第626話 補助魔法使い、報告をする2

 「それにしても、随分と父上は急いでいるみたいですが、何かあったのですか?」


 僕もそれは気になりました。

 まるで砂船の完成を急いでいるように思えたのです。


 「エレンお姉様……お姉様がリアビラへと赴いた理由ですよ」

 「そうだったか? 私はてっきり護衛を兼ねた息抜きと思っていたのだが、違ったのか?」

 

 困ったように眉をしかめるエメリア様に対し、エレン様は首を傾げました。

 そういえばリアビラへと向かう時にエレン様は護衛としてついてくると言っていましたね。

 それとは別に息抜きを兼ねていたのは知りませんでしたけどね。


 「俺としては意図を汲み取って欲しかったが……エレンにはまだ早かったみたいだな」


 クジャ様もエレン様の事で苦労していそうですね。

 

 「父上、そんな事はありませんよ? これでも私は日々成長しているつもりです。それよりも、砂船の件についてです。どうして完成を急いでいらっしゃったのですか?」


 ようやく本題に戻ったみたいですね。


 「そう急ぐな。まずは確認しなければいけない事が幾つかある」

 「お姉様、リアビラの都にはお姉様も行かれましたよね?」

 「うむ。行ったぞ? それがどうかしたのか?」

 「率直な感想が欲しい。リアビラの印象はどう感じた?」

 「リアビラですか、そうですね……」


 こうみると、考え込むエレン様って凄く絵になるのですよね。

 エメリア様とはまた違ったタイプでカッコいい美人という感じが凄くします。

 

 「外壁が高く、攻めるには難しく、護るのは適していると思いましたね」

 「エレンお姉様、確かにその観点は大事だと思いますが、わたくし達が知りたいのはそこではなくて……」

 「すまない。そうであったな」


 ですが、エレン様って凄く残念な美人さんって感じが凄くするのは僕だけでしょうか?

 まぁ、人によってはそれが可愛いと思えるかもしれませんけどね。

 クジャ様とエメリア様からしてみれば困りものだと思いますけどね。

 ちなみに、僕はエメリア様の質問の意図は何となくわかりましたよ?

 そして、エレン様もエメリア様の質問の意図を汲み取ったみたいで、自信満々にこう答えました。


 「軍を展開するには砂漠の砂は障害となるだろう。まずはその対策が必要だと思う。しかし、それは相手も同じ条件であるため、外壁を利用できるリアビラ側の方が有利ではないでしょうか?」


 うん。理解できていなかったみたいですね。

 どうやらエレン様はそっちの方向に思考が向きやすいみたいですね。

 まぁ、それはそれで大事な事なので間違いではないとは思いますけどね。


 「すまないが、報告を頼む」

 「あー……はい。といっても、あまり有益な情報になるかはわかりませんが」


 僕はエレン様に代わり、リアビラの街の印象をクジャ様とエメリア様に報告します。

 といっても、本当に有益な情報を持っている訳でもないですし、事前に準備をしてきた訳でもないので、上手く纏められませんでしたが、どうにかリアビラの都の特徴とその周囲の環境を伝えました。


 「やはり輸送手段を確保して正解だったな」

 「ですが、ユアン殿の話からすると、リアビラの都を手にするのは厳しそうではありますね」

 「しかし、あの場所は捨てるのは惜しい。どうにかならないだろうか?」


 僕の報告を聞いたエレン様とクジャ様が話合っています。

 どうやら欲しがっていた情報は合っていたみたいです。

 

 「あの、やっぱりリアビラは欲しいのですか?」

 「そうですね。あの場所は砂漠の最大都市ですので、手に入れられるのならば手に入れておきたい所です」

 「今はがら空きだからな」 


 なるほど。

 それで砂船の増船を急いでいるのですね。

 どうやら、クジャ様達は、リアビラの都へと兵を送り、リアビラの都を占領するつもりでいるみたいです。

 ですが、問題はリアビラの都が崩壊の危機にあるという事ですね。

 それをどうにかならないかと悩んでいるみたいです。


 「えっと、一応どうにかならない事もないみたいですよ?」

 「それは本当ですか?」

 「はい。ですが、その方法は特殊なので協力するかは悩んでいます」

 「つまりは条件次第という事だな?」

 

 そうなりますかね?

 

 「その条件を聞かせて頂けますか?」

 「条件って程ではないですけど……リアビラの都をとるのは構いませんが、その先に戦争が起きたりしないか心配なのです」


 がら空きになったからといって、元はリアビラ国の所有地ですからね。

 そこをルード帝国が奪うとなれば、当然反発は生まれる事は予想できます。

 何せ、リアビラの都で暮らしていた王様はまだ健在みたいですからね。

 都が大丈夫だと思ったら絶対に返せと言ってくるに決まっています。

 となれば、当然穏便にはすみませんよね。


 「なので、もし戦争に繋がりそうなのであれば、僕は協力できませんよ」


 戦争を体験したからわかります。

 あんな無駄な事、もう僕はしたくありません。

 ましては戦争が起きるきっかけに加担するなんて考えられませんからね!


 「ユアン殿の気持ちはわかります。ですが、これには理由もあるのです」

 「理由ですか?」

 「はい。リアビラの都は首都であると同時に交易の中継地点でもありました。そして、その中継地点が途絶えた今、各街で深刻な物資不足に陥っているのです」

 「そうなんですか?」

 「そうなんだよね。アーリィを通じてナナシキにも支援要請が来てるくらいだからね」


 そうだったんですね。

 そんな話は全く知りませんでした。

 これは僕が政治に関わらないからこうなっているのですね。


 「ユアン、また今度勉強をしましょうね」

 「朝から晩までみっちりローゼに教わりなさい」

 「じ、時間がある時に、お願いします」

 「楽しみにしてるわ」


 僕は楽しみではないですけどね。

 何せ、ローゼさんとの勉強は凄くハードです!

 頭を使いすぎて夜に眠れなくなるほどになりますからね!

 まぁ、それくらいしなければ上に立つ人間としてやっていけないという事なので仕方ないと思いますけどね。

 ですが、そういう理由があるのであれば、仕方ありませんね。


 「わかりました。戦争を出来る限り避けて貰えるのであれば協力します」

 「ありがとうございます。これで助かる人々が増えるでしょう」

 

 戦争は嫌ですが、今動かないと生活に困る人がいるのも事実ですからね。

 ならば目先の事をまずやる事が大事だと思います。

 もちろん、残酷な考え方をするのであれば、戦争に発展する可能性を天秤にかけて動かない手もありますけどね。

 ですが、僕の中でそれはありえません。

 これは僕が甘いだけかもしれませんが、命というのはみんな平等で切り捨てていい命はないと思うのです。

 重大な罪を犯すような犯罪者は別ですけどね。

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