第628話 弓月の刻、クジャから依頼をされる
「アンリにはまだまだ聞きたい事があるが、それは後にするとして、そろそろ本題に移るぞ」
クジャ様の隣で落ち着かない様子のアンリ様とエレン様に絡まれ鬱陶しそうにしているシノさんも含め、会議は再開しました。
というか、シノさんも参加なのですね。
「僕は帰っちゃダメなのかな? 居ても意味はないと思うんだけど」
「折角だしそのまま居てくれ。お前にも関係する話になるかもしれないからな」
「ちょっとだけね」
シノさんも同じ疑問を持ったみたいで、ちゃっかり帰ろうとしましたが失敗したみたいですね。
「それじゃ、話を戻す。確か、ナナシキから人材を派遣するという話しだったな」
そういえば、そこで話が中断していましたね。
それで、ナナシキから人を派遣すると結局の所はルード帝国から人を派遣した事と同じになるのでは? という話しになり、そこにアンリ様が登場したのでしたね。
「そうだったな。エメリア、その辺りはどうなっている?」
「はい。問題と思われます。確かにナナシキはルード帝国の領土ではありますが、アルティカ共和国の所属でもありますので、アンリの一言でアルティカ共和国からの派遣した事にするのも可能です」
「その辺の事はアンリと相談しながらやれそうか?」
「問題ありません」
改めて見ると、ナナシキの立場って複雑な立ち位置になるのですね。
どちらの国にも所属していますし、いつかは公国として独立する事になっていますからね。
今はまだいいですが、その時になったらもっとバタバタする未来が容易に想像できます。
「それじゃ、ナナシキから人を派遣しても大丈夫って事になるのですね」
「そうだな」
クジャ様が頷きました。
ですが、実際問題、ナナシキの人材に余裕があるかというと、そこまで余裕がある訳ではないのですよね。
ましては、エレン様の補佐をする人となると、様々な知識と高い能力が求められる事になります。
何せ、エレン様の補助をするとなるとかなりの労力を必要としそうですからね。
「となると……お願いできそうな人はあの人くらいしか居ないと思うの」
「誰か候補が居るのですか?」
「うん。というか、任せられるのは一人だと思うの」
流石キアラちゃんですね。
常日頃からスノーさんの補佐をしているからか、この一瞬でパッと思い浮かんだみたいですね。
「私も思い浮かんだ」
「シアさんもですか?」
「うん。むしろキアラの言う通り、適任の人材」
「誰ですか?」
「ラインハルト。必要ならオメガも連れて行くといい」
ラインハルトさんとオメガさんですか。
確かに適任ではありますね。
何せ、あの二人は元王族ですからね。
ラインハルトさんに関しては何処まで政治に関わっていたのかわかりませんが、それでも僕の事で暴走する以外はまともな人だという認識はあります。
エレン様との仲も悪くなさそうでしたからね。
「問題は、お願いして手伝ってくれるかですね」
「うん。後はオメガが変な気を起こさないか」
「シアさんは疑っているのですか?」
「ううん。もう大丈夫だと思ってる。だけど、可能性を考えるとゼロではない」
オメガさんは元々は敵でしたからね。
完全に信用できるかというとまだ無理かもしれません。
ですが、一緒のお屋敷で暮らしていますが今の所は普通に過ごしてくれていますし、もう問題ないと思えます。
リコさんの事をやたらと恐れているからかもしれませんけどね。
「とりあえず、戻ったらラインハルトさんにお願いをしてみましょうか」
「そうだね。無理だったら、他の人材を探すか、アリア様の知り合いとかを当たってみよう」
僕達からできる提案はこれくらいですね。
「わかりました。決まりましたら私の方に連絡をお願いします」
「わかりました」
それにしても、予想以上に大きな話になりましたね。
「話は終わったかな? それなら僕はもう帰るけど」
「まぁ、待て。話はこれからだ」
「まだあるんだね」
こればかりはシノさんと同意見ですね。
この空間とメンバーに慣れてきましたが、いい加減疲れてきました。
「あと少しで終わる」
「それならそれだけ聞いていこうかな」
「うむ。むしろこれが一番重要となるだろうからな。ローゼ達もよく聞いてくれ」
今から話す事はローゼさん達も関係することみたいですね。
「簡潔に説明すると、魔力至上主義が動き出した」
「えっ!? 魔力至上主義は今は動けない筈じゃないのですか?」
僕は思わず大きな声を出してしまいました。
クジャ様の話がまさかのまさかだったからです。
「どうやら俺よりも事情に詳しいみたいだな」
「あっ……えっと、僕達もその事について調べていたので、ちょっと知っていました」
流石にレンさんが関わっているとは言えませんので、そこは濁します。
ですが、これは話した方がいいのですかね?
話したら色々と混乱しそうな気もしますけど。
「どうやら複雑な事情のようだな。まぁ、無理はしなくていい」
「助かります」
「構わない。だが、先ほどの話は事実だ。といっても、ほぼ暴動に近いがな」
「暴動ですか?」
「そうだ。魔族領の状態は耳にしているか?」
僕を含め、ナナシキ組は誰も知らないみたいで、首を横に振りました。
「ユアン達はもう少し情報を仕入れた方がいいわね」
「いつか痛い目に合うわよ」
こればかりは耳が痛いですね。
まぁ、行った事のある街の情報であればラディくんの配下が各地にいるのである程度の情報はありますけどね。
ですが、流石に魔族領ともなれば遠ぎますので、情報は全くといっていいほどないのです。
「それで、暴動っていいましたが、何があったのですか?」
「どうやら、魔力至上主義のトップ達が姿をくらましたみたいだ。その結果、指導者を失った使徒が暴動を起こしているようだ」
やばいです……。
これって確実に僕たちが原因ですよね?
「そこで、魔王から手助けを求められた。そこで、お前たちにお願いがある」
そう言って、クジャ様は僕達、弓月の刻の顔を順番に眺めました。
「お前たちには魔族領へと赴き、まずは魔王と会って貰いたい」
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