第633話 女騎士、エルフの少女を語る
「よ、よろしくお願いします!」
「うん。よろしくね」
緊張した面持ちで、エルフ族の少女が私に頭を下げた。
「もっと楽にしようか。この辺りには盗賊もいないし、魔物もほとんどいないし、そこまで気を張らなくても大丈夫だよ」
「は、はい!」
「だけど、あまり大きな声は出さないようにね」
「すみません」
「やる気はあるのはいい事だけどね」
私達はローゼ様の護衛としてタンザからトレンティアへと向かっていた。
トレンティアはタンザからひと月ほどの距離があり、どうしても夜は野営をしていかなければならない。
もちろん、立ち寄れる村などには寄って宿屋に泊る事はあるだろうけど、流石に毎日という訳にはいかないので、こうして夜には見張りをする日が訪れる。
そして、今日は野営の初日。
私はキアラルカというエルフ族の少女と共に野営の見張りをする事になった。
「まだ、緊張してる?」
「すみません。まだ、緊張してると思います」
「そっか。少しでも慣れてくれると嬉しいかな」
「頑張ります」
タンザでキアラと出会ってから、私達はまだあまり会話を交わした事がなかった。
なので、正直どう接していいのか、私もあまりわからない。
こんな事なら初日くらいはユアンとシアにも一緒にやって貰った方が良かったかな?
そうすればここまで気まずい沈黙はなかっただろうし。
ま、実際には無理だろうけどね。
そんな事をしたら休む時間がなくなってしまうから。
初日の野営はそんな感じだったかな。
特に目立った会話もなく、黙々と野営を過ごした記憶がある。
そんな中、私達の間にちょっとした変化が起き始めたのは三回目の見張りの時だったと思う。
「スノーさん、ってユアンさんとシアさんの事を良く見ていますよね?」
「そうかな?」
「はい、よく緩んだ顔で見てますよ。好きなのですか?」
昼間も馬車の中で一緒に過ごす事もあって、自然と会話をする機会も増えたからなのか、最初よりもだいぶ私に慣れたようで、二人きりの時も話しかけてくれるようになった。
「見るのは好きかな」
「見るのは?」
「うん。ほら、なんていうか、美少女達が仲良くしてるのって何か良くない?」
「わかります。特にユアンさんとシアさんってお似合いですよね」
「うんうん。ほんと、なんで付き合ってないのか不思議なくらいだよね」
理由はユアンがシアの好意に気付いていないからなんだけどね。
まぁ、この頃のシアはユアンに対して従者意識が高いというのも原因だったりもするんだけど。
「でも、意外でした」
「何が?」
「スノーさんって騎士なので、そういった事に偏見があるのかと勝手に思ってました」
「んー……全くないかな。むしろ、それが至高だと思ってるし、当たり前だったからさ」
身近な恋愛は女性同士が多かったしね。
というのも、私が所属しているのは女性のみで集められたエメリア様専属の女性騎士団。
男性と接する機会はなかったからか、自然と周りには女性同士のカップルが成立していた。
「でもスノーさんは見るだけなのですか?」
「私はね。どうしても親がうるさいからさ」
それに、私の家は貴族だからね。
決して自由恋愛が出来るような立場ではなかったし。
「そうなんですね」
「ま、こればかりは仕方ないかな。家族の顔に泥を塗る訳にはいかないし」
「貴族って大変なんですね」
「それなりにね。私にはあまり関係ないけどね」
いずれ家督を継ぐのは兄上だからね。
なので、貴族といっても政治関係には携わる事はないだろうとこの時は思っていた。
「それともう一つ聞きたい事があるのですが、聞いてもいいですか?」
「内容によるかな。流石にエメリア様の情報やルード帝国の内情とかは詳しくは話せないよ」
「そ、そんな重要な事ではありませんよ。ただ、スノーさんって獣耳や尻尾が好きなのかなと気になったのです」
そんな事か……いや、そんな事じゃないね!
「好きだよ。もう、ずっとモフモフしてたいくらいに好きかな。キアラもわかるでしょ? ユアンとシアの毛の違い! ユアンはふわっとしてて気持ちいいのは知ってるけど、シアはサラッとしてると思うんだよね。あぁ……触らせてくれないかなぁ」
ユアンは何度か触った事があるけど、未だにシアは触らせてくれないからね。
「そんなに好きなんですね」
キアラが引き攣った笑いを浮かべているのがわかった。
どうやら、キアラにはモフモフの素晴らしさが伝わらなかったみたい。
「だけど、いきなりそんな事を聞いてどうしたの?」
「いつも目の色を変えて凄く見てるので、どうしたのかと思っただけですよ」
「そんなに見てた?」
「はい。ユアンさんのお尻ばかりみてるのかと思ったくらいです」
それは仕方ない。
ユアンの尻尾は感情によって凄い揺れるからね。
まぁ、シアもユアンが関わると凄い反応するから見てて楽しいけど。
だけど、最近それと同じくらい気になるものがあるんだよね。
なので、折角だから私もキアラに聞いてみる事にした。
「耳、ですか?」
「うん。すっごい気になる。触っちゃだめ?」
「別に構いませんけど。ユアンさん達と比べてがっかりだけはしないでくださいね?」
「しないよ」
むしろ、私の予想だと……やっぱり!
「むにむにのすべすべ……これははまりそう」
最高の手触りだった! いや、これは指触りと言った方がいいかな?
どちらにしても、最高の一言では表すには失礼なレベルで最高だった。
それに加え、キアラの反応がまたやばい。
「スノー、さんっ……くすぐったいです」
「ごめんね。もうちょっとだけ……」
「うぅー……」
流石に向かい合って触られるのは恥ずかしいとの事で、背後から触らせて貰ってるのだけど、力が抜けちゃったのか私に寄りかかってくるし、耳を撫でるたびにぴくんと身体を震わせて、吐息をこぼしている。
しまいには。
「スノーさん、もう、終わりです」
懇願するように赤らめた顔で私を下から見上げてきた。
その破壊力といったら……正直、一瞬で心を奪われたよね。
「ま、私がキアラに最初に惹かれたのはここかな?」
「へぇ、割と早い段階からだったのですね」
「もちろん、それだけじゃないよ? キアラは凄く気が利くし、全力で私の事を支えてくれるからね。そういった健気な所も大好きなんだよねだよ」
「まるでお母さんみたいですからね」
「わかる。みんなの事を良く見てる」
「そうだなー。キアラお母さんだなー」
「妹ですからね!」
そんなに年上にみられるのが嫌なのかな?
もうみんなキアラの実年齢は知っちゃってるけど、気にしてないと思うけど、やっぱり本人は気にするのかもしれない。
「それで、キアラちゃんの方はいつからなのですか?」
「私ですか? そうですね……私は多分」
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