドラちゃんへと追い付く事が出来ました。
「サンドラちゃん!」
「なー?」
「駄目じゃないですか、一人で勝手に進んだら!」
「なー? 何でだー?」
「一人だと危ないからですよ」
「何も危なくないぞー? だって……なー?」
「だってじゃありま……あっ」
また、あの匂いです。
しかも、サンドラちゃんの事を叱っているのを忘れてしまうくらいに強い匂いを感じました。
それと同時に、僕は思い出しました。
「この匂い……あの時の」
「あの時?」
「はい。僕がまだ目も開けられないくらい小さな時に感じた匂いです」
「そんな時の事を覚えているの?」
「いえ、覚えてはいませんけど、覚えています」
「どっちなのですか?」
「えっと、わかりにくいのですが、何というかそう感じたのです」
自分でも言っている事はわかりませんが何故かそう感じました。
「って事は、その匂いの正体はユアンが赤ん坊の頃に会った事がある人なのかな?」
「そうなるのですかね?」
となると、その相手は限られてきますよね。
そして、その可能性が一番高い相手となれば……。
「おーおー、誰かと思ったら」
「ついにここまで辿り着いちゃったのね」
記憶を辿り、匂いの正体を考えている時でした。
コツンコツンと二つの足音が僕たちに近づいてきたと思うと、聞いただけで心臓の鼓動が跳ねあがる声が聞こえました。
「あ……」
なるほ、ど。
だから、懐かしい匂いと感じたのですね。
「よく来たな」
「ここに来れたという事は、相当頑張ったのね」
本物でしょうか?
いえ、疑う余地はありませんね。
「おとうさん、おかあさん……」
僕の視線の先には優しく微笑む、黒天狐と白天狐呼ばれる二人の姿があったのでした。
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