第639話 弓月の刻、村の様子を確かめる
「いいんですか、調査隊の方達を待たなくて?」
「構わないよ。魔物の事を解決出来るならして欲しいってファスカも言ってたし、下手に調査隊に口を挟まれても面倒な事になりそうだしね」
シアさんの話しからすると、そうなる可能性は確かに高そうですね。
「わかりました。なら、行ってみましょうか」
「うん。だけど、安全という保証はない。気をつける」
「そうですね。絶対に一人で行動しないようにしてくださいね」
今から会う人は、もしかしたら転移魔法を使える可能性が少なからずあるかもしれません。
そんな相手に一人になったら、何処かに連れ去られてしまう恐れがあります。
まぁ、みんなには万が一の為に転移魔法陣を持たせてあるので大丈夫だとは思いますけどね。
ですが、用心しておいて無駄な事はないので、警戒しておくのが一番です。
「あの集団ですね」
「うん」
「他にはいないのかー?」
「見た所はいない」
「探知魔法でも反応はないので大丈夫だと思いますよ」
「緊張してきました」
キアラちゃんの言う通りですね。
僕たちが近づいていくと、向こうも僕たちに気づいたようで、一斉に立ち上がったのがわかります。
シアさんから聞いていましたが、実際に目にすると村人が逃げだした理由がわかりますね。
「凄い迫力だね」
「みんな大きいですね」
僕の印象はとにかく大きいです。
身長がみんな二メートルくらいあるのでしょうか?
そんな人たちが五十人ほど、一斉に立ち上がったのです。
これは勘違いしても仕方ないと思います。しかも、額には一本の大きな角が生えていますしね。
知らない人が見たら、魔物にしか見えません。
「すみません、魔族の方ですか?」
「おぉ、わかってくださいますか……良かった。話しの通じそうな方達で」
やっぱりそうだったみたいですね。
僕が魔族の方かと尋ねると、少しだけ魔族の方達の空気が柔らかくなるのがわかりました。
それもそうですよね、魔族の方達からしたら、魔物と勘違いされて、襲われる可能性があるのですからね。
「安心したのは僕たちも同じですよ。一応、魔物が現れたと言われて来ましたからね」
「やはり、そうでしたか。申し訳ありません、驚かせてしまったようで」
見た目とは裏腹に、丁寧な人達のようですね。
「構いませんよ。無駄に戦わなくてすんだみたいですので」
みたいというのは、まだ彼らの事を信用しきれていないからですね。
もしかしたら、魔族の侵攻の可能性だってゼロではありません。
まぁ、良く見ると、集団の中に子供達が混ざっているのでその可能性はないとは思いますけどね……その子供も既に僕より背が高そうですけど。
それにしても、かなり無理をしてきたみたいですね。
村人が魔物と勘違いしてきた理由にも繋がりそうですが、今会話をする集団の人達は随分と汚れた格好をしています。
しかも、かなりやせ細っているせいもあって、パッとみた感じ、やせ細ったオーガに見えなくもないのですよね。
なので、何があったのか、何故こんな所に来たのかをまずは尋ねる事にしました。
そして、返ってきた答えは何と……。
「難民なのですか?」
「はい。訳があって、魔族領から逃げ延びてきました」
難民というのなら、この状態なのは頷けます。
「ユアン、まずは炊き出しでもしたらどう? 見た所、まともな食事をとってなさそうだし」
「そうですね。ですが、こんな人数の食事は直ぐに用意できませんよ」
収納魔法中に色んな食事は入っていますけど、それは僕たちが食べる用です。
もちろん、それを渡しても僕たちとしては構わないのですが、あまり食事をとっていない人達にいきなりそういった食事を渡してしまうと、胃がびっくりしてしまうみたいなので、出来れば胃に優しい食べ物を用意した方がいいと思うのです。
「なら、リコとジーアにも手伝って貰う」
「それがいいですね」
「それならラインハルトさんも連れてきたらどうですか? ラインハルトさんなら私達よりも魔族の事について詳しいと思うの」
「それならオメガさんもかな」
「そうですね。今から戻って、みんなに声を掛けてみます。ちょっと待っていてくださいね」
流石に魔族の方達の前で、転移魔法を使う訳にはいかないので、この場はスノーさん達に任せ、僕は一度集団から離れ、誰も見ていない事を確認した後、お家へと転移魔法を使い戻りました。
幸いにも、この時間はみんな暇をしていたみたいで、声をかけるとあっさりと了承を得る事ができました。
オメガさんはリコさんに笑顔で一緒にいくよね~と言われ、笑顔が引きつっていましたけどね。
そんなにリコさんが怖いのですかね?
ともあれ、みんなに来て頂けました。
さて、これから少し忙しくなりそうですね。
そう思いながらも、僕はリコさん達と共に、みんなが待つ村へと戻るのでした。
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