第638話 弓月の刻、襲撃された村に向かう

 「おはようございます……大丈夫ですか?」

 「はい! 大丈夫です!」

 「うん。問題ないよ……」


 村へついた翌日、魔物の件をファスカさんから聞いた僕たちは、村の調査を手伝う事になり、朝から襲撃のあった村へと向かう事になりました。

 ですが……。


 「えっと、無理はしないでくださいね?」

 

 昨晩は家へと戻ったキアラちゃんとスノーさんなのですが、何故かスノーさんがぐったりとしています。

 

 「無理はしていないから平気だよ」

 「本当ですか?」

 「本当本当、ちょっと朝方まで、頑張らされちゃっただけだから」


 なるほど。

 これ以上の理由は聞かない方が良さそうですね。

 今の一言でキアラちゃんの機嫌がいい理由もわかりましたしね。


 「スノーさんも大変ですね」

 「そんな事ない。あれは自業自得」

 「それもそうですね」


 昨日のキアラちゃんは凄かったですからね。

 何が凄かったかというと、シアさんがやんでれ? でしたっけ?

 そう例えるくらいにスノーさんへの圧が凄かったです。

 それほどスノーさんの事が好きで、嫉妬しているという事ではありますが、あの状態のキアラちゃんは例えようのない威圧感がありました。


 「ユアンも気をつけた方がいいぞー」

 「僕もですか? 僕は大丈夫ですよ」

 「本当かー?」

 「本当ですよ?」

 

 僕はシアさん一筋ですからね。

 まぁ、ラインハルトさんやローラちゃんなど、僕に好意を寄せてくれる人は居ますけどね。

 

 「それが危険だよ」

 「何が危険なのですか?」

 「今はシアが我慢してるけど、その我慢が限界に来た時、ユアンは私以上に大変な目にあうと思うかな」

 「スノーさん以上に、ですか?」


 なにそれ、凄く怖いです。

 ですが、シアさんに限って……。


 「スノー、その時は私とユアンは長期休暇に入るからよろしく。サンドラもチヨリのお店、頼んだ」

 「わかったよ」

 「任せろー」


 ありえますね。

 これは気をつけないと本当に大変な事になりそうです。

 

 「そ、それより、早く村へと向かいましょう。急がないと夜になっちゃいますよ!」


 こんな時は話題を変えるのが一番です!

 それに、本当に急がないと日が落ちてしまって危険です。

 ただでさえ魔物が沢山いるという話しですし、余計なリスクを負うのは勘弁ですからね。


 「ユアンはもうちょっとシアと話合った方がいいと思うけどね」

 「そうだなー。爆発してからでは遅いからなー」

 「大丈夫ですよ。ね、シアさん?」

 「うん。今は平気。今は」


 今は、ですね。

 うん。本当に気をつけたいと思います!

 といっても、僕はシアさん一筋なので、それを理解してもらうしかありませんけどね。


 「あれが、例の村ですかね?」

 「すれ違った兵士達の情報からすれば間違いないと思うよ」


 サンドラちゃんも大分体力がついたみたいで、少し急ぎながら進む事半日とちょっと、、襲撃にあったとされる村へと辿り着く事ができました。


 「でも、やっぱり様子が変ですね」

 「うん。襲撃にあったにしては綺麗すぎる」


 ここまで大規模の魔物の襲撃は珍しいですが、村が魔物に襲われる事は事態はそこまで珍しい事ではないみたいです。

 その為に魔物ように外壁や柵などで対策しているくらいですからね。

 ですが、この村の状態はハッキリ言って異常です。


 「家屋どころか、外の柵すら壊されていませんよね」


 魔物襲撃にあった村の後の状況を実際に目にした事はありませんが、かなり悲惨な状況に陥ると聞いた事があります。

 当然ですよね。

 魔物は食料などを求めて人間を襲うのですから。

 食料がありそうな場所を荒らすのは当たり前のことです。

 それなのに、この状況というのは異様としかいいようがないです。

 

 「そうだね。異様としか、言いようが、ないよね」

 「そうですね。異様としか言いようがないと思うの」

 「ぷふっー。ふたりとも、やめる」

 「なー? どうしたんだー?」

 「異様としかいいようのない状況にシアさんが耐えきれなかったのですよ」

 「それ、だめ。不意打ちはずるい」


 別に笑わせるつもりはなかったのですけどね。

 たまたま発言したらスノーさんとキアラちゃんが便乗しただけなので、僕は悪くないと思います。

 

 「それで、魔物の反応はあるの?」

 「ちょっと待ってくださいね……ん?」

 「どうしたのですか?」

 「えっと、反応はありましたけど……」


 赤い点ではなくて、青い点なのですよね。


 「という事は、人の反応って事ですか?」

 「そうなりますね」

 「村人が戻ってきたのかな?」

 「それか、魔物が逃げた後に盗賊が占拠した可能性もある」

 「それにしては早すぎませんか?」


 そんな都合よく盗賊がやってくるとは思いませんからね。

 

 「もしくは盗賊の中に調教師テイマー召喚士サモナーが居たとかかな?」

 「それもありえますね」


 どちらにしても、今現在は魔物は居ないという事ですね。


 「んー、まずは村の中の情報を探った方が良さそうですね」

 「その方がいい。影狼でみてくる」

 「お願いします」


 シアさんの影狼はこういう時に助かりますね。 

 

 「それじゃ、行ってくる」

 「はい。気をつけてくださいね」


 といっても、シアさんが実際に行く訳ではなくて、シアさんの影狼をこっそりと影に潜らせて村の中に入るだけですけどね。

 ですが、影狼を精密に操るとなると、シアさんはその間無防備になるので、そこは気をつけなければいけません。

 何よりも、この時は一番の危険が直ぐ近くにありますからね。


 「スノーさん、ダメですよ!」

 「えー、ちょっとくらいダメ?」

 「ダメですよ! 昨日、キアラちゃんに怒られたばかりですよね?」

 「そうだけど、シアは家族だから別じゃん?」

 「キアラちゃん、スノーさんがそう言ってますけど?」

 「全く反省していませんね! スノーさん!」

 「あー、ごめん。だけど、キアラもシアとユアンの事モフりたいでしょ?」

 「当然です! だけど、それとこれは別だと思うの」

 「ちぇっ、わかったよ」


 ふぅ、どうにかスノーさんの暴走は止められたみたいですね。


 「ふぇっ? あの、スノーさん、何ですか?」

 「いや、シアの同意がないからシアは諦めるけど、ユアンはいいよね?」

 「だ、ダメに決まってますよ! 村の状況もちゃんとわかっていないのですから! 何かあった時に動けないと危険です!」

 「それなら問題ないよ。みぞれとルークがちゃんとシアのサポートに回ってるし」

 「ラディとキティの配下も加わってますので安心ですよ」


 あれ、キアラちゃんまで寄ってきましたよ?


 「えっと、サンドラちゃん?」

 「なー? みんながするなら、私もモフモフするぞー?」

 「駄目ですよ! シアさんが戻って来たら僕が怒られます!」

 

 シアさんが頑張ってくれてるのに僕たちが遊んでいたら悪いですからね。

 

 「戻った……何してるの?」

 「あっ、シアさん! 聞いてくださいよ」

 「何を? ユアンが私を放って、みんなとイチャイチャしてたこと?」

 「ご、誤解ですよ! 僕はちゃんとシアさんを守ってましたからね!」

 「わかった。その話は後で詳しく聞く。場合によっては夜、楽しみにしてるから」

 

 にたりとシアさんが笑いました。

 むー……これはわかってて便乗してますね!

 

 「とりあえず、報告して貰ってもいいですか?」


 うん。この話は後で忘れてくれることを祈ってなかったことにしましょう。

 

 「なんか、誤魔化してる気がするけど。わかった。見てきたけど、村の中央で……」


 誤魔化せましたかね?

 まぁ、誤魔化すも何も、僕はシアさんを守るために動いていただけですけどね。

 そして、僕たちはシアさんからの報告を受ける事になりました。

 そこでシアさんが見てきたものは何と……。

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