第635話 弓月の刻、村へ向かう
「サンドラ、一旦竜車を止めて貰える?」
「なー? わかったぞー、サラー、デルー」
「「はーい」」
野営を挟みながら魔族領へと向かい始めてから三日目のお昼頃、今日ものんびりと竜車に揺られて雑談をしていると、突然スノーさんが竜車を止めるようにサンドラちゃんにお願いをしました。
「どうしたのですか?」
「酔った?」
「違うよ。そろそろ村につく頃だと思ってね」
村が近づいたから竜車を止めたのですね。
「なー? 何か問題でもあるのかー?」
「色々とね。ほら、サラとデルは一応魔物だからさ、そのまま近づいたら村人がびっくりかもしれないから」
「どうしてだー? 竜車は普通に使われてるんじゃないのかー?」
「リアビラの方だけだよ。こっちの移動は馬車を使うからさ」
そういえば、サラちゃんとデルくんの種族が竜車を引くのは、馬が砂漠で馬車を牽けないからでしたね。
「でも、すれ違った馬車はあまり気にしてなかったみたいだぞー?」
「それは商人とかだったからだよ。普段から馬車に乗るような人は竜車の存在を知っていたりするけど、帝都から離れた村で暮らす人は村からほとんど出た事ない人が多いから竜車の存在を知らない人が大半なんだよね」
つまりは、村の人からすると魔物が馬車を牽いてやってきたと思ってしまうという事ですね。
「なー……仕方ないなー。だけど、一緒に居てもいいかー?」
「どうやって?」
「こうするー。サラー、デルー、人化してー」
「「はーい」」
サラちゃんとデルくんがサンドラちゃんに返事をすると、その姿が光に包まれました。
「サラちゃん達も人化出来るようになったのですね」
「うんー。説明したら簡単に出来たぞー!」
それは凄いですね。
やはり体の大きい魔物はそれだけ頭もいいって事でしょうか?
でも、それを言ったら魔鼠さんは体は小さいのに凄く賢いですし……んー、やっぱり魔物って謎な事が多いですね。
「スノー、これでどうー?」
「あー……だめ、かな?」
「なー! どうしてだー!」
「どうしてって言われても……流石にその尻尾は隠せないとマズいかな? そのままだと見た目は魔族だしね」
サラちゃん達は
その尻尾が人化しても消えず、むしろ背丈がサンドラちゃんと同じくらいにも関わらず、元の状態と同じくらいの尻尾がついているので、凄く目立っていますね。
「でも、こうしてみると三姉妹に見えますね」
「うん。サンドラがお姉さん」
背丈が変わらないので余計にそう見えますね。
「私がお姉さんかー? なー……」
「どうしたのですか?」
「姉妹というと、ちょっと昔を思い出してなー」
そういえば、サンドラちゃんには龍姫というお姉さんがいましたね。
どうやらその事を思い出したみたいです。
話によれば、そのお姉さんが原因で一度命を落としているみたいですし、思い出すだけで辛いですよね。
「あるじ、悲しそう」
「だいじょうぶー?」
「サラ、デル……」
「これじゃ、どっちがお姉さんかわかりませんね」
サンドラちゃんが少し悲しい表情をしたからか、サラちゃんとデルくんがサンドラちゃんを慰めるように頭を撫でています。
「なー! 私がお姉さんだぞー!」
「なら、元気出す。妹に心配をかけないのが姉の役割」
「シアがそれを言う?」
「何?」
「いや、ルリちゃんに沢山迷惑かけてそうだなって」
「そんな事ない。ちゃんとルリの面倒はみてる」
「本当?」
「本当」
なんですよね。
ルリちゃんは今だにシアさんに対して敬語みたいな感じで話します。
それを不思議に思い、前にルリちゃんに理由を聞いてみたのですが、昔のシアさんは凄く怖かったみたいで、しかも年が一番近いという事もあってシアさんがよく面倒を見ていたみたいです。
そして、その面倒というのがそれなりに過激だったみたいで未だにルリちゃんは少しシアさんが怖いみたいです。
といっても、頭を撫でてとお願いしたりしたりもしているので、それ以上に懐いていたりもしますけどね。
まぁ、ルリちゃん自体が割と曲者なので話がどこまで本当かもわかりませんけどね。
それはさておきサンドラちゃんはサラちゃんとデルくんにお姉ちゃんに沢山甘えていいからなーとすっかりお姉ちゃん気分に浸っているみたいで、元気を取り戻したみたいですね。
「それで、サラちゃん達はどうするの? このままでは連れて行けないですよね?」
「そうだね。だから、一度お家へと送ろうと思うけど……」
竜車は僕の収納に入れる事ができても、生きているものは無理ですからね。
「なー……どうしてもダメかー?」
「出来ればね。まぁ、サンドラがサラ達が嫌な目にあっても構わないというのなら別だけど」
「なー! それは駄目だぞー!」
「なら我慢する」
「そうだよ。それか、サンドラちゃんもお家で休む? それなら三人で居られるよ?」
「なー……私はみんなと過ごすぞー、仲間だからなー。もちろん、サラ達も大事だけどなー」
かなり迷っていますね。
ですが、最終的にはサンドラちゃんは僕たちを選び、一緒に村に向かう事になりました。
「ユアンさまー」
「ユアンお姉ちゃんー」
「はい、どうしましたか?」
「お家に送ってー?」
「お願いしますー」
「わかりました」
僕たちが村へと向かう事になったので、サラちゃん達はお家へと戻る事にしたみたいです。
ですが、それはそれで納得いかない子がいるみたいです。
「なー! 私も転移魔法が使えるぞー!」
サンドラちゃんは自分がお家までサラちゃん達を送りたかったみたいですね。
「あるじが疲れちゃうのはやだー」
「ユアンお姉ちゃんの方が魔力いっぱいあって便利だからー」
べ、便利だから僕が選ばれたのですね。
「便利ならしかたないなー。だけど、困った事があったらまず私に相談するんだぞー?」
「「はーい」」
なんか腑に落ちませんが、仕方ありませんね。
「ユアン様ー、さっきはごめんねー」
サラちゃん達を連れ、僕は一度お家へと戻るといきなり、サラちゃんから謝られました。
「何がですか?」
「あるじが我がまま言ってー」
「ああでも言わないと、あるじ様は納得しないのー」
「あるじはまだまだ子供だからー」
「手のかかる妹だよねー」
「うんー」
あー……サンドラちゃんは二人のことを妹と思って接しているみたいですが、実際は逆みたいですね。
どうやら二人はサンドラちゃんが喜ぶように接してあげているみたいです。
「ユアン様、内緒ねー?」
「わかってますよ。その代わり、これからもサンドラちゃんの事はお願いしますね」
「うんー。私達はあるじが大好きだから大丈夫ー」
「面倒見てあげるよー」
内緒と言われましたが、これはサンドラちゃんには伝えられませんね。
きっとかなりショックを受けてしまいそうですからね。
それにしても、サラちゃんとデルくんも人化ですか。
ナナシキの魔物も人化できる子が増えてきましたけど、そういうブームですかね?
何か理由でもあるのでしょうか?
そんな疑問を持ちつつも、僕は再びみんなの元へと戻り、今度は歩きで村へと向かいました。
「なーなー?」
「はい、どうしましたか?」
「サラとデルは淋しがってなかったかー?」
「……だいじょうぶですよ」
「そうかー、なら良かったぞー!」
やっぱり言えませんよね。
本人は心配しているつもりですが、逆に心配されているだなんて。
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