第627話 補助魔法使い、報告をする3

 「ところで、リアビラを復活させるのはいいと思うのですが、誰がそこを統治するのですか?」


 街を復興させる為には、どうしても様々な事を指揮する人が必要となります。

 しかも今回は言ってしまえば敵地である訳ですので、かなり人を選ぶ事になると思うのです。


 「それなんだが、エレン」

 「はい?」

 「お前がいけ」

 「私がですか?」

 「そうだ。ルード帝国内でリアビラの事を知っているのはお前だけだからな」


 指名されたのはまさかのエレン様でした!

 

 「皇帝よ、流石にその人選はどうかと思うわよ」

 「そうね。流石に正気を疑うわね」


 エレン様が指名されると、異議を唱えたのはローゼさんとフルールさんでした。

 フルールさんに関してはかなり辛辣ですね。

 まぁ、僕もどちらかというとローゼさん達に同意なのでエレン様を庇えませんけどね。

 もちろん、エレン様がダメって訳ではないとは思っていますよ?

 ただ、エレン様に任せると不安だなっと思っただけです。


 「うむ。その気持ちはわかる。しかし、適任であることは確かだ。それに、エレン一人に任せる訳ではない」

 「当然ね。エレン一人に任せたら街がなくなりそうだもの」

 「実際にありえるだろうな。エレン一人だったら」

 

 そこまで言っちゃうのですね。

 でも、クジャ様もそこを理解しているのなら他の人を選べばいいと思うのですが、何かしらの意図があるのですかね?


 「しかしだ。いつまでもエレンを遊ばせておくわけにはいかない」

 「私は遊んでなんかいませんよ?」

 「リアビラに行ってまともな報告が出来ないのにか?」

 「それは……そういう時もあります」


 流石に言い逃れは出来なかったみたいですね。


 「とにかく、リアビラの件はエレンに一任する」

 「父上」

 「不服か?」

 「そのような事はありません。ですが、先に聞いておきたいのですが、私の補佐は誰なのですか? 私一人では無理ですし、補佐の者との相性もあります」

 「それに関してはこれからだ。しかし、宛はある」


 そう言って、クジャ様は僕たちを見ました。


 「そちらからも一人、リアビラに派遣する代表を選んでくれるか?」

 「ナナシキからですか?」

 「そうだ。ルード帝国だけから人を派遣すると、ルード帝国の領土だと主張する事にも繋がってしまう」

 

 あくまでルード帝国とアルティカ共和国の共同の地とアピールする訳ですね。


 「代表者を選ぶのは構いませんが、ナナシキから選出してしまうとマズくないですか? ナナシキはアルティカ共和国に領地がありますけど、ルード帝国の所属ですよね?」

 「一応はそうだな」


 だとしたら、ナナシキから代表者を送っても結局は同じですよね。


 「だが、問題はない……そろそろか」

 「何が……ん?」


 クジャ様が扉の方に目をやったので、僕も合わせて扉の方に目を向けると扉がゆっくりと開きました。

 

 「お待たせ」

 「待っていたぞ」


 そこにはシノさんの姿がありました。

 どうやら最後の席の一つはやっぱりシノさんだったみたいですね。


 「陛下も人使いが荒いね」

 「悪かったよ。それよりも例の者は?」

 「ちゃんと連れてきたよ。どうぞ」


 違ったみたいです。

 どうやらシノさんは人を連れてきただけみたいでした。

 そして、その人物はシノさんに続き、中に入って来ると。


 「アンリ!」


 エメリア様が勢いよく立ち上がり、その名を呼びました。

 アンリ様は一瞬だけ顔を緩めましたが、直ぐに顔を引き締め、ゆっくりとした足取りでクジャ様の元へと近づいてきました。


 「お初に目にかかります。私がアルティカ共和国フォクシア領を治めるアンリです」


 流石に頭はさげませんでしたね。

 まぁ、それも当然ですね。

 アンリ様がクジャ様に頭を下げるという事は自分が下であると言っているのと同じになってしまいますからね。


 「俺がルード帝国帝王のクジャだ。お前の事は話に聞いている。まぁ、座ってくれ。なに、これは非公式な集まりだ。堅苦しいのはなしだ」

 「わかりました」

 「当然、俺の隣だ。いいよな?」

 「もちろんです」


 あー……あの席はアンリ様の為の席だったのですね。

 

 「お前には聞きたい事が山ほどあるが……まぁ、それは後にして今は話を先に進めよう」


 アンリ様の顔が引き攣るのがわかりました。

 クジャ様は怒っている訳ではありませんが、どうしても体が大きくてそれだけ存在感があるので怖いですからね。


 「それじゃ、僕はこれで」

 「シノ様、お待ちください!」

 「…………何かな? 僕は忙しいんだけど」

 「そう言うな。お前にも用があるからな」

 「陛下がそう仰るのなら仕方ないね」


 さり気なくシノさんがこの場から逃げようとしましたが、失敗に終わったみたいですね。


 「それで、僕になんのようかな? これでも本当に忙しいんだけど?」

 「忙しいっていいますけど、この時間は仕事がないので暇ですよね?」

 「仕事の方はね? だけど、大事な家族サービスがあるからね。その時間を無駄にしたくないんだよね」


 忙しいってそっちでしたか。

 どうやらこの時間はヒイロちゃんの面倒を見る為の時間みたいですね。


 「そう。それだ。どうして俺に娘を見せにこない? 初孫だぞ?」

 

 なんと、クジャ様がシノさんを呼び止めたのはそんな理由でした!


 「初孫って言うけど、僕は陛下の息子ではないからね」

 「そう言うな。これでも楽しみにしてたんだからな」

 

 クジャ様が楽しみにする気持ちはすごくわかります!

 ヒイロちゃんは凄く可愛いですからね!


 「まぁ、今度見せに来るよ」

 「約束だからな」

 「わかったよ。それよりも、話を進めなくていいのかい? アンリが困惑してるよ」

 「そうだったな……そういえば、お前もだったな。どうして俺に挨拶にこない? エメリアと随分と仲がいいみたいじゃないか?」


 シノさんの話がひと段落すると、今度はアンリ様へと絡み始めました。


 「いつかは挨拶に赴こうと思っていましたが、ルード帝国とフォクシアは離れている為、なかなか時間がとれず……」

 「転移魔法があるだろうが」

 「そうですが、転移魔法の使用は極力避けた方が良いかと思いまして」

 「んな事気にすんなよ。まぁ、今度からは頻繁に顔を出せ。いいな?」

 「わかりました」


 クジャ様も強引ですね。

 非公式な場と言ったからだとは思いますが、アンリ様の肩に腕を回し、話しかけています。

 傍からみると脅しているようにしか見えません。

 実際にアンリ様の顔がかなり引き攣っていますし、額には汗が浮かんでいます。

 まぁ、一応はクジャ様に認められたみたいで良かったですけどね。


 「シノ様……私にも今度娘を抱かせてください」

 「あー、うん。いつかね」

 「約束ですからね」


 あっちはあっちで盛り上がっているみたいなので、そっとしておいた方がいいですね。

 それにしても、話が随分とそれてしまいましたね。

 その事はクジャ様も感じ取ったみたいで、ここで一度休憩を挟む事になりました。

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