第624話 補助魔法使い、緊張する

 「はぁ……」

 「大丈夫?」

 「大丈夫じゃないですよ。むしろ、どうしてシアさんは平気なのですか?」

 「私はただの付き添いだから。特にやることはない」

 「羨ましいですね……」


 カバイさんに孤児院のお手伝いをお願いし、快く引き受けて頂けた翌日の事、僕達の元にとある方から、連絡が届きました。


 「それにしても急すぎませんか?」

 「そうだね」

 「緊張しますね……」


 キアラちゃんは僕と同じでかなり緊張しているみたいです。

 これが普通ですよね?

 なにせ、これから起こる事はとてもお腹が痛くなりそうな事ですからね。


 「でも、ユアンのドレス姿をまた見れて嬉しい」

 「久しぶりでもないですけどね」

 「それでも。普段のローブ姿も似合うけど、ドレスも似合うから好き」

 「似合ってますかね?」

 「うん。凄く」


 シアさんに褒めて貰えるのは嬉しいですけど、個人的にはドレスは苦手です。

 だって、ドレスを着るという事は着なければいけない場所に行くって事ですからね。


 「失礼致します。準備が整いましたので、どうぞこちらに」


 やっぱり帰っちゃダメですかね?

 そう思い、さり気なく転移魔法で逃げてみようかと思いましたが。


 「ダメ。これは大事な仕事」

 「……何もしてませんよ?」

 「ならいい。だけど、冗談でもダメ」


 シアさんに腕を掴まれてしまいました。

 なら、せめてトイレに……。


 「ほら、待ってるから行くよ」

 「トイレはさっき行ったばかりですよね?」


 とキアラちゃんに反対の腕を掴まれ、スノーさんさんに背後をとられてしまい、逃げ場を失ってしまいました。


 「に、逃げないですよ?」

 「逃げるつもりがない人がそんないい訳しないと思うの」

 「キアラの言う通りだね」

 「大丈夫。私が責任もって連れてく」

 「あっ、ちょっと引っ張らないでください!」


 結局、僕はみんなに囲まれ、絶対に逃げられないようにされ兵士さんの後に続き、部屋へと案内されました。

 

 「緊張します」

 「緊張する必要ない。ここに来るのも二度目」

 「何度来ても緊張しますよ」


 僕たちが案内された場所は確かに前に来たことある場所でしたが、何回も訪れた事がある場所だとしても絶対に緊張する場所ってありますよね?

 未だにフォクシアのお城だって緊張しますし、それと同じでこの場所だって慣れる事はないと思います。

 何せ、僕たちが待たされている部屋の中に居るのは……。


 「エメリア様、お連れ致しました」

 「ご苦労。後は、私達がもてなしますので、下がってください」

 「はっ!」

 

 兵士さんが僕たちに頭をさげ、僕たちの前から立ち去り、目の前の強固な扉が開くと。


 「どうぞお入りください」


 中には第二皇女のエメリア様の姿と。


 「久しぶりだな。待っていたよ」


 第一皇女のエレン様。


 「何をしている。早く入れ」

 「はっ、はい!」


 ルード帝国の皇帝陛下であるクジャ様が玉座に鎮座していました。

 そうなのです。

 僕たちがやってきたのはルード帝国のお城だったのです。


 「えっと、この度は……」 

 「そのような前置きは不要ですよ。どうぞお掛けになってください」

 「で、ですが……」

 「構わないわよ。とりあえず、私の隣にでも座りなさい」

 「あっ! ローゼさんも居たのですね!」

 「今頃気づくって、どんなけ緊張してるのよ」

 

 手招きするローゼさんの隣へと座ると、呆れたようにフルールさんからそんな事を言われてしまいましたが、仕方ないですよね?

 ここは玉座の間ですので、凄く広いですし、中に入ると真っ先に目に入るのは存在感のあるクジャ様の姿ですからね。

 それに、最低限の礼儀は必要となるので、その事で頭いっぱいですし。

 まぁ、結果的には礼儀どころの話ではなくなってしまいましたけどね。


 「ですが、ここって玉座の間ですよね? そんな、集まって良かったのですか?」


 ローゼさんの隣に座り、みんなが席につくまでに時間が少しあったので、今のうちに気になった事をこっそりローゼさんに聞いてみました。


 「話の漏洩を防ぐためよ。ここ以上に適した場所はないでしょうからね」


 それなら納得しました。

 お城という事はそれだけ色んな所に人がいますからね。

 もちろん、応接室や食事をするような場所などは別にあり、そちらも盗み聞きされないように対策はされているとは思います。

 ですが、玉座の間というのは王様の為の場所であるため、一番安全で確実な方法をとったのではないかとローゼさんは言いました。


 「お前たちも座っていいぞ」

 「私はいい」

 「私もただの付き添いだから遠慮するわ」


 みんなが席につく中、シアさんとフルールさんはクジャ様に席に勧められても席にはつかず、それぞれ僕とローゼさんの後ろに立ちました。

 本当は隣に座って欲しいと思いましたが、こうなってみるとシアさんが後ろに居てくれるのは安心できますね。

 常に見守ってくれているように思えますからね!


 「それよりも用件は? こうみて忙しいのだけど?」

 「そう急かすな。とりあえず茶でも飲め」


 ローゼさんも凄いですね。

 クジャ様が相手にも怯んだ様子を一切見せません。これが僕との経験の差なのでしょうか?

 しかし、それよりも驚いたのが……。


 「どうぞ」

 「ありがとうございます……」


 これも情報の漏洩を防ぐためでしょうか。

 何と、お茶を配ってくれたメイドさんは龍人族の方だったのです。

 クジャ様が龍人族という事は知っていましたが、まさかメイドさんにまで龍人族の方がいるとは想像もしていませんでした。

 それに対し、ローゼさんも気にしていないという事はローゼさんも知っていたという事ですかね?

 それともただ気にするような事ではないと思っているのか……。

 後で聞いてみたい所です。


 「茶は行き渡ったな?」

 「まだじゃない? 空席があるみたいだけど?」

 

 空席?

 あっ、本当ですね。

 クジャ様の存在感が大きすぎて気づきませんでしたが、クジャ様の隣の席は空いていました。

 ちょうどエメリア様とクジャ様の間の席が空いていたのです。

 

 「そこは気にするな。後で紹介する。尤も、お前たちも知っている奴だがな」


 お前たちという事は、僕もローゼさんも知っている人という事ですかね?

 共通な知り合いとなると結構多いので絞り切れませんが……クジャ様の隣に座れるような人となればシノさんあたりですかね?

 

 「では、始めようか。同盟国の会議を」


 そして、お茶を飲んで一息ついたのも束の間、ついに始まってしまいました。

 ルード帝国を中心としたこれからの事を話合う重大な会議が。

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